第269話 終
【 慎太郎・楓・アリス 組 2日目 PM 5:59 プラットフォーム 】
王武たちと別れた俺たちはホームへと急ぐ。すると王武の言う通り本当に電車があった。
「本当にありましたね。」
「そうだな。建物の荒れ具合とは対照的に最新鋭の特急電車みたいな出で立ちだな。」
ーーそこにある車両は現実世界にある新幹線に似たようなものであった。駅自体は朽ち果てているのにも関わらず機体は最新鋭。何とも不思議な話だ。
「想像よりも車両数が多いですね。私としては1両編成をイメージしてました。」
車両数は確かに多い。俺も楓さんの言う通り1両ぐらいしか無いだろうと思っていたがまさかの10両編成だ。他にも乗客いるんじゃないだろうな。
「とりあえず乗りましょうか。俺たちだけかもわからないから用心しましょう。」
「ええ。」
「はい!」
俺たちは細心の注意を払いながら電車へと乗り込む。車内は外装と同様に綺麗なものであった。座席もキチンと清掃が行き届いているし、窓もピカピカだ。一体誰が掃除をしてるんだろう。
「この車両には誰もいないようですね。」
楓さんが言うので俺も周囲を見渡すが確かに誰もいない。他の車両はどうなのだろうか。車両番号は”4”と記されている。他の車両も見に行くべきだろうか。
ーーだが慎太郎が考えている間に発車時刻となり、電車が動き出す。
「時間か。とりあえず座席に座りましょうか。」
「そうですね。」
「俺は立ってるんで楓さんはアリスと一緒に座って下さい。座ったらトラップが発動するパターンでも俺が解除出来ますし、座らないとトラップが発動するパターンでも楓さんが解除出来ます。」
「わかりました。じゃ、アリスちゃん、一緒に座ろうか。」
「はい!」
楓さんとアリスが座席に腰掛けるが…特に何かが起きる感じでもない。立っている俺の体も普通だ。
「…何も起こりませんね?」
「トラップは無かったみたいね。」
「それでも俺は立ってますよ。油断はしない方が良いと思うので。」
「ありがとうございまーー」
ーー楓が感謝を述べ用とした時、車内にアナウンスが流れる。
『下りに乗られるお客様が参りましたのでペナルティーが発動致します。エリア内にゾルダート、フェルトベーベル、ゲシュペンストを配置致しました。また、列車内はスキル禁止の効果が発動致しました。大変危険ですのでご注意下さい。』
「…マジかよ。」
「タロウさん、先頭車両に急ぎましょう。挟まれたら戦況は悪くなります。」
「そうですね。急ぎましょう。」
俺たちは先頭の1号車へと向かう為駆け足で3号車へ移動を開始する。だが、
ーーガララッ
「…行動早すぎじゃね?張ってたんじゃねぇの。」
3号車からゾルダートとフェルトベーベルが4号車へとなだれ込んでくる。
「仕方がありません。最後尾へと撤退しましょう。」
「そうですね。アリス、俺から絶対離れるなよ。」
「はい!」
俺たちは先頭車両へ行くのを諦め、最後尾へと進路を変更する。だが、
ーーガララッ
5号車からもゾルダートとフェルトベーベルがなだれ込んでくる。
「…マズいな挟まれた。」
「私が戦います。タロウさんとアリスちゃんは座席側に入っていて下さい。」
「俺も戦います。この数相手じゃいくら楓さんでもキツいです。」
「ゼーゲンを持っていないアリスちゃんではゾルダートの一撃を喰らうだけでも死に繋がります。タロウさんはアリスちゃんを守っていて下さい。」
「…わかりました。でもヤバくなったら参戦しますからね。」
ーー楓が軽く慎太郎へと振り返り微笑むと、それを合図にゾルダートたちへと斬りかかる。スキルは使えなくても2段階解放ゼーゲンによる身体能力の大幅上昇により楓はゾルダートを圧倒し、眼前に迫るゾルダートに対し、ゼーゲンを一振りするだけで沈黙させる。一体葬る毎に背後を振り返り、一体、また一体と楓たちへ迫るゾルダートを斬り伏せていく。だが、狭い通路による状態の悪さの為エンゲルを使っての多数一掃は出来ない。基本的に前後の敵を一体ずつ倒すしか無いのが楓はもどかしかった。
「チッ…!しつこいわね…!!」
ーー楓が多数の敵を斬り裂いてはいくが数は一向に減らない。無数に湧くゾルダートたちとの持久戦に終わりが見えない中で確実に楓の体力は削られていた。いくら楓が強いといっても体力は無限では無い、有限なのだ。何れは力尽きる。
ーーそして、ゾルダートを200体ほど葬った所で楓の体力に限りが見え始める。
「はあッ…はあッ…!!」
ーー明らかに動きが鈍く、剣速にも衰えが見え始めていた。
対するゾルダートたちの数は減っているように見えない。依然として車両内にはゾルダートたちが敷き詰められていた。
「…マズい。楓さん1人じゃいくらなんでも無理だ。俺も参戦する。アリスはここから動くな。いざとなったら魔法で俺たちごと吹っ飛ばせ。」
「で、でもそれじゃタロウさんと楓さんが!?」
「どの道このままじゃやられる。頼んだよ。」
「タロウさん!?」
ーー慎太郎が楓と背中合わせになり、眼前のゾルダートを斬り倒す。
「楓さん、すみません。あなたがやられそうなのに見てられませんでした。約束破った罰は後で受けます。」
「はあっ…はあっ…ウフフ、後でたっぷりとオシオキですね。」
ーー慎太郎と楓は互いに一瞬だけ目を合わせ、すぐさま眼前の敵へと視線を戻す。
「こっちは任せて楓さんは体力回復に努めながら戦って下さい!」
「了解!」
ーー慎太郎が加わった事により盛り返し始める。楓の負担が相当に減り、失われた体力も僅かながら回復し始めていた。2人を見守るアリスから見ても押し切れる、そう思っていた矢先に事態はさらに悪化する。
『イヒヒヒヒヒヒヒヒ…!!!』
ーーゲシュペンストが3体、4号車内の攻防戦に参戦する。
「はあっ…はあっ…マジかよ…いくらなんでもキツすぎだろ…」
「はあッ…はあッ…」
ーー3人の脳裏に絶望が過ぎる。
万全な楓ならゲシュペンストを葬る事なら容易い。だが体力の失っている楓では勝機は極めて低いだろう。それにそれは1対1での話。相手は3体いるのだ。万全な楓でも勝機は薄い。慎太郎に至っては1対1でもゲシュペンストには敵わない。勝敗は明らかであった。
「アリス!!俺たちごと吹っ飛ばせ!!」
「そ、そんな!?それじゃあ!?」
「大丈夫よアリスちゃん。私たちは何とかするから。」
「でもっ!!でも!!!」
「どっちみちこのままじゃ全滅だ!!ならば賭けるしかない!!」
「でも…!!」
ーーアリスは魔法の威力を良く知っている。使えば間違い無く敵を一掃出来るが、慎太郎と楓も死ぬ。結末が分かっているのにそれを放つ事は出来ない。アリスの手足は震えていた。
「リーダーは念の為牡丹へ譲渡するって念じたから多分大丈夫だ。」
ーーそんな事はどうだっていい。2人がいなければ私は…
「アリス、お前と過ごした日々は楽しかった。ありがとう。」
「ウフフ、またね、アリスちゃん。」
「そんな…嫌だ…嫌だ…」
「放てアリス!!!」
ーー慎太郎の命令にアリスは泣きながら震える手を抑えてマヌスクリプトを開き魔法の詠唱を、
「ーー壱ノ剣、紅玉ノ華。」
ーー車内に満ちるゲシュペンストたちの身体に紅いエフェクトが弾け飛ぶ。その絶対的なまでの火力により車内全ての敵たちの身体が爆散した。たったの一撃で。
「この技は…」
ーー慎太郎が気配のする後方車両を確認するとフリーデンを解放している牡丹と、ドヤ顔でいる美波がそこに立っていた。
「牡丹!!美波!!」
ーー慎太郎に呼ばれると一瞬の内に牡丹は慎太郎との距離を詰める。
「はい、あなたの牡丹です。お怪我は御座いませんかタロウさん。」
「なんとかな。マジで助かった。ホントにヤバかったから。ありがとう牡丹。」
ーー慎太郎は牡丹の頭を撫でる。牡丹は悦に浸る。安定の光景だ。
「牡丹ちゃん、ありがとう。本当に助かったわ。」
「いえ、楓さんもご無事で何よりです。」
「牡丹さん!!」
ーーアリスが牡丹へと抱きつく。
「もう…ダメかと思いました…」
「もう大丈夫ですよ。安心して下さい。」
ーー牡丹がアリスを撫でて落ち着かせる。
「はあー…でもホント…安心したわー…ん?どうした美波?」
美波がドヤ顔でそこに立っている。なんだ?
「タロウさんっ!!美波成分は空ですかっ!?」
「は?美波成分?」
「牡丹成分も空ですか?」
「は?牡丹成分?え、何言ってんの。」
美波と牡丹がドヤ顔で意味不明な事を言っている。
「タロウさんは私たちがなかなか見つからなくて不安に思っていました。つまりはどんどん成分が不足していたんです。そして今、この窮地に私たちを見つけたら成分を補給したくて堪らなくなっているんじゃないですかっ!?」
「ふふふ、タイミングが絶妙でしたからね。」
「タイミングが絶妙?なかなか見つからなくて不安にって…え?なんで知ってるの?」
「後ろから見てましたからっ!!」
「後ろから見ておりました。」
ーー2人の言葉に楓とアリスは全てを察した。そして慎太郎も。
「…美波、牡丹。」
「はいっ!!なんですかっ?」
「はい、あなたの牡丹です。」
「正座。」
「「え?」」
「正座。」
ーー慎太郎がめっちゃ怖い顔をしている。
空気を察して美波と牡丹が正座をする。
ーー慎太郎の説教が始まる。
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