第268話 駅

【 慎太郎・楓・アリス 組 2日目 PM 5:45 廃都市 】



「話が脱線しちまったけど質問いいか?」


「どうぞ。」


「ゲームクリアした連中が”ヴェヒター”ってのはわかった。でも不思議なんだけどクランメンバーはどうなったんだ?まさか7人全員が同じクランじゃないんだろ?それとも今回からクランが導入されたのか?」


「すみません、それについては僕も知らないんです。ですが、クランメンバーの中で1人しか残らない訳ではありません。クランメンバー全員がクリアとして扱われるのは確かです。もしかしたら”リッター”が他のメンバーなのかもしれませんね。」


やっぱりタラオもそう思うか。俺自身も”リッター”が他のクランメンバーじゃないかって思ったんだ。それなら自分でリッターを選べるってのにも合致する。だがそうなると何で”ヴェヒター”や”リッター”の奴らはこのゲームからの解放を望まなかったんだ?少なくともクリアをしたのなら過去を変えられた可能性は極めて高い。クリアした者にはどんな願いでも叶えてもらえる権利が生まれるならまず間違いなく過去を変えられる。それなのになぜ?考えても答えに行き着かない。


「ねぇ、王武くん。そろそろここから動いた方が良くない?誰かに見られていた可能性もあるし、誰かが来るかもしれない。先に進みながらでも情報交換は出来るでしょ?」


ーー留美が王武へそう進言する。


「そうですね。芹澤さんたちもそれで良いですか?」


「私たちは構いません。」


「では先に進みながら話しましょうか。」


「えっと、天栄君ーー」

「王武でいいですよ。田辺さん。」


俺がタラオに話しかけようとしたらタラオはそう返して来た。距離詰めるの早えな。これが陽キャラの実力か。


「じゃあ俺もタロウでいいよ。」


俺もタラオと同じように返す。ブサメンのくせに同じように返す。


「わかりましたタロウさん。それで、何かありましたか?」


「いや、目的地も決まってないのに歩き始めるからドコへ行くのかと思って。」


「すみません、説明してませんでしたね。僕たちは先程の戦いの時にこの廃都市内を動き回りました。その時に駅を見つけたんです。」


「駅?」


「はい。そして中には電車が停まってました。」


「まぁ、駅なら電車が停まっててもおかしくはないんじゃないか?」


「いえ、その電車は動いたんです。」


「…どういう事だ?」


「不思議に思ったので時刻表を確認したら電車が動いた時間と同じ時間に記載がありました。恐らくその電車に乗れば違うエリアへと移動が出来るのだと思います。」


「なるほど。だから洞窟内にプレイヤーが少なかったのか。もう一つ別エリアがあるってんなら納得だ。じゃあ駅に急ごう。次の時刻は覚えてないよな?」


「夕方6時に最終があります。ですが、上りと下りの両方あるんです。」


「そういうパターンか。」


「二手に分かれてみませんか?効率を考えればその方が良いと思います。」


どうする。確かにタラオがまだ敵じゃないって決まったわけじゃない。それならここで分かれた方が得策か。何れにしても俺たちは牡丹と美波を探さないといけない。ここでタラオとは分かれよう。


「楓さん。」


「私も同意見です。」


おぉ…!流石は楓さん。言わないでも俺の気持ちは伝わってるのか。もうこれって夫婦じゃね?ツーカー的なアレだろ。


ーーツーカーは古いぞ慎太郎。


「アリス。」


「私もです!」


フッ、流石だなアリス。アリスは俺の家族だもんシンクロして当然だ。


「わかった。二手に分かれよう。先ずは出発だ。道案内頼んだぜ王武。」




********************




【 慎太郎・楓・アリス 組 2日目 PM 5:55 駅 】



タラオの案内で廃駅へと辿り着いた俺たちは待合室付近へと陣取る。

ここへ向かう間に俺たちは少しの情報交換を行った。ぶっちゃけ情報に疎い俺たちにとっては手持ちのカードは少なかったのだが、そこは楓さんの手腕が光った。さも手札がたくさんあるかのように振る舞い、俺たちにとってデメリットにならないような”闘神”に関しての情報を差し出した。

対するタラオたちが出して来た情報は現実世界でのプレイヤー狩りが行われている事についてだ。現実でスキルは使えないらしいが、力づくでプレイヤーを殺したり、奴隷にしたりしているとの事だ。そんな事を聞いたらみんなを一人で出歩かせられねぇぞ。アリスは当たり前だが、楓さんも牡丹も美波もスキルが無ければただの女の子だ。俺がみんなの送り迎えしなきゃダメじゃないか?これは結構本気で考えないといかんな。


「そろそろ時間ですね。芹澤さん。上りと下り、どちらへ向かわれますか?」


「私が選んで良いのですか?」


「当然ですよ。レディーファーストです。」


…なんか気にいらねぇな。いや、いかん。いかんぞ、慎太郎。それじゃまるで醜男が妬んでるみたいじゃないか。クールだ。クールになれ。


「ありがとうございます。では、上りを行かせてもらいます。」


楓さんが俺とアリスに目配せをしてくる。どっちを選んでも大差ないだろうが気分的に上のがいいだろ。楓さんの選択は妥当だ。


「わかりました。僕たちは下りに乗ります。もし、このエリアでもう合流出来なくても、また出会う事が出来れば同盟は継続しませんか?僕としては芹澤さんたちとは戦いたくありませんので。」


「もちろんです。こちらこそ是非お願いします。」


「良かった。それじゃーー」

ーー楓さんたちが話していると構内にアナウンスが流れる。



『間も無く、上下線の最終列車が発車致します。お乗りの方はホームへお急ぎ下さい。』



「…時間ですね。では皆さん、また会いましょう。」


「はい。そちらも御武運を。」


俺たちは待合室で二手に分かれた。

タラオとの出会いは収穫が多かったと思う。信用出来ない点は多いが差し引きでプラス。あとは牡丹と美波を見つけるだけだ。なんとか無事でいてくれ。












「王武くんでも嘘を吐くのね。」


「嘘ですか?」


「下りはもう私たちが確認済みじゃない。意図的に上りに行かせたんでしょ?」


「あはは、留美さんには敵わないな。」


「でも王武くん凄いよね〜、どうやって芹澤たちに上りを選ばせたの?」


「簡単な事だよ。上りと下りなら人は上りを選びがち。下というのは良い響きじゃないからね。特に芹澤さんのようにプライドの高そうな人は尚更。」


「だから下りから調べたの?」


「そうだね。こうなる事を想定してだよ。」


「頭イイ〜★」


ーー結華が王武の腕に抱きつく。


「それにもう一つ嘘を吐いたよね。」


「そうでしたか?」


「クリアの話よ。最終的にクリアまで行けるのは一つのクランのみ。それ以外は全てゲームオーバー。それを伝えなかったじゃない。」


「あはは、だってそれを教えたら同盟には乗って来ないかもしれないじゃないですか。蘇我さん、島村さん、矢祭さんは非常に厄介です。彼らを始末するには芹澤さんにも動いてもらわないと。」


「でも王武くんと結華たちなら他の”五帝”にも負けないよ。」


「結華。僕は結華と留美さんが大切だ。万が一にも死ぬなんて事はさせない。その為に芹澤さんたちを使うんだよ。彼女たちには駒となってもらう。僕は結華と留美さんが無事ならそれで良い。」


「王武くん…」


「ありがとう、王武くん。絶対に勝ち残りましょう。」


「はい。さて、芹澤さんたちは上りに行って生き残れるかな?生きてても死んでても僕たちにはメリットしか無いけどね。あはは。」


ーーそれぞれの思惑が交錯する中、舞台は車内へと移る事となる。

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