第258話 カン

【 慎太郎・楓・アリス 組 2日目 AM 11:43 洞窟 】



「もうそろそろお昼になりますね。」


楓さんが口を開く。スマホを取り出し時間を確認する。もうこんな時間だ。慎重に洞窟内の探索を行なっている為、かかった時間の割にそこまで移動距離は稼げていない。

そして何よりも…考えないといけないな。


「そうですね。休憩しましょうか。そして休憩が終わったら方針を変えましょう。」


「方針ですか?」


アリスが不思議そうな顔で尋ねてくる。


「ああ。俺は牡丹の性格は良く理解してるつもりだ。俺がのんびり進もうと言ったのは希望的観測で言ったわけじゃない。牡丹なら間違い無く来ると思って言ったんだ。その牡丹が来ないって事はただ事じゃない。牡丹と美波に何かあったんだ。捜索をしよう。」


「同感ですね。私も何か嫌な予感がします。」


楓さんが俺の意見に同意する。

やはり楓さんも嫌な予感がするか。俺もさっきから不安で仕方がない。もっと早くに動き始めるべきだった。俺の失策だ。


「それなら早く捜索した方が良いと思います!手遅れになったら…美波さんと牡丹さんが…」


「私もそう思います。2人を探しましょう。」


「わかりました。行きましょう。アリスは俺がおんぶするよ。これは戦略的に見ての考えだ。だから遠慮はしないでくれ。」


「はい!」


「問題なのはドコから探すかですね。」


そう、楓さんの言う通りだ。

この洞窟内は最初こそ一本道だったが、進むにつれて多くの分岐が出て来た。今も4つの道がある分岐点に差し掛かかっている。美波と牡丹がいるであろう道を進まなければ意味が無い。どの道を選ぶべきか…カンとフィーリングで行くしかないかな。


「カンで選ぶしかないですか…?」


「そうね。何か手掛かりがあるわけでもないし…やはりカンかしら。」


「うーん…」


「どうかしましたか?」


俺が唸っているとアリスが声をかけてくる。


「いや、カンっていうならどの道にもいないような気がするな。むしろ来た道の方から感じるというか、近くにいるような気がするっていうか。」


ーーはい、当たり。


「それじゃあ戻った方がいいんでしょうか?」


「それは止めよう。俺の根拠のないカンだし。それに長い目で見ればこういう迷路みたいもんは壁伝いに歩けば必ずゴールにたどり着くんだよ。だから進んでいけば必ず2人に会えるさ。」


「そうなんですか?やっぱりタロウさんは物知りです!凄いです!」


アリスが尊敬の眼差しで俺を見る。そんな目で見られるとちょっと嬉しいな。


「そんな事ないよ。知ってるやつの方が多いって。」


「そんな事あると思いますよ。私も知りませんでしたから。タロウさんって知識が豊富ですよね。尊敬します。」


楓さんも関心したような目で俺を見る。こんな高学歴美人に認められるとなんか嬉しいな。無駄知識ばっかり溜め込んで来て良かった。


「ありがとうございます。褒められると嬉しいですね。話が逸れちゃったけど道を決めましょうか。多数決にします?それとも『いっせいのせ』で指差して決めますか?」


「せーの、でいいんじゃないですか?」


「私もそれで良いと思います!」


「じゃあ決まりですね。もういっちゃっていいですか?」


「ええ。」

「はい!」


「おし。じゃ、いっせーのせ!」


ーー慎太郎たちが同時に指を指す。その指は全員が綺麗に同じ方角を指していた。


「スゲ!みんな右側の道ですね。」


「ウフフ、相性抜群ですから♪」


「ふふふっ、本当ですね!」


「満場一致なら文句無いな。向かいましょう。牡丹と美波を探しに!」


ーー慎太郎たちが絆を深め合いながら歩みを始めていった。




ーー




ーー




ーー





【 美波・牡丹 組 同刻 慎太郎たちから200m地点後方 】



「ふふふ、タロウさんは私を感じてくれているのですね。」


ーー牡丹がご機嫌でニコニコしている。あんな事ぐらいで喜ぶなんてチョロい女だ。


「ふっ、これはタロウさんも美波成分が不足してきた証拠だよ。」


「そうなのですか?」


「うんっ。成分が不足しているからこそ早く会いたくなる。だから第六感が働いて私たちの気配を感じるようになるんだよっ。」


『……。』


「なるほど。言葉の意味がよく分かりませんが師匠が仰っているのなら間違いありませんね。」


『……。』


ーーノートゥングは思った。

『コイツらもう駄目かもしんない。』

と。


「さっ!後を追いましょう。陥落させるまでもう少しよっ!」


「あ、待って下さい。」


「ん?どうしたの?」


「これ以上は邪魔なので始末しようかと思いまして。幸いタロウさんたちが動いて下さいましたので。」


「どういう事…?」


『フッ、流石だな花の娘よ。気づいておったのか。』


「えっ?何が?」


「2時間ぐらい前から私たちの後方に誰かおります。気配を消しているので気づきにくいですが私は男性が間合いに入ると嫌悪感を覚えるので気付きました。」


「全然わからなかった…流石は牡丹ちゃん。でも気配を消すなんて事ができるなら…」


「はい、なかなかの手練れかと思います。」


「…そうなるよね。」


『向こうも気づいたようだ。気合いを入れていけよ。』


ーー美波と牡丹、ポンコツ同盟の野望を成就する為、慎太郎たちに見つからないよう、ひっそりと戦うバトルの幕が開けた。

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