第255話 同盟
【 美波・牡丹 組 1日目 PM10:32 洞窟 】
「邪魔です。」
遭遇したプレイヤー2人を牡丹ちゃんが斬る。その剣速の速さにスキルを使う事も出来ずにプレイヤー2人が牡丹ちゃんの前に屈した。
これで7人目。牡丹ちゃんは開始から1時間半程で7人のプレイヤーを倒した。20のクランが集まっている事を考えればおよそ100前後のプレイヤーがいると思われる。このペースなら丸一日で全滅させる勢いだ。それで気づいたけどサブスキルの導入は確かにリセットをかけるに近い行為だとは思う。だけど知能が低い人にとってはメインスキルの実力差は覆せないんじゃないかな。だって作戦を立てるクレバーさがなければサブスキルの力を発揮させる事なんて出来るわけないんだし。さっきから私たちが遭遇する連中を見ても、牡丹ちゃんの先制攻撃にまるで対応出来てないもの。知性、これが相当に重要なのは確かだ。牡丹ちゃんが暴走している以上は私がなんとかしないと。
それとは別に他にも気になる事がある。さっきタロウさんたちが敵プレイヤーを3人撃破したという通知が来た。それ自体は喜ばしい事なんだけどそれ以外の撃破通知が来ない。それが引っかかるのだ。まだ他のプレイヤーは交戦していないのか。それともクラン内にしか撃破通知は来ないようになったのか。だがこの前通知が来ると決まったばかりなのにクラン内にしか通知がいかないなんてあるのだろうか。もしも大半のクランが様子見をしているのならトラップが各所に仕掛けられている可能性が高い。早くタロウさんたちと合流して対策を練らないと。まだ遠いのかなぁ?牡丹ちゃんならわかるかなぁ?いくら何でもわからないよね。でも聞くだけ聞いてみようかなっ。
「ねぇ牡丹ちゃん。」
「なんでしょうか?」
ーー牡丹は早歩きのまま顔だけを美波に向けて返事をする。
「タロウさんの所まではまだ遠いのかな?流石にわからないよーー」
「ーーこのまま行けば2時間程で合流出来るかと思います。匂いの強さから算出したので間違い無いかと。」
「そうなんだねっ!ふふっ、早く合流したいねっ!」
ええっ…わかるんだ…クンカーのランクは絶対にマスタークラスだよね…流石にちょっと引いちゃったかも…
ーー自分はレジェンド級のクンカーのくせによく言うわ。
でもあと2時間ぐらいでタロウさんたちと合流できるなら良かった。タロウさん成分が足りなくなっちゃうもんねっ!……タロウさんも美波成分が足りなくなっちゃってるかな…?もし…もしもだけど…タロウさんも美波成分が足りなくなってたら…そんな状態で私と会ったら…
ーー
ーー
ーー
【 美波's妄想ストーリー 】
『美波…ちょっとこっちに来てくれ…』
『はいっ!』
ーー慎太郎が牡丹たちを残して美波を暗がりへと連れて行く。
『どうしたんですかっ?』
『美波…もう我慢出来ない…』
『えっ…?きゃっ…!!』
ーー慎太郎が美波を強引に引き寄せ抱き締める。
『たっ、タロウさんっ!?』
『もうダメだ…美波成分が不足し過ぎておかしくなりそうなんだ…匂いを嗅がせてもらうからな…』
ーー慎太郎が美波の服の匂いを嗅ぎ始める。
『だっ、ダメですよっ…!!』
『こんなもんじゃダメだ…直嗅ぎさせてくれ…』
ーー慎太郎が美波のシャツの襟首を強引に伸ばして首元から胸付近の匂いを嗅ぎまくる。鼻を擦り付けて嗅ぎまくる。
『だっ、ダメぇ…!!それは結婚してからじゃないと…ダメですぅ…!!』
『じゃあ結婚しよう。俺の正妻は美波だけだ。毎日美波成分を補給させてくれ。』
『それならいいですよっ!!私もタロウさん成分を毎日補給させて下さいねっ!!』
ーー
ーー
ーー
…みたいな事になっちゃうんじゃないかなっ!?
ーーなるわけねーだろ。
そうよね。そうだったのよ。タロウさんに美波成分を不足させる必要があったんだわ。そうすれば耐えられなくなって襲いたくなるはず。間違いないわ。だって私は毎朝襲いたくなるんだから。必要なのは距離だったのね。押してダメなら引いてみろってやつなのよっ!!そうとわかればやる事は簡単だわ。
「牡丹ちゃん。」
「なんでしょうか?」
ーー牡丹は先程と同様に首だけ美波の方へと傾ける。
「タロウさんと合流するのはやめよう。」
「はい?」
ーー流石の牡丹の足もとうとう止まる。
「何を仰っているのですか?タロウさんと合流しないのでしたら私に生きる意味はありません。」
ーー美波の発言により牡丹から危険な空気が出てくる。慎太郎が絡むと例え美波相手にでも牡丹は人格が変わるのである。
「ふっ、牡丹ちゃん、甘いわね。」
「何がでしょうか?私は早くタロウさんと合流したいのです。こんな無意味な話でしたら切り上げさせて頂きます。」
ーー牡丹が歩き始めようとした時、
「ーー押してダメなら引いてみろ。」
ーー牡丹は足を踏み出すのをやめる。
「…どういう意味ですか?」
「私も牡丹ちゃんもタロウさんの事が大好き。それは間違いないわよね?」
「当然です。」
「でもタロウさんは靡いてくれない。それも間違いないわよね?」
「…はい。」
「それには理由があったのよ。」
「理由ですか?」
「ええ。それはね、タロウさんには美波成分が足り過ぎていたのよっ!!」
「…はい?」
ーー牡丹が『何言ってんだこいつ』みたいな目で美波を見る。
「牡丹ちゃんは今イライラしてるわよね?」
「しております。」
「それはどうして?」
「タロウさんがいないからです。」
「つまりそれはタロウ成分が足りないからよね?」
「…そうなりますね。」
「成分が足りないとイライラする。そして成分が足りていればイライラはしないわ。それは当たり前の話。」
「すみません。美波さんが仰りたい事がわからないです。」
「牡丹ちゃん。タロウさんはいつも私たちの成分で満たされているわ。でも、それを満たさなくなったらどうなると思う?」
「……!?ま、まさか!?」
「そうよ。タロウさんもイライラしてくる。そして私たちの成分を求めてくるのよっ!!」
ーー牡丹は慎太郎が絡むと人格が変わる。だがそれは美波も同じ事。
「て…天才です…美波さんは天才です…!!」
「ふっ、そんな事はないわよ。」
「私は感動致しました。師と呼ばせて下さい。」
「いいわよ。」
ーー暴走している美波にはヤンデレモードに入りそうな牡丹をも制御出来るのであった。
「でもタロウさんから離れていると私たちの身が持たないわ。なので後ろからこっそりと後をつけましょう。そして頃合いを見計らって私たちが現れればーー」
「ーータロウさんの欲求が爆発して夜には淫らな行為が出来るという事ですね。」
「ふっ、その通りよ。」
ーーこの2人は基本的にポンコツ属性持ちなのでそれが同時に発動すると足し算ではなく掛け算になってしまうのだ。
「タロウさんに関する事はライバルだけど、今回に限っては協力しよっ。」
「わかりました。今回に限っては3人での行為も受け入れます。」
ーー美波と牡丹が誓いの握手を交わす。
ポンコツ同盟が誕生した瞬間であった。
「よしっ!じゃあ行くわよっ!!」
「はい。」
ーー慎太郎は当然知る由もない。
このポンコツ2人組に今後も振り回される事を。
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