第249話 夕焼け

「んじゃ土産もガッツリ買ったしそろそろ帰るか。時間もかなりヤバいし。」


なんだかんだで夕方6時を回ってしまった。夜の9時からクランイベントを控えてるのに遊んでる場合じゃないだろ。みんな心配してるだろうなぁ。ついうっかりやっちまったな。俺モテるアピールみたいで嫌だけど、俺がいないと牡丹がヤンデレモード入ってんじゃねーかな。大惨事になってなきゃいいけど。急いで戻ろう。


俺たちは車へと戻り、荷物を後部座席へと詰め込む。ノートゥングの甘いものセットがズッシリとあるな。金使っちまったなぁ。コイツ嬉しそうな顔するからつい買っちまったんだよ。夜中に工事現場でバイトしなきゃダメかなぁ。


ーー若干項垂れながら慎太郎は運転席へと乗り込む。


「ふーっ。エアコン効くまではやっぱ暑いな。」


『…そうだな。』


何だ?さっきまで元気一杯だったのに急にしょぼんとしてるぞ。腹でも痛いのか?俺は基本的に女心がわからんからな。ここで選択肢を間違えたらブン殴られそうだから慎重にいかないと。


「どーした?甘いもの食べ過ぎて胸焼けしてるのか?」


俺も甘いものしか食べてないお陰で胃がもたれてるからな。その可能性は相当高いだろう。この選択肢は正解だ。


『…胸焼けなどするわけなかろう。馬鹿タレが。』


あかん。ブン殴られる。


ーー慎太郎は身構えるがノートゥングは俯いたまま何もして来ない。そんなノートゥングを見て慎太郎は心配になってしまう。


「本当にどうした?具合悪いのか?病院…は…どうすりゃいいんだ…?保険証ないぞ…あ、別に全額負担すりゃーいいだけか。」


ーー狼狽えている慎太郎をノートゥングは座席に座りながらチラリと見る。そんな慎太郎を見て彼女の口元は微かに緩む。


『心配するな。具合が悪い訳では無い。』


「そうなの?無理しなくていいんだぞ?調子悪いならすぐに病院行こう。」


『大丈夫だ。』


「それならいいけど。」


『……おい、誑しーーではなくて…シンタロウ。』


「えっ!?」


今なんて言った…?慎太郎…?ノートゥングが俺の事を名前で呼んだの…?いつも『おい』か『誑し』しか呼んだ事の無いノートゥングが?おいおい、明日は台風が10個ぐらいまとめて来るんじゃないだろうな。


『……妾は…素直ではない…いつも捻くれた言い方を…その…してしまうのだ…』


「うん?」


なんだ?何が言いたいんだ?わからんぞ?


『…今この狭い場所で…シンタロウと2人だ…誰にも聞かれてはいない…だから…今だけは…素直になろうと…思う…』


「おう?」


よくわからんが、よーは、何か言いたいんだろ?悩み相談かな?美波との事か?ま、なんでもいいから話してスッキリしちまえよ。オッちゃんが何でも聞いたるで。


『…今日は…楽しかった…こんなに楽しかったのは…生まれて始めてだ。』


「お、おう?」


えっ?なに?それが言いたかったの?美波との事じゃないの?


『…照れ隠しで…シンタロウを殴ってしまったが…本当は…楽しくて…その…ごめん…』


…何このギャップ。過呼吸起こしそうなぐらい萌えるんだけど。頬まで赤くしてるし。それは反則だろ。ズルいですよ女王様。


『…帰りたくないって言ったのも…まだ…シンタロウと…一緒に居たくて…』


「お、おうっ?」


…酔っ払ってるとかじゃないよな?アルコール入ってるスイーツは食べてないはずだし。


『…シンタロウが…妾の為に…甘いもの巡りをしてくれるのが…嬉しかった…』


「……うん。」


これが本音か。ノートゥングの事を誤解してたな。俺の事をすぐ殴るから嫌いなんだと思ってた。感謝してくれてたんだな。オッちゃん泣きそうやで。


『…ミナミに悪いのはわかっておる。でも…今だけは素直になろう。』


ーーノートゥングが慎太郎に近づき、運転席の座席を倒す。


「うおっ…!?ちょっーー」


ーーそのままノートゥングが慎太郎へと覆い被さり、唇を塞いだ。ひぐらしの鳴き声と、車のエンジン音を聞きながら2人は濃密なキスを行なう。


ーー互いの体温を感じ合う。舌から熱を感じ、吐息、皮膚の触れ合いにより確かな体温を感じる。


ーー車内がエアコンにより冷たくなった所でノートゥングから唇を離す。


「……えっとーー」

『ーー忘れろ。』


ーー慎太郎の言葉を遮るようにノートゥングが声を被せる。

そしてノートゥングは助手席へと戻りシートベルトを締める。


「忘れろって…」


『……。』


ーーノートゥングは無言で窓の外を眺める。


「忘れる事なんて出来るわけなーー」


ーーバチン


ーーノートゥングが慎太郎の頬を叩く。


「痛ってぇ!?」


『さっさと車を出せ。』


「……はい。」


ーー慎太郎はノートゥングの横顔を少し見た後、車を走らせる。

ノートゥングの顔は夕焼けの赤色に照らされ、真っ赤に染まっていた。






ーー『…あの夜にシンタロウがかけてくれた言葉で妾は救われた。皆が貴様に恋慕の情を抱く気持ち…妾も分かった。だが…この気持ちは今日限りだ。もう表に出す事もあるまい。それでも…この気持ちに嘘は無かったぞ?』

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