第230話 再開
「ほい、どうぞ。ちゃんと水分補給しないと明日辛いですからね。」
俺はミネラルウォーターのペットボトルを楓さんに手渡す。
「ありがとうございます。頂きます。」
楓さんがペットボトルに口をつける。なんだかその姿がとても妖艶に感じてしまい、俺の胸はドキドキしていた。
俺と楓さんは花火大会の会場から少し外れた公園のベンチへと腰を下ろす。夜の公園ってなんかワクワクするよね。
「…2人っきりって久しぶりですよね。」
楓さんが少し声のトーンを落として口を開く。
「そういえばそうですね。いつも誰かしらはいますから2人っきりってなかなか無いですよね。」
「あの時以来ですね。」
「あの時…?あ…」
楓さんが少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
あの時ってのは…俺のファーストキスをした日の事だ。あの日俺は楓さんとキスをし、あと一歩で童貞まで卒業して出来た。
「あれ以来誰かさんはなかなかキスをしてくれませんね。2ヶ月ちょっとの間に何回してくれたかなぁ。」
「…いや、それは…」
ーー牡丹とは毎日2回キスをしているとは死んでも言えない慎太郎であった。
「私の事嫌いですか?」
「そんなわけないですよ!!ぶっちゃけ…大好きです。でも…誰かを選ぶ事はまだ…」
「愛してますか?」
「え?いや…その…」
なんか今日の楓さんはいつもより力強いぞ。ただでさえ力強い楓さんがもっと強いと逆らえんくなる。
「答えて下さい。」
「…愛してます。」
はい、逆らえませんよ。俺はヘタレですよ。でも嘘を言っているわけではない。楓さんに愛情があるのは紛れも無い事実だ。だがそれと同時に美波にも牡丹にもアリスにも愛情がある。
「聞こえません。」
何このプレイ。恥ずかしいんだけど。やっぱ楓さんってドSだよな。でもこれ絶対言わないと納得しないやつだろ。しょうがないな。
「愛してます。」
「誰をですか?ハッキリ言って下さい。」
「俺は楓さんの事を愛してます。」
ーーカチッ
「え?何の音?」
「ウフフ、良い物が録れました。」
楓さんが帯から何かを取り出す。ボイスレコーダーだ。やりやがったなこのダメープル。
「ちょ、ちょっと!?それはダメですよ!?」
「イヤです。」
俺は楓さんからボイスレコーダーを奪い取ろうとする。こんなものが牡丹とノートゥングに聞かれたら俺の命は間違い無く狩り取られる。絶対に死守しないと。
ーーしばらく互いの攻守が入り乱れるが、慎太郎が楓の腕を掴んで奪い取ろうとした時に体制を崩して楓をベンチに押し倒してしまう。
「キャッ…!!」
「す、すいません…!?怪我してないですか!?」
「……。」
やっべ、早く退かないと。何をやってんだよ俺は。
ーー慎太郎が楓から退こうとすると、楓が慎太郎のシャツを掴んで退かせないようにする。
「楓さん?」
「…キスしたい。キス…しよ…?」
「…こんな時に敬語やめるのとかズルいですよ。ギャップが半端ないじゃないですか。」
「…だってしたいもん。」
「悪い子ですね。何されても仕方ありませんよ?」
「そんなのーーんっ…」
ーー慎太郎と楓は唇を重ねる。真夏の夜の様に熱く濃厚な口づけを2人は交わした。
「ぷはっ…ウフフ、激しいですね。」
「悪い子にはお仕置きが必要ですからね。」
「毎日キスはして下さい。寂しいです。」
「寂しいって…一緒に住んでるじゃないですか。」
「して下さい。しないならさっきの録音牡丹ちゃんに聴かせます。」
「やめて下さいよ!?大変な事になりますから!?わかったよ、わかりました!!しますよ…」
「朝の出勤の時とおやすみのキスでお願いします。」
…こっちも2回かよ。人の気も知らないで…ムラムラして大変なんだからな。
「…わかりました。」
「ウフフ、じゃあ戻りましょうか。みんな待ってるだろうし。」
「そうですね。じゃあーーおっと!!」
ーー立ち上がる慎太郎の背中に楓が飛び乗る。
「車までおんぶお願いしますね♪」
「はいはい。じゃあ行きますよ。」
「はーい♪」
ーーその時だった。
慎太郎の視界がねじ曲がる様に回転していく。それにより慎太郎は目を開けている事が出来なく目を瞑ってしまう。
そして目を開けると完全に闇に包まれた空間にいる事に気付く。
「ここは…?」
「これって…」
「タロウさん!!」
ーー声がするので慎太郎は振り返ろうとするが、振り返る前に牡丹が慎太郎の前に現れる。
「牡丹!?」
「はい、あなたの牡丹です。」
「て事はやっぱり。」
ーー慎太郎がそれに気付くと、闇に包まれた空間からアイツが姿を現わす。
『大変長らく御待たせ致しまシタ。これより俺'sヒストリーを再開致しまス。』
ーー束の間の休息が終わりを迎えた。
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