第207話 暗躍

【 慎太郎・牡丹 組 ?日目 ??? 洋館 北棟 3F 開かずの間 】



ーー『フライハイト』を解除する事で元のゼーゲンに戻る事は出来たので一先ずは安堵した慎太郎。だが慎太郎の心がポキっと折れた事までは元に戻らない。やっと自分も強くなれたと思った慎太郎の落胆は計り知れないのであった。


『『フライハイト』が使えなくても『フリーデン』は使えますので問題は無いでしょウ。ですガ…まさか扱えないとは思いませんデシタ。カカカカカ!』


ちくしょう…俺を馬鹿にしやがって…せっかく強くなれると思ったのに…ちくしょう…ちくしょう…!!!



ーー慎太郎は心の中で咽び泣いていた。



「大丈夫ですよ。」


ーーそんな慎太郎に牡丹は寄り添う。


「私があなたをお守り致しますから無理に強くならなくていいんです。一生お守り致しますね。」


「やめて!惨めになる!俺の心がオーバーキルだから!!俺は姫ポジションじゃないから!!」


ーー牡丹の言葉に慎太郎の豆腐メンタルが更にやられてしまった。


『それト、『フライハイト』、『フリーデン』共に使用時間はシーン、イベントにて30秒となっておりまス。そしてそれは英傑には使用出来ませン。つまりは”憑依”状態では使用不可となりまス。』


「”具現”ならば可能という事ですね?」


『左様で御座いまス。』


…どっちも俺には関係ねー話だよ。『フライハイト』は使えない。”具現”は出来ない。俺の存在意義ってなんなんだろう。


『それと貴方方には爵位をお与え致しまス。』


「爵位?」


ーー落胆していた慎太郎であったが爵位という中二ワードに反応を示す。


『『フライハイト』と『フリーデン』は他の”特殊装備”とは格が違いマス。こちらを使用する程の方には爵位を与えないといけない決まりとなっているノデス。』


「爵位もらうとなんかあんのか?」


『”サイドスキル”を得る事が出来まス。』


「何そのカッコイイやつ。」


ーー心の折れていた慎太郎が中二ワードによって再び息を吹き返す。単純な男だ。


『当然ながら一番位の低いものになりますガ、貴方方には『フライヘル』の爵位を授けまス。このイベント終了後に爵位と”サイドスキル”が有効となりますので宜しくお願い致しまス。』


「そのサイドスキルってどんなのなんだ?」


ーー慎太郎がウキウキしながらアインスに尋ねる。


『”サイドスキル”は爵位を与えられた者によって異なりマス。そして『フライハイト』と『フリーデン』を手にした瞬間に貴方方には”サイドスキル”が備わっておりマス。』


「どうやって能力調べんだ?マイページから?」


『窮地に陥らないと発動しないようになっておりマス。ですので窮地に陥らないと”サイドスキル”を知る事は出来ませんネ。』


「底力みたいなもんか。俺はすぐに発動しそうだから良いけど牡丹だと下手すりゃわからないままじゃね?」


「それならそれでも構いません。私が窮地に陥らないという事はタロウさんをしっかり守れている証拠ですので。」


「姫ポジ認定されるからその台詞やめようね!?」


『最後にこちらをお渡し致しまス。』


ーー慎太郎が牡丹とイチャイチャしているとアインスが慎太郎に何かを手渡す。


「すっげ…ダイヤかよ…鍵の形にしてるし一億ぐらいすんじゃねぇの…ってこの鍵もしかして!?」


『アンドロメダ座の鍵です。このエリア全ての扉を開ける事が出来まス。』


「いいのか?」


『構いませんヨ。それとここを出ると3日目の夜8時になっていると思いまス。ここと外は時間の流れが違うのデ。』


「マジかよ!?一日経過したのか!?ヤベーな…楓さんたちに何かあったりしてないだろうな…」


「楓さんがいるので大丈夫だと思いますが急ぎましょう。」


「ああ!!」


『ひょっとしたらセリザワサマたちは首狩り村へ行かれたのかもしれませんネ。』


「何そのワクワクするネーミング。」


『この洋館の脱出口から行く事が出来る村でス。そこは危険な場所なので行く事はお勧めしませン。新たに敵が現れる仕組みとなっておりまス。』


「どんなトコだろうと仲間が行ってる可能性があんなら助けに行くに決まってんだろ。な、牡丹。」


「はい、あなたの牡丹です。勿論です。参りましょう。」


「おう。じゃあなアインス。色々ありがとう。」


『脱出口は西棟の鍵の掛かった扉を開けると行かれまス。御武運ヲ。』



ーー慎太郎がアインスへと親指を立てて感謝を示す。そして足早に慎太郎と牡丹は開かずの間から出て行った。























「終わったか。」


ーー部屋の隅から金色の髪を靡かせた端正な顔つきの男が現れる。


『ミリアルドか。どうだった彼らは?』


「島村牡丹は想像以上だったな。だが田辺慎太郎…奴は何なんだ?剣聖が不憫だ。『フライハイト』を使う事すら出来ぬとは。仮にもツヴァイが入れ込む男だからどれ程の者かと思ったらこのザマだ。その辺にいる有象無象と何ら変わらん。」


『フフ、確かに『フライハイト』を使えないのには俺も驚いたよ。だがそれは仕方があるまい。彼の役割は他にある。それに『神具』は島村牡丹に使わせる為だ。田辺慎太郎が使えようと使えまいと関係は無いさ。』


「それは理解している。だがその為に田辺の”サイドスキル”を回収したアレにするとはな。いくらお前でも無茶が過ぎたのではないか?」


『ツヴァイへの対抗措置の為だ。仕方があるまい。あの女は必ず俺の予想通りの行動をする。田辺慎太郎を手にする為にな。その時に田辺慎太郎はきっとアレを使うさ。その為の保険だよ。』


「ツヴァイか。田辺慎太郎と相葉美波が奴の正体を知ったら驚くだろうな。」


『フフ、そうだな。彼女の計画に口を挟むつもりは無いがいつ正体を明かすのか見ものだな。』


「明かす局面が迎えられればだがな。奴とサーシャ、葵、リリは俺たちを亡き者にしようと企てているぞ。」


『理解しているよ。その為の保険でもある。』


「厄介な女どもなのは確かだがな。こちらはお前と俺、桃矢に蘇我夢幻か。」


『十分じゃないか。』


「お前とサーシャは五分の力だが俺ではツヴァイは抑えられん。それに桃矢では葵に勝てんし蘇我夢幻もリリには到底及ばないだろう?」


『フフ、いざとなれば俺が全て蹴散らすさ。ツヴァイとサーシャは俺の”サイドスキル”の”3番目”を知らないからな。』


「うっ…!!!アレを出すつもりなのかッ…!?」


『いざとなれば、だよ。』


「流石にその事態は避けたいものだな…そうだ、何故田辺たちに嘘の情報を渡したのだ?」


『嘘?』


「芹澤たちの事だ。奴らは地下牢でドライたちと交戦中だろう?」


『ミリアルドよ、それは嘘ではなく、俺の優しさだよ。ドライ…いや、緒方瑞樹と彼らを出会わせると良くない、違うか?』


「フッ、ドライを嵌めたのは誰であったかな?」


『これは手厳しいな。』


ーー2人が笑い合う。


「首狩り村へ行かせるのは得策ではないだろう?何故行かせた?」


『島村牡丹が”贄”として本当に相応しいか見極めたくてな。』


「ほう、お前のお気に入りなのに危険な目に合わせるのか?」


『だから『フリーデン』を与えておいたのさ。』


「納得だ。そろそろ行こう。リリの奴が外にいるからな。」


『そうだな。では戻ろうか。頑張りたまえ、田辺慎太郎。』



ーー開かずの間がエリアから消え去る。

アインスにより慎太郎と牡丹は強大な力を得た。だが彼らは知らない。自分たちの知らない所でアインス、ツヴァイがそれぞれの思惑により慎太郎たちの行動を操作している事を。

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