第206話 自由と平和

【 慎太郎・牡丹 組 2日目 PM 10:10 洋館 北棟 3F 開かずの間 】




ーー慎太郎と牡丹が電子ロックされていた開かずの間へと足を踏み入れるとそこには彼らが良く知るモノが立っていた。


「なんで…お前がここに…?」


ーー想定外の事に慎太郎は驚きを隠せない。それでも咄嗟に牡丹を守る為、彼女の盾になる姿は立派であった。

こういう時に人間の本性は出る。自分可愛さに相手を盾にするか、自分を犠牲にしてでも盾になるか、そこでその人間の顔が見える。

当然ながらこの慎太郎の行動に牡丹は胸をキュンキュンさせるがそれは仕方が無い。誰だってキュンキュンするであろう。


『ドアを閉めて頂いても宜しいでしょうカ?余分な客まで現れても迷惑ですノデ。』


…こいつが何を企んでいるかはわからねぇが確かにここで挟まれたらより一層厄介な事になる。一先ず中に入ろう。


「…牡丹、ドア閉めてもらってもいい?」


「わかりました。」


ーー慎太郎の指示に牡丹は従いドアを閉める。慎太郎はその間ツヴァイを注視し、奇襲を受けてもすぐにバルムンクを発動出来る態勢を整える。


『ありがとうございまス。』


「…で?何でお前がここにいんの?まさかリザルトなんてオチでもねーだろ?それとも剣を持ってるって事は一戦交える気満々って事か?」


ーー慎太郎が指摘する通りいつも手ぶらであったツヴァイが通常の剣よりも一際大きい大剣を杖のようにして横柄な態度をとっている。


『何か勘違いをされておりますネ?ワタシはツヴァイでは御座いませんヨ。』


「は?」


『一応始めましてという事になりますネ。ワタシはアインスと申しマス。』


その名を聞いた俺は牡丹に目配せをする。この前のトート・シュピールの時、牡丹側の方で葵の奴が、俺たちが戦わなきゃいけない敵の名を教えた。その敵の一人がアインスという奴だ。そう、俺たちの前にいるこのモノがそうだという事だ。

まさか親玉自ら来やがるとは思わなかった。葵の話じゃ俺たち5人がかりでも勝てないってぐらいの奴らしい。最悪俺が盾になって牡丹だけでも逃さないと。


『そんなに警戒しなくて大丈夫ですヨ。何も貴方方を殺しに来た訳ではありまセン。イベントの一環としてワタシはいるだけですカラ。』


「どういう事だ…?」


ーーアインスの言葉に安堵したのは言うまでも無い。だが手放しに喜べないのも事実だ。運営が信用出来ない事を慎太郎は重々理解している。鶴の一声でそれをひっくり返す事だって十二分にあるのだ。


『電子ロックを解除する程の賢者が現れればそれを讃える為に”ヴェヒター”の筆頭であるワタシが出向くという事になっているノデスヨ。』


「また何だかわからねぇワード出て来てるしよ。お前らってそのパターン好きだよな?オルガニとかいうのを中二病の会って名前に変えた方が良いんじゃね?」


『カカカカカ!!検討しておきましょウ。』


「嫌味で言ったんだよ。ま、いーや。讃えるって何だよ?賞状でもくれんのか?」


『”特殊装備”をお渡し致しまス。』


ーー虚勢を張って心の内を気取られないように努めていた慎太郎だったが流石にそのワードに言葉が詰まる。


「”特殊装備”って…楓さんと美波が持ってるやつのことだよな…?何だったってそんなもんをくれんだよ…?」


ーー動揺を抑えようとするが言葉の節々でそれが垣間見える。それでも冷静に振る舞おうと慎太郎は必死に堪えていた。


『言ったでしょウ?賢者を讃えるト。今までこの部屋に到達出来たプレイヤーは誰もいなかっタ。それを貴方方はやってのけタ。称賛されるべき事柄ですヨ。』


「…なんか胡散臭いけどもらえるんなら断る事も無いよな。」


『カカカカカ、少しお待ち下さイ。』


ーーアインスが背後にある鉄製の金庫のような扉を開け、中から2つの箱を取り出す。その箱はちょうどゼーゲンが入るような大きさの少し凝った装飾のある箱であった。


『こちらが”特殊装備”で御座いまス。左側をタナベサマ。右側をシマムラサマがお持ち下さイ。』


「私も頂けるのですか?」


牡丹が驚いたようにアインスに尋ねる。正直2人にくれるとは俺も思わなかったから驚きだ。


『御二人で到達したのですから当然でス。』


随分と気前がいいな。でもくれるならもらうべきだろ。


「もらっといた方が良いよ。強くなって損はないからな。」


「わかりました。では遠慮無く頂きます。」


俺と牡丹はそれぞれに渡された箱を開ける。中に入っていたのは剣だった。

ゼーゲンのようでゼーゲンで無い。いや、ゼーゲンよりも圧倒的に神聖さを感じる。柄や鍔には青を基調とした品のある豪華な装飾が施されており、異世界感が半端なく醸し出されている。何より青い光のようなものが強弱をつけながら輝いている姿が俺の中二心をくすぐってくるのが最高だ。俺は完全にこの剣に魅了された。

牡丹の方も剣が入っている。この蒼剣と対を成すような赤を基調とした剣だ。見る限りでは色が異なるだけで全く同じ剣に見える。紅剣と名付けよう。


「スゲーカッケー剣だな。」


「はい。とても美しい出で立ちをしております。」


『お気に召していただけたようで何よりデス。タナベサマの剣を『フライハイト』、シマムラサマの剣を『フリーデン』と呼んでおりまス。意味はーー』

「『自由』と『平和』って事か。」


『ご存知なのですネ。』


「まあな。」


「流石はタロウさんです。」


『この双剣の能力は絶大デス。使用者の能力を極限にまで高めてくれマス。天下無双と言っても過言ではありまセン。』


「なにそれ超カッコいいじゃん。」


ーー慎太郎の目がキラキラと輝いている。

慎太郎は結構中二病入っているので天下無双とか双剣というワードに弱かった。


『強さはご自身でお確かめ下さイ。ただシ、デメリットもありまス。この双剣は二本で一つでス。つまりは貴方方二人が同時にいないと使用出来ませン。例えばバディイベントで離れていたら当然使えなイ。離れていても使えませン。』


「つまりはいつも一緒!!どんな時でも互いに助け合わなければいけない夫婦のような剣という事ですね!?」


『そうでスネ。』


ーー牡丹の目がキラキラと輝いている。

牡丹は慎太郎といつも一緒にいられる大義名分を得た事で天にも昇る心地であった。


『カカカカカ!相当に気に入られたようでワタシも安心致しましタ。先ずはお納め下さイ。ゼーゲンを抜いて前に出して下さいますようお願い致しまス。』


アインスに言われるまま俺と牡丹はゼーゲンを鞘から抜いて双剣の前に出す。すると双剣が光り輝き、粒子のような粒になり、ゼーゲンの中へと入っていった。


「え!?消えちまったんだけど!?」


『”特殊装備”はこのようになっておりマス。二刀流で戦う訳では御座いまセン。使用する時にスキル同様に念じて頂ければゼーゲンから双剣へとシフトされマス。』


「ヤバい。カッコ良すぎじゃんそれ。必殺技じゃん。」


ーー慎太郎の心は踊っていた。何よりとうとう彼のパワーアップイベントが来た事により浮かれていた。

『これでリストラされなくて済む。やっぱり俺は主人公属性だ!』

などと考えいた。


『試しに使ってみてはいかがですカ?』


「そうだな。じゃあ牡丹からどうぞ。」


「わかりました。では失礼致します。」


牡丹のゼーゲンが紅い剣へと派手なエフェクトを飛ばして変化する。ヤベぇだろ…カッコイイなんてもんじゃねぇぞ…


「凄いですね…力が漲るなんて言葉で片付けられません…凄まじい力を感じます…」


確かに牡丹からは半端無い圧が伝わって押しつぶされそうだ。

クックック、とうとう俺の出番のようだな。俺の真の力を見せる時が来たようだ。


「じゃあ俺も。」


ーー慎太郎がカッコつけて軽くゼーゲンを振りながら蒼剣へと変化させ……させ?


「えっ!?なにこれ!?」


ーー慎太郎のゼーゲンが錆びてしまった。


「錆びておりますね…?」


「はっ!?おい、何これ!!不良品じゃねーかよ!!ゼーゲンが錆びたんだけど!?レベルアップじゃなくてレベルダウンしてるんですけど!?」


ーー慎太郎が激しく怒りをアインスへとぶつける。もはやアインスへの恐怖など欠片も無い。完全なクレーマーと化していた。


『…大変申し上げにくいのですガ…』


「弁償しろ!!ゼーゲン弁償!!」


ーーせっかくのパワーアップイベントを台無しにされた慎太郎は怒りで何も見えていない。その様は結構カッコ悪かった。


『タナベサマの力が足りないので『フライハイト』が力を出せないので御座いまス。』


「弁償!!弁……は?」


『”特殊装備”の中でも『フライハイト』と『フリーデン』は別格でス。力量が備わっていない方には使用する事が出来ないのデス。』


「…つまりどういう事?」


『強くならなきゃ使えないという事デス。』


ーー慎太郎が膝から崩れ落ちた。

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