第191話 真紅の炎
【 楓・美波・アリス 組 2日目 AM 9:01 洋館 東棟 2F 大食堂 】
「リッター…?リッターって…」
夜ノ森葵やサーシャ、彼女らがリッターといわれる運営側の役職みたいなものに就いていたはずだ。それにフェルトベーベルがなる…?フェルトベーベルはオレヒスのゲームプログラムみたいなモノでは無いって事…?
「リッターってなんなのかしら?あなたはそれになる事でどんなメリットがあるの?」
フェルトベーベルが答えるとは思わないけど時間は稼げるはず。甲冑が外れてフェルトベーベルの力が大きく上昇したのは肌を刺すような闘気から伝わって来る。恐怖値により能力低下させられている今の状態では分が悪くなったかもしれない。私までブルドガングを召喚してしまったら何の為に美波ちゃんとノートゥングが身体を張ってくれているのかわからなくなってしまう。自分の力だけで勝たないと。その勝ち筋を探す為にも時間を稼ぐ必要がある。
ーーだが楓の予想とは裏腹にフェルトベーベルが口を開く。
『リッターは…オレたちの…憧レ…オルガニの為ニ…なる。リッターとハ、騎士だ…リッターにナリ…オルガニの…”彼の方”ノ…手足とナル…そして…オレがリッターになる為ノ…その礎となるのだオマエは…』
ーー楓はフェルトベーベルが答えた事に驚愕した。そしてその内容にも。
リッターが騎士という事は何か守る為の対象が存在するという事だ。普通に考えればその対象は王侯貴族。そうなるとオルガニというのはその王侯貴族が運営する組織、又は王侯貴族が命じて組織された集団の可能性がある。
そしてこの俺'sヒストリーというゲームはその王侯貴族の道楽か、彼らを愉しませる為の余興と考えるとある程度の辻褄は合う。
ーー楓は自分の考えがもし当たっているならと思うと不安で胸が締め付けられそうであった。なぜなら本当に王侯貴族の道楽や余興ならこのゲームにクリアは存在しないか、鶴の一声で皆殺しにされる事だってありえる。
このゲームの核心に迫れば迫る程私たちの命は危険なんじゃないだろうか?そうとさえ楓は思っていた。
ーー楓にそう思わせてしまうのはフェルトベーベルの”彼の方”という台詞だ。
確実にこのゲームには首謀者がいる。そう思わせるワードが出ただけで楓は怖くて仕方がなかった。今の生活に、慎太郎との生活に幸せを見出してる楓は死がとても恐ろしかった。田辺慎太郎という存在が楓を弱くしてしまっていた。だがそれと同時に強くもしてくれた。慎太郎を想うだけで今まで以上の力も湧く。それは紛れも無い事実であった。
この生活を、慎太郎を守る為ならーー
「ーー私は負けないわ。誰であろうとも。私が…みんなを守る。」
ーー楓から剣気が放たれ、突き刺さるようなピリピリした空気がフェルトベーベルへとアテられる。
もはや楓に恐怖値による能力降下の影響など無い。いつもの他を圧倒するような気高き風格の彼女がそこにいた。
「あなたの話が本当だとすればここで仕留めておかないとリッターになるって事よね。悪いけどさっきの話は無かった事にしてもらえるかしら。あなたたちにはここで死んでもらうわ。」
『オレたちに…勝てると思ってイルノか?貴様を喰らイ、オレたちのリッター昇格を確実にシヨう。』
ーーフェルトベーベルたちが右腕の形状を変形させ剣の形へと整形する。
『来イ…見せてやろーー』
ーーフェルトベーベルの首が落ち、言葉を発する事が出来なくなった。
やったのは誰だか言うまでも無いだろう。
「来いというから遠慮無くやらせて頂いたわ。悪いけどあなた程度ではリッターにはなれないわよ。リッターの者たちはあなたたちのように弱くは無いから。」
ーー遅れてフェルトベーベルたちの身体が力無く床へと崩れゆく。そして少しの間を挟みフェルトベーベルたちの身体は泥のようなモノへと変貌し、消滅していった。
ーー勝負を終えた楓がゼーゲンを鞘へと戻す。
「守りたいものが出来れば人は弱くなる。今の生活を守りたい、そう思ってから私の心は弱くなったわ。でも反対に私は以前より強くもなったわ。恋が女を強くするのよ。」
ーー楓対フェルトベーベルの大食堂の一戦は、楓の圧勝により幕を下ろした。
ーー
ーー
ーー
ーーそして同時刻、この大食堂にてもう一つの戦いの幕が降りようとしていた。
『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!』
「チッ…」
ーーノートゥングは迷っていた。
このままダラダラと戦い続けるぐらいなら奥義を放ち一瞬で勝負を終えた方が良いのではないか?そう考え始めていた。
だが、現状で短時間に2回も憑依している身体に奥義まで放てば相当な負担になる事は間違い無い。美波に苦しい思いをさせる事になる。それによってノートゥングは奥義の使用を躊躇っていた。
ーーノートゥングの優先順位は最早美波が第一。早い話が美波が大好きなのだ。その美波に苦しい思いはさせたくない。アリスに回復を頼めばいいと思うかもしれないが、美波の性格上それは断る。日付が変わるその時まで苦しい状態を我慢してしまうのがノートゥングにはわかっていた。
ーーだがその悩みも解決する時がやって来る。
「木偶人形が…しかしどうする…?此奴らを始末するには何れにせよミナミの身体を酷使する事になってしまう…どうすれば…」
『ノートゥング。』
ーー内から美波がノートゥングへと語りかける。
「ミナミか。少し待っておれ。妾がすぐにーー」
『私の事は気にしないでいいから。』
ーーノートゥングの言葉を美波が遮る。
「…何?」
『あなたが私の事を大事に思ってくれてるのがわかってすごく嬉しい。ありがとう。でもね、それを気にするせいでノートゥングが弱くなるのは嫌なの。』
「ミナミ…」
『だから私の事は気にしないでそんな連中ぶっ飛ばしちゃって!あなたには強くあってもらいたい。誰よりも。だって私の自慢の親友なんだからっ!』
ーー美波のその言葉により、ノートゥングを包んでいた躊躇いが消えた。
「…馬鹿者が。」
『ふふっ。』
「…わかった。すまんミナミ。」
『どういたしまして。』
「ならば特等席で見せてやろう。妾の奥義を。」
ーーノートゥングを包む金色のオーラが輝きを強め、黄金色へと変化する。
ゼーゲンの刀身には真紅のエフェクトが灯り、それを見るだけで平伏してしまいそうなぐらいの神聖さが伺える。
現にそれを見るゲシュペンストたちの動きが止まり、ノートゥングに魅入っていた。
ーーそして戦いは終焉迎える。
「全ての剣の先に妾が在るーーグラナートロート・シュヴェーアト!!」
ーー紅炎の衝撃波が周囲一帯の空間を引き裂き、ゲシュペンストへと向かっていく。
空間が捻じ曲がり、ブラックホールのように別の次元へと繋がっている為、大食堂自体には影響は無い。だが、螺旋状に形成された紅炎の衝撃波はゲシュペンストの身体を引き裂き、五体をバラバラにされた後に焼き払われ、この世からその存在が完全にかき消された。泥へと変貌する事も無く。
紅炎の衝撃波が消え去った後には何も残らない。ゲシュペンストのカケラも、紅炎の熱も、何もかもが。最初から何も起こっていなかったかのように静寂が大食堂に訪れていた。
「どうだ、妾は強いだろう。」
『ふふっ、私の自慢の親友だからねっ。』
ーーここに大食堂攻防戦は完全に決着した。
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