第168話 具現
【 アリス・楓・牡丹 組 1日目 PM 6:55 】
「ふぅん。それ、やり返してるつもり?」
ーーブルドガングの物言いに葵は不快感を露わにする。
鞘に収めていたゼーゲンを今一度引き抜き、ブルドガングとの戦闘に備える。散っていたカノーネも自身の周りへと展開させ防御に関しても抜かりはない。初めて葵が真剣になった瞬間であった。
ーー対するブルドガングも剣から伝う雷のエフェクトが自身の身体へも派生している。その姿はまるで雷神であるかのような神々しさと、威厳が保たれている。
『可愛いカエデをここまでズタボロにしてくれちゃったんだから相応の仕置が必要ね。それにアンタには借りがある。倍にして返してあげるわ。』
「怖い怖い。もっと落ち着こうよ。」
ーー軽口を叩いているように見えるが表情には台詞程の余裕は伺え無い。”具現”された剣帝ブルドガングに対しての脅威の程がその表情から物語っている。
ーー楓がゼーゲンを杖代わりにしてどうにか片膝をついた体勢まで起き上がる。背中からの出血こそ止まっているがとても戦える状況で無い事は明らかだ。
『カエデ、大人しくしていなさい。”具現”による身体能力上昇の効果で背中の出血は止まってるけど動けばまた開くわ。あなたはそこでアタシに託して結末を見届けなさい。』
「ウフフ、じゃあそうさせてもらおうかしら。仲間に託す…いいものね。」
『フフ、そうね。アタシもそう思ってるわ。じゃ、行ってくるわ。』
ーーその言葉が合図となりブルドガングが葵へと距離を詰める。
だが葵はそうやすやすと間合いにブルドガングを入れさせない。ブルドガングと葵の最大の差であるエンゲルを羽ばたかせ上空へと飛翔する。
「悪いけど剣帝の土俵で勝負する程私は馬鹿じゃないよ。卑怯だなんて思わないでね。」
ーーブルドガングの領域外へ出て葵は得意げな表情を浮かべる。しかしーー
『ーー跪きなさい、ブリッツ・シュラーク。』
「がぁッーー!!」
ーーブルドガングが剣を振りかざすと雷鳴が轟き遥か上空から一筋の稲妻が葵へと落ちる。その威力は絶大であり葵は地上へと引きずり降ろされる事となる。
『フフ、お帰り。空中散歩はもういいのかしら?』
「ぐぬぬ…!!ちょっと頭に来たかな!!」
ーー葵が4基のカノーネを呼び寄せその形状を剣のような鋭利なものに変えていく。
「この形になっても高粒子砲は放てるよー?覚悟はいいかな剣帝?」
『いつでもいいわよ?』
「剣帝といい、楓ちゃんといい、傲慢すぎるんじゃないかな!!それが命取りになる事を教えてあげるよッ!!!」
ーー自立型機動兵器カノーネ4基がブルドガングへと牙を剥く。狙いを絞らせない不規則な動きでブルドガングへと近づき、斬りつけようとする。だが、
『傲慢?それはアンタじゃないの?こんなガラクタで本気でアタシを仕留められるとでも?アタシを誰だと思ってんの?剣帝ブルドガングよ?平伏しなさい。』
ーー次々と攻め来るカノーネをブルドガングはその場から動く事無く聖剣により叩き折って行く。都度4振り、全て一撃でカノーネを粉砕した。
「かっ、カノーネ!?」
『もう茶番は結構。』
ーーブルドガングを包む金色のオーラが一際大きな輝きを放つ。そして聖剣を左肩に担ぎ、身体中に纏っていた雷のエフェクトが聖剣の刀身へと集まる。
「ちょ!!タンマタンマ!!奥義はダメだって!!」
『ーー雷帝の裁きよ、ブリッツ・ヴィルベルヴィント!!』
ーーブルドガングが聖剣を横一閃薙ぎ払う。その刀身からは雷のエフェクトを纏った斬撃の刃が疾風の如く葵へと向かう。その雷のエフェクトは青や黄色に輝き、見るものを魅了するような美しさを放っている。だが、それを向けられた葵にとっては命を狩りに来た死の色にしか感じられなかった。
「これは当たったらシャレになんないッ!!!おいでシルト!!!」
ーー葵が盾のような形状の自立型機動兵器を創り出しブルドガングのブリッツ・ヴィルベルヴィントを防ぐ。だがそれを紙のように斬り裂き葵へと向かう。
「あ…やばーー」
ーーブリッツ・ヴィルベルヴィントが葵に直撃する。すると凄まじい爆発が起きて雷が弾け飛び、周囲一帯が黒煙に包まれていく。
「あの馬鹿…」
ーー牡丹たちと睨み合っていたサーシャが黒煙の中へと飛び込む。
ーーそれを見て牡丹とアリスも楓の元へと駆けつける。
「楓さん!」
「楓さん!」
「2人とも…心配かけちゃったわね…ごめんね。」
「何を仰るのですか…」
「すぐに回復させます!」
ーーアリスが《全回復》を使い楓の傷を癒す。
「ありがとうアリスちゃん。初めて使ってもらったけど凄いわね…本当に痛みも傷も癒えてる…」
『アンタたち、大団円はまだよ。むしろこっからが本番。』
私たちはブルドガングの呼びかけに緊張を強める。
そうだ…まだあのサーシャって人がいる…牡丹さん程の人が負けを前提に考えなければならないような相手って事なんだ…楓さんが”具現”を出来たからといっても勝てるなんて楽観視は出来ない。死に物狂いで戦わないと。
ーー次第に黒煙が晴れてくる。すると、血だらけになり片膝を着く葵と、それを冷ややかな目で見つめるサーシャの2人が姿を現わす。
「イタタタ…死にそうなんですけど…」
「何をやってるのあなたは?」
「サーシャ酷い…流石に笑えない…」
葵って人はとてもじゃないけど戦える状態では無い。やはりブルドガングの一撃は致命傷だったんだ。サーシャ1人なら何とかなるかもしれない。
『フフ、随分と苦しそうね。すぐに楽にしてあげるわ。』
「ちょっ…待って…ギブ…」
『嫌。さようなら、クソ女ーー』
「ーー待ってブルドガング。」
トドメを刺そうとするブルドガングを楓さんが止める。
『カエデ?』
「別に命を取る事は無いわよ。」
「か、楓ちゃん…!」
「あら?随分と甘いのね芹澤楓。考え直した方がいいんじゃないかしら?」
「ちょっ…!サーシャは黙っててくれる!?」
「真意はわからないけどあなたは本気で私を殺そうとしたわけではなかった。それならば私もあなたを殺す理由は無いわ。」
「楓ちゃん…!!」
「私なら即殺すけどね。」
「本当に黙っててくれる!?」
「アリスちゃん、傷を治してあげて。」
「え…?でも…」
「お願い。」
「わ、わかりました。」
楓さんからの頼みを断れるわけはない。私は夜ノ森葵の傷を治す為に
「うぅ…ありがとね、楓ちゃん、アリスちゃん。」
「い、いえ。」
「教えてもらえるかしら?あなたが私を成長させた訳を。」
成長…?どういう事だろう…?
「あ、バレてた?えっと…どうしようか…?」
「さあ?私に聞かないで。」
「冷たい!?ま…全部は言えないけど…それでもいい?」
「事情があるのは理解しているわ。話せる範囲でいいわよ。」
楓さんのその言葉に葵さんは腹をくくったような顔をして口を開く。
「オッケー。簡単に言えば私たちはオルガニ、俺'sヒストリーの運営側の人間だよ。」
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