第146話 弄られ

視線を感じた事により目が覚める。目を開けるとお母さんがニマニマと笑いながら私を見ていた。

「Good morning, Alice!」

「おはようございます…?どうしたんですか…?」

「ふふふっ、アリスがすっごく幸せそうにしていたからお母さん嬉しくてねー。」

…なんか嫌な予感がする。こういう顔をする時のお母さんは何か面白いものを見つけた時にするのだ。その対象は大抵お父さんで、よく弄られていたのを私は小さい頃から見てきた。でもお父さんはフワフワとした雰囲気を出している人だから弄られている事に気づいてないみたいだったけど私は自分が弄られ対象になった事を理解できる。だが寝起きで頭が働かないから状況判断が出来ない。

「すみません、お母さんの言っている言葉の意味がーー」

ーーお母さんの視線が私の左横にスライドした事により私の脳が覚醒した。続いて状況を瞬時に理解する。

私の頭の下にある温もり、右脇腹あたりをホールドされている感触、そして何より左側全体から感じる温もりと寝息ッ…!!

「アリスとタロウはそういう関係だったのねぇ〜、お母さん驚いちゃった。」

「あわわわわわ…!!ちっ、違うんです!!こっ、これはタロウさんが寝ぼけてるだけです…!!!」

「ふぅ〜ん。」

…ダメだ。このお母さんの目は私を弄り倒そうとしている目だ。どうにかしないと今日一日、いや、当分の間はこの話題で弄られる。なんとかしないと大惨事になってしまう…

そ、そうだ!!タロウさんを起こせばきっと誤解が解ける!!タロウさんを起こさないと。

「たっ、タロウさん!!起きて下さい!!」

私はタロウさんの身体を揺すって起こす。すると、うーんという声を出しながら目が半分ほど開く。

「お、おはようございますーーうっ…!!」

グッと強い力で引き寄せられ私の身体はタロウさんに完全にホールドされた。振り解こうとしてもビクともしない。

「ちょっ…!!タロウさん…!?」

「うーん…アリス…」

あぁ…タロウさんの匂いがする…なんかこの匂いは私をダメにする匂いだ…それに抱き締められてるこの感じは天国以外に他ならない。凄く幸せだ。もうこのままずっと抱き締められていたいな…

ーーって!!違う違う!!

早くなんとかしないとお母さんにーー

私はさらに嫌な予感がして首だけ動かしてお母さんの方を向く。するとニマニマが最高潮に達したような意味深な顔をして口を開く。

「朝からおアツいのね。お母さんテレちゃうわ。」

「ちっ、違いますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

********************

「何で今日も怒ってるんだよアリス。」

「怒ってません!!」

「怒ってんじゃんかよ…」

まったく…!!朝からお母さんに弄られる事になるとは思わなかった。そもそもなんでタロウさんは今日に限って寝相が悪いんですか!?いつもはちゃんと綺麗に寝てるのに!!嬉し恥ずかしとはこの事ですね!!

「もうじき通学路に出ます。ここからは離れて歩いて下さい。」

どれだけテンパってもやらなければいけない事はちゃんと把握している。ここからは離れて歩かなければクラスの誰に見られるかわからない。変な噂にならないように努めなければタロウさんに迷惑がかかる。私はからかわれても構わないがタロウさんが攻撃対象になるのだけは我慢からない。それだけは絶対に阻止しなければならない。

「え?なんで?」

「誰かに見られて噂になったら面倒ですよ?ただでさえ私はクラスのつまはじきになっているんですから。タロウさんに迷惑がかかります。」

「いや、そんなのいいじゃん。」

「え?」

「昨夜言っただろ?アリスを守るって。だからそんなの関係ないよ。一緒に登校しようぜ。」

「でも…余計とハードルが上がってしまうかもしれませんよ…?」

「いいから。俺に任せてくれよ。アリスの人生俺が責任を負うよ。」

「…そういう事しれっと言うのがズルいんですよ。」

「え?なんだって?」

「なんでもありません!!ほらっ、行きますよ!!」

「なんでそんなに怒るんだ?反抗期か?それは困るな…」

ーー

ーー

ーー

「おい、あれって結城と転校生じゃね?」

「本当だ!なに、あいつらって付き合ってんの?」

「マジ!?やば!!やっぱ結城って不良だったんだな。」

「え?そうなの?」

「だって母ちゃんが言ってた。髪の毛を染めてる奴は不良だって。結城って金色に染めてんじゃん。」

「ばっか、それは外人だからだろ。」

「でも結城は不良だよな。誰とも喋らないし。」

「それは女子にハブられてるからじゃね?」

「どっちにしてもこれは面白い話題だよな。女子に言えばもっと面白くなりそうだし。みんなに言っちまう?あの転校生もムカつくしよ。まとめて成敗しちゃおうぜ!」

「ブハハ!!成敗って!!でもそれ面白そう!!」

「よし、学校行って言い触らそうぜ!!」

ーーとうとうシーンの力がアリスたちへと襲いかかろうとしていた。

だがアリスたちは理解していない。星が5つも付く事の意味を。

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