第111話 孤独

蒼炎の炎が3階の全てを飲み込む。商業施設に入る各種テナントの商品、備品が全て薙ぎ払われ、倒産した後のような様相を呈している。チェンソーと大斧を持った仮面の男たちはその存在が完全に掻き消されていた。どれだけの再生力を持っていようとも圧倒的な力の前には平伏すしか無い。剣聖の力をまざまざと見せつけたのだ。


「…所有がシンタロウへと戻るか。」


バルムンクは自身のカラダが慎太郎から抜けていく気配を感じ、それにより仮面の男たちを完全に消し去った事を確信し安堵する。


「もう少し主と話していたかったと思ってしまうのは我の至らぬ所だな。」


そう言い残しカラダの所有がシンタロウへと戻る。




「…凄えな。流石はバルムンク。俺の頑張り何だったのってレベルだな。」


バルムンクの剣聖の名に恥じぬ強さを目の当たりにされちょっとヘコんでいる俺に優吾が近づいて来る。


「慎太郎!!お前スゲーよ!!あんな化け物を倒しちまつなんて!!」


優吾は小躍りをして喜んでいる。でも俺がやったわけでは無いから結構微妙だ。


「よっし、それじゃあ最後の4階に行っちまおうぜ!!ま、俺は何もできないんだけどな。」


優吾はわらいながはそう言い放つ。憎めない奴だ。

だがその前にやる事がある。俺は奴らに陵辱された女性の遺体に近づく。


「この人を弔ってからだ。せめて綺麗にしてパートナーの所へ行かせてあげたい。」


俺の申し出に優吾は少し不快感を表す。


「そっか。俺はちょっと嫌だから手伝えないぜ?」


「構わない。少し待っててくれ。」



俺は女性を綺麗にして1階にいるパートナーの元へと運んだ。せめて安らかに眠ってくれる事を願って。





*************************





私たちは案内板を確認してここが黒の家である事を確信した。やっとタロウさんに会える。タロウさんがあんな化け物にやられるとは思わないけど凄く心配だ。焦る気持ちを抑えながら3階の殺戮場へと進んだ。

すると、



「なにこれ…全てが燃え去ってる…」


フロアには燃え跡の煤がいたる所に点在している。人の気配…いや、生物の気配がフロアからは感じ取れない。一体何が起こったのだろう。タロウさんはどうしてしまったのだろう。


『これはバルムンクのブラウ・シュヴェーアトが放たれた跡だな。』


ノートゥングが煤を眺めながらそう言った。


「て事はタロウさんはバルムンクを召喚したって事よね?なら勝ったって事?」


『当然であろう。バルムンクがあんな木偶人形に負けるはずが無い。』


「ノートゥングってバルムンクの事が好きなのか嫌いなのかよくわからないわよね。」


『おいミナミ、ふざけた事を申すな!妾がバルムンクを好きなわけがなかろう!』


「はいはい。」


やっぱり良いコンビよね。うんうん。


「じゃあタロウさんは先に進んだんでしょうか?」


『燃え跡が新しいからな。まだここを去ってから数分程度だろう。今なら追いつける。』


「なら行きましょう。タロウさんと合流して後はここを力押しで制圧すればそれで終わりよ。」


「はいっ!」

「はい!」


私たちはエスカレーターに乗って4階の実験場へと向かった。





*************************





「ここが実験場か…?なんか意外だな。商業施設感が全く無い。ただの白い空間だ。」


この商業施設に来る前までの白い通路と部屋を思わせるような作りに戻り正直驚いている。正面に両開きの扉と閉鎖されたエスカレーターだけがある不思議な場所だ。


「あそこの扉を開くのか…?開けた瞬間仮面の奴らが出て来たりしないだろうな…」


行く場所が無い以上は扉を開けるしか無い。嫌な予感を感じながら扉へと向かおうとした時だったーー




「「「タロウさん!!」」」




背後から声をかけられたので振り返る。するとそこに居たのは楓さん、美波、アリスだった。


「楓さん!美波!アリス!」


俺は3人に会えて嬉しくなり近寄ろうとした時だった。楓さんが怪訝な顔をしている。そして何かに気づいたような顔をして口を開く。


「タロウさん!!その男から離れて下さい!!ここにプレイヤーはあなたしかいない!!恐らくその男はーー」


楓さんが俺に大声で伝えている途中、3人の体を黒いエフェクトが包み込む。そして3人の姿がこの場から消え去った。


「楓さん…!?美波…!?アリス…!?」


「ふぅ、危ない危ない。やはり保険は打っておいて正解だったな。」


黙って傍観していた優吾が口を開く。


「お前…楓さんたちに何をしやがった!!!」


「芹澤たちには強制離脱してもらっただけだ。別に死んだり捕らえたりしているわけではない。今頃はリザルト部屋で待機してるだろうよ。」


「…何が目的だ?お前誰だよ?」


「芹澤の台詞で理解しているんだろう?俺はリッターオルデンが一人、ドライ直属のリッター、四ツ倉優吾だ。」


「わけのわからねえ単語並べてんじゃねえよ。」


「理解する必要など無い。どうせお前はここで果てるのだ。本当は貴様を殺し、芹澤たちには支配下プレイヤーに堕ちてもらう予定だったが貴様が死ねばそれで良い。お前は危険だ。ツヴァイと通じて何を企てているかわからん以上は消えてもらう。それにより主人であるドライが”ヴェヒター”に戻る事が出来る。」


「は?ツヴァイ?何でツヴァイが出てくんだよ。」


「惚けおって。まあいい。それを吐かす事もせん。貴様とツヴァイはここで終わりだ。」


「おとなしく聞いてればいい気になりやがって。わけわからねえ事言ってんじゃねえよ。」


「もういい。問答するつもりは無い。」


優吾がそう言うと奥の扉が開き、中から10人程の男たちが現れる。全員が白い装束を身につけ、頭をスキンヘッドにした生気の無い男たちだ。


「リッターだかなんだかしらねーけど結局は複数で襲いかかろうって事かよ。しょうもない奴だなお前。」


「なんとでも言え。俺はお前を侮ったりはせん。貴様の力は全て剥ぎ取った。勝ち目は無いぞ。」


「はぁ?何言ってんのお前。」


「剣聖はあと1度しか使えない、芹澤たちもエリアから退場、もう貴様を助ける者などいないのだ。」


「バルムンク使ってお前ら倒せば終わりだろ。馬鹿かお前。」


「フッ、倒せればな。」


優吾が視線で白装束の男たちに合図を送る。すると男たちが金色のエフェクトを発動させる。そして前方に魔法陣が現れ、中から俺も見た事があるモノが現れる。


「ウールヴヘジン…!?」


間違いない。拳聖ウールヴヘジンが10人いる。


「安心しろ。俺は手を出さん。ウールヴヘジンたちを倒せばこの俺が相手をしてやる。」


「…大物ぶってんじゃねえよ。お前を倒せば終わりってんならやってやる。剣聖の力を見せつけてやるよ!!」





*************************





「ここは…?」


リザルト部屋のような真っ暗な空間に私たちはいる。だがタロウさんの姿はどこにも無い。


「タロウさんは…?タロウさんはどこ…!?」


狼狽える私を嘲笑うかのようにスマホの通知音が鳴り響く。私は苛立ちを露わにしながら乱暴にスマホを取り出しメッセージを確認する。



『エラーが発生した為、芹澤楓、相葉美波、結城アリスの3名はイベントを中断致しました。これによるペナルティーは御座いません。ですが、クランリーダーの田辺慎太郎が敗北した場合はペナルティー対象となります。しかしながら支配下プレイヤーに堕ちる事は御座いません。俺'sヒストリーからの強制退会という形となります。田辺慎太郎が敗北した際は今後の俺'sヒストリーのご利用は出来なくなりますのでご容赦下さい。』



「は…?何よそれ…?じゃあタロウさんを助けに行く事は出来ないの…?」


私は絶望のあまり立っている事はできなく、その場に膝から崩れ落ちてしまった。私の頭は絶望に侵されていた。


「楓さん!!アリスちゃん!!見て下さいっ!!」


美波ちゃんが呼びかけるので力無く顔だけ上げる。すると美波ちゃんのスマホの画面にタロウさんが映し出されていた。


「何…それ…?ウールヴヘジン…?」


「さっきの通知の動画が見れないか確認したら映っていたんです…これはライブ配信だから今のタロウさんの置かれている状況を表しているはずです…」


「そんな…召喚系が10人もいるなんて…」


私たちは何も出来ない。見守る事しか出来ない。

そんな絶望の淵に立たされながらタロウさんの戦いが始まる。

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