第87話 会合
暗黒の空間の中に円卓と7つの椅子がある。時間が経過するとともにその椅子が1つ、また1つと埋まっていく。全ての椅子が埋まると彼らの会合が始まった。
『揃ったようだな。では始めようか。』
円卓に座するモノたちの内の1人が進行を進める。そのモノは他の6人とは違い、豪華に装飾された美しい剣を携えている。彼だけが別格とでも言わんばかりに。
彼らは全員が真っ白な仮面と漆黒のローブを身につけているので区別がつかない。男なのか女なのか。はたまた人間なのかさえわからない。
『先ずはクランイベントの運営御苦労だった。滞り無く計画は進められた、皆に感謝しよう。さて、早速だが、皆の意見を聞きたい。”闘神”はどうだ?』
『問題は無いだろう。1人も欠ける事は無かった。十分な資質と言える。』
『果たしてそうだろうか?”闘神”全員が資質があるとは思えない。蘇我、芹澤、島村以外の者はとても基準に達しているとは思えん。近いうちに入れ替える事になるのが関の山だ。』
『そうでしょうか?僕は芹澤も問題あると思います。桃矢の報告書にはそう書いてありました。』
『ハハハハハ!桃矢は殺されかけたクセによくそんな事言えるな!サーシャは基準に達してると言っているんだ、芹澤は問題ないだろう。何よりあの葵が認めている。それだけで十分だ。』
『問題なのは蘇我と島村だろう。リッターのレビとナッシュを殺したのだ、アレらの実力は”闘神”の域をもはや超えている。始末した方が良いのではないか?』
『あん?レビとナッシュは死んだのか?《身代り》は付けなかったのか?』
『蘇我には存在ごと滅せられた。島村は”神”の所持者だからな、誤魔化しは効かなかったようだ。』
『ま、レビもナッシュもリッターでは最下級だろ。所詮は使い捨てだ。別のモノを昇格させればいい。大した話では無い。』
『蘇我は確かに危険ですよね。彼はクランイベントでも全滅させて終わらせたんでしょ?それに島村もです。何で”神”を渡したんですか?』
『それは島村が選ばれただけの事。他意はない。』
『”同化”でもされたらどうするんです?オルガニの脅威になりますよ?』
『その時はサーシャにやらせればいい。”神”には”神”を。それだけの事だよ。』
『なるほど。でも蘇我はどうするんです?力を待たせすぎですよ?彼はアインスの担当でしょう?どうするんです?なぜあそこまで力を与えたのですか?』
皆の視線が進行役であるアインスへと注がれる。
『私は何もしていないよ。蘇我夢幻が適者だっただけだ。それに彼は何れはリッターになる男だ。我らの同胞だよ。』
『確かにな。蘇我は問題ねぇだろ。芹澤も島村も問題無し。いいか?』
異を唱えるモノは誰もいない。それにより”闘神”の話題は終了する。
『では次の議題へと移ろう。その前に諸君に伝える事がある。赤のマヌスクリプトが解放された。よって契約により次のイベントから対魔法用のスキルを解放する。』
『何だと!?』
円卓に座するモノたちの大半がどよめき立つ。
『まだその時では無い筈だぞ!?』
『赤のマヌスクリプトを発見してしまったのだから仕方あるまい。』
『一体誰が発見したのだ?まさか”闘神”の誰かではないだろうな?』
『結城アリスというプレイヤーだ。』
『結城…?知らんな。』
『結城って芹澤のクランの奴じゃないですか?』
『そうだ。ああ、ゼクスは彼女と面識があったのだね。』
『待てアインス。芹澤のクランだと?』
『ああ。』
『おいおいおい、それは捨て置く事はできねぇだろ。実質芹澤がマヌスクリプトを持ってんのと変わらねぇじゃねぇか。』
『そうだな。戦力のバランスが崩れる。ただでさえ芹澤はゼーゲンを1段階解放しているのだ。さらにはエンゲルまで有る。見過ごす事はできん。』
『それだけが問題じゃありませんよ。桃矢から上がってきた報告によれば芹澤のクランにいる相葉美波はノートゥングを使役しています。』
『ああ?”剣”持ちかよ。確か芹澤の聖符も”剣”だろ?』
『戦力が集中し過ぎだ。”闘神”級が3人もいるクランは容認できん。芹澤のクランは3人だけなのか?』
『いや、あと1人いましたよ。確か田辺って奴が。そいつがリーダーです。』
『芹澤がリーダーじゃないのか?ん?田辺…?聞いた事があるな。確か《巻戻し》を返上して支配下プレイヤーを解放した変わり者の事だろう?』
『ああ、そいつか。いや…ちょっと待て。田辺はバルムンクを持ってる筈だ。”剣”が3本揃ってるって事か!?オルガニと戦争でもするつもりかよ!』
『いくらなんでもこれだけ偏るなんておかしいだろう。作為的なモノを感じる。芹澤と田辺の担当は誰だ?』
『ツヴァイですよ。』
円卓に座するモノたちの視線がツヴァイへと集まる。
『貴様、まだ一言も口を開いておらんな。どういう事だこれは?』
『どういう事?何がだ?』
『惚けるな。これだけの戦力が1つのクランに偶然に集まるなど考えられん。貴様が関与しているのだろう。』
『私は何もしていない。偶然だ。』
『テメェ、それで俺たちが納得するとでも思ってんのか?』
『そもそもクランイベントの主催はツヴァイ、お前だ。お前が何かをしなければマヌスクリプトなどこの段階で現れる筈が無い。説明してもらおう。』
『前からあなたは田辺に肩入れしていましたからね。これは私情が挟まっているんじゃないですか?』
『事と次第によっては貴様には裁きを受けてもらう。さあ、説明しろ。』
場の空気は険悪なものになっている。仮面により表情は見れないがいつ戦闘になってもおかしくはない。不穏な空気が漂っている。
だがその時だった。アインスが持っている剣でコツンと一回地を叩く。それによる衝撃で空間が震えると全員がアインスへと向き直る。
『冷静になれ。ツヴァイは嘘は言っていない。偶然田辺慎太郎の元に集まっただけの話だ。』
アインスによって場が静けさを取り戻す。だが納得できないモノがまだいる。
『だがあまりにも出来すぎだろう!?それを信じろと言うのか!?』
仮面のモノが不満を露わにするがアインスは動じない。数秒思案した後に口を開く。
『わかった。ならばドライよ、次回のイベントの主催はお前に任せよう。主催に成ればツヴァイの潔白も晴れる。それでどうだ?』
『よかろう。それで判断させてもらう。』
『ただしリッターオルデンを使う事は許さぬ。当然”闘神”同士を同じエリアに配置する事もだ。』
『心得ておる。明日までには概要を纏め、明後日には”闘神”に通達。明々後日にプレイヤーに通達し、弥明後日にはイベントを開始する。』
『手際が良いな。他のモノも構わぬな?』
異を唱えるモノは誰もいない。
『ではこれにて会合は終了とする。』
アインスが終了を告げるとツヴァイを除くモノたちが一斉に姿を消す。
『アインス、なぜ私を庇う?嘘を言っていない証拠など無い筈だ。』
『フフフ、私の勘だよ。』
『勘で私を信じるのか?』
『ああ。オルガニの為になるだろうという私の勘だ。正直お前が嘘を吐いていようがいまいがどうでもいい。オルガニの為になるのならな。』
『フッ、随分といい加減だな。私が何かを狙っているのかもしれないぞ?』
『私を欺く事はできん。例えお前でもな。オルガニの教義から外れれば如何にお前でも私は処断する。肝に命じておけ。では私も失礼させてもらおう。』
アインスも姿を消し、空間内にはツヴァイだけとなる。
『欺く事はできないか…アインスよ、お前は何か勘違いをしている。私はオルガニの教義に背く事は無い。だがオルガニの為に尽くすつもりも無い。』
ツヴァイが席を立つ。
『田辺慎太郎。私は次のイベントには関与できない。お前たちの真価が問われるぞ。私の期待を裏切るな。』
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