第82話 取引
「澤野…!お前生きていたのか?」
何でこの男が来るのよ…せっかく良い雰囲気だったのに。せっかくいちゃいちゃできたのにっ!!!
「なんや、美波ちゃんから聞いとらんのかいな。あ、そかそか。ワイと会った事は内緒にしたかったんやな。そらシンさんに言いたくなんかないもんなぁ、ワイとの情事の事なんて。」
「馬鹿な事言わないで!あなたなんかとそんな関係になんか死んだってならないわ!」
「カカカカカ!相変わらずやなぁ美波ちゃんは。早くワイに屈服させてケツの穴まで舐めさせたいわ。」
本当に気持ち悪い。オレヒスで散々男の本性を見せられてきたけど澤野は群を抜いている。タロウさんと同じ生き物だなんて信じられない。
「そんな事させねぇよ。美波には指一本触れさせねぇ。」
タロウさんが私の前に出て澤野の視界に私が入らないように壁になる。
はうっ…!そんな事言われたら胸がキュンキュンしちゃいますよ…!美波のハートがオーバーキルです!!
「…フン、まぁたエェカッコしいか。その偽善者っぷりはホンマ反吐が出るわ。少しは素直になったらどうや?自分だって美波の事をめちゃくちゃにしたいんとちゃうん?」
タロウさんを背後から凝視してしまう。
ごめんなさいタロウさん。私もその質問にはすごく興味があります。私はタロウさんになら…その…めちゃくちゃにされたいというか…むしろ力ずくでしたいというか…
「そんな事思わねぇよ。力ずくでしようなんてクズの思考だろ。」
ぐはっ…!!ごめんなさい…私の思考はクズでした。反省します。
「かぁーつ!!!ションベン臭い事言いおって!!!お前の化けの皮剥いでやりたいわ!!!」
「お前に理解してもらおうなんて思ってもいないし理解されたくもねぇ。とっととここから失せろ。できなゃ今度は本当にアルティメットを発動させるぞ。」
不穏な空気が流れる。でもこんな状況なのに私を守ってくれるタロウさんに対して胸が苦しくなってキュンキュンしてるなんて絶対言えない。
「…まぁええわ。今日はアンタに用があって来たんや。」
「俺に?」
絶対ロクな事にならない。澤野が何の企みも無いなんて事はない。
「せや。シンさんに会いたいっちゅー奴がおるんや。だからワイにちぃと付き合ってや。」
「ダメですよタロウさんっ!絶対罠です!あの男が何か企んでないわけがありませんっ!」
「酷いなぁ美波ちゃん。ワイも傷つくで。今日は紳士なつもりで来たんやでー?」
「茶番はやめなさい!あなたを信用なんてできるわけがないわ!」
「カカカカカ!ま、別にええんやで。来なくてもワイは困らんし。ワイはただの使いや。でもな、来てくれたらエェ情報を教えたるで。オレヒスについてのな。」
「情報?何だよそれ。適当な事言ってんじゃねぇのか?」
「いいや、ホンマもんやで。」
信用できない。この男の言う事なんか信用できる筈がない。絶対にタロウさんを連れ出そうとする為の罠だ。
「悪いがお前を信用する程馬鹿じゃない。帰ってくれ。」
「なら少しだけサンプルを教えたる。」
「サンプル?」
「せや。トート・シュピールの時の事や。お前らの最後の相手は誰やった?」
…何を言ってるの?私たちは澤野に屈しそうになった時に楓さんに助けられた。それが最後のバトルでしょ。質問の意味がわからない。
「お前だろ。俺たちは楓さんに助けられてイベントは終わった。」
「ホンマにそうか?」
「は?」
「まだ随分と時間が残っとるのにホンマにそれでイベントが終了するんか?そもそもワイと戦った後にお前らは何しとった?記憶ちゃんとあるか?」
…言われてみればそうだ。改めて思い返してみてもその間の記憶は無い。何だか知らないけどイベントが終了したという記憶があるだけだ。確かにおかしい。
「お前らはワイと戦った後にもう一戦やっとるんや。夜ノ森葵ってやつとな。」
「夜ノ森…葵…?」
…思い出した。何で忘れていたんだろう。葵ちゃんだ。私たちと途中まで行動を共にして来た夜ノ森葵ちゃんだ。バルムンクとブルドガングの2人をも圧倒したあの娘の事を何で今まで忘れてたんだろう。
「美波ちゃんは思い出したみたいやなぁ。」
「そうなのか、美波?」
「はい…バルムンクとブルドガングの2人がかりでも歯が立たなかった相手です。ほら、途中まで行動を共にしていた。」
それを聞いた時にタロウさんもハッとした表情になる。
「思い出した…何で忘れてたんだ…」
「それは記憶の操作をされとったからや。」
「記憶の操作?誰に?」
「オルガニにや。」
オルガニ…楓さんと戦ったあの男もそれを口にしていた。オルガニってなんなの…?
「オルガニ?何だよそれ。」
「サンプルはもう終いや。まだ聞きたかったらワイと一緒に来るしかないな。さ、どうする?」
相変わらず汚い男ね…!でもそんなのに釣られて行くわけにはいかない。タロウさんだって断る筈ーー
「わかった。行くよ。」
「た、タロウさんっ!?」
な、なんで!?ダメですよ!!絶対罠だもん!!
「オレヒスを続ける上でかなり重要な情報かもしれない。少なくともアイツは何かを知っているのは確かだ。それなら行く価値はある。」
「で、でもっ!!」
「美波は残ってくれ。それでーー」
「それはアカンな。」
タロウさんの言葉に澤野が言葉を被せる。
「美波ちゃんも一緒じゃなきゃダメや。」
「は?美波は関係ないだろ。そいつは俺に会いたいだけなんだろ。」
「んな事は簡単や。美波ちゃんを残したら楓ちゃんに報告する。したら楓ちゃんがめちゃくちゃにしてまうやろ?だからアカン。それが飲まれへんのならこの話はこれで終いや。」
「…どうする美波?俺は美波が嫌なら諦める。だから気を遣わずに正直に言ってくれ。」
…本音を言ったら行きたくはない。非常に嫌な予感がするもん。でもタロウさんは行きたいって言うなら私の答えは一つ。それに1人で行かせるなんてどっちにしてもできないからついて行くつもりだったし。
「わかりました。行きましょう。」
「いいのか?」
「その代わり後でお願いを聞いて下さい。」
「いいよ、俺にできる事なら。」
やったっ!言ってみるもんだ!勇気を出して良かった!タロウさん成分が不足してるんだからこれぐらいいいよねっ!
「決まりやな。ほなこっちや。外におるで。」
澤野がドアを開けて出て行く。
「でも澤野の罠で楓さんとアリアちゃんを襲撃する手筈になっているって線はありませんか?」
「仮にそうであっても楓さん程の人なら気配で起きるよ。心配はいらないさ。」
「そうですねっ。じゃあ行きましょうか。」
私たちも澤野の後について行き、ホテルの外に出る。
周囲を見ても取り囲まれてるというわけではなさそうだ。
「ワイと美波ちゃんはここまでや。この向こうにおる。行ってみぃ。」
「美波は待っててくれ。気をつけてな。」
「…タロウさんも気をつけて。」
タロウさんが私から離れてホテルの向かいの建物へと向かって行く。
…何か嫌な予感がする。やっぱりやめた方がいいとタロウさんを止めようとした時だったーー
ーータロウさんを青いドームのようなものが包み込んだ。
「タロウさんっ!?」
「カカカカカ!!シンさん!!!お前馬鹿ちゃうの!?そんな簡単に人を信用したらダメやで!!!」
「ひ、卑怯じゃない!!!タロウさんに何をしたの!?」
「カカカカカ!!呼んでる言うんはホンマやで。シンさんと2人きりで話がしたいみたいや。話だけで終わるかは知らんけどなぁ。そんな事より…やっと2人きりになれたな美波。」
澤野が舐め回すような目つきで私を見る。
ーー私たちの今イベント最後の戦いが始まる。
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