第36話 トート・シュピール終了

「金色って…」


「そうだよー。別にアルティメット持ってないなんて一言も言ってないけどなぁ。」


私が視えた未来は断片的だし白黒だったからエフェクトの色まではわからなかったがアルティメットという事は相当手強い。でもタロウさんと楓さんもアルティメットを持っている。卑怯かもしれないけど2人がかりで負けるわけがない。


「あなたの事をよく知らないけど一応言っておくわ。退くならば私たちは戦ったりしない。立ち去ってくれないかしら?分は明らかに悪いと思うわよ。」


「ああ。わざわざ戦いたくはない。少なくとも美波とは一緒に戦ってくれたわけだし。」


「あは!楓ちゃんはそういう高飛車な所がダメだよねぇ。」


「…!どうして私の名前を…?」


「どうしてだろうねぇ?楓ちゃんさ、自分が最強とか勘違いしちゃってるでしょ?ふっふっふー、上には上がいるよー?私がそれを教えてあげるよ。」


「ウフフ、つまりあなたは喧嘩を売っているのかしら?私たち相手に本気で勝てるとでも?」


「勝てるよー?『憑依』しかできないレベルで私に勝てるわけないよ。せめて『具現』できるようにならないとね。」


「『具現』?」


「あー、それはーー」

「葵。」


葵ちゃんの後方の茂みから新手が現れる。

現れたのは金色の髪をした少女だった。まだ幼さの残る顔をした青い目をした外国人だ。


「あれ?来ちゃったの?」


「来ちゃったの、じゃないわ。余計な事を言うのはやめなさい。」


「はいはーい。サーシャは手厳しいなぁ。」


「そろそろ時間になる、さっさと殺してしまいなさい。」


「ダメダメ!たーくんたちは殺さないよ!それはオルガニの計画とは違うからね。それに水をもらった恩があるから!ね、たーくん!」


タロウさんは厳しい顔をして葵ちゃんを見つめている。あのサーシャという子まで参戦してきたら都合が悪いという事を考えているのだと思う。葵ちゃんの仲間ならサーシャがアルティメットを持っている可能性は高い、そしてタロウさんは手負いの状況、一気に形勢が逆転してしまった。


「あ、もしかして私がたーくんたち殺すと思った?しないしない!私は稽古つけてあげるだけだよん。」


「ウフフ、ずいぶんと上から目線なのね。」


楓さんは余裕のある顔をしてるけど明らかに怒ってる。うわぁ、怖いなぁ。


「稽古ね、そんなに上手くいくかしら?あの女、『ゼーゲン』を持ってるじゃない。」


「え?あー!本当だ!!マジかぁ。ゼーゲン解放したのかぁ。面倒だなぁ。」


ゼーゲン…?楓さんの持っている剣の事だろうか。やっぱり何か特殊な物なんだ。


「ま、いっか。ハンデハンデ!時間も無いから始めよっか。」


葵ちゃんが放つ金色のエフェクトの輝きが強さを増す。すると上空に魔法陣が展開している事に気付く。今まで見てきたアルティメットの発動とは違う。タロウさんに楓さん、そして甲斐も、使用者の前方に文字列と魔法陣がセットで発動していた。だが葵ちゃんは上空に魔法陣を出現させている。


そして魔法陣の中から細長い三角形のような形をした小型の機械のようなモノが4基現れる。

想像もできないようなモノが現れる事程恐ろしいものはない。バルムンクたちのような『ヒト』が出てくるのだとばかり思っていたのに機械だとは思わなかった。アレは一体何なんだろう…いい予感はしないけど…


「この子たちはカノーネ。私のスキル《創成》によって生み出した可愛い僕だよ。」


「アルティメットって誰かを呼び出すものだとばかり思っていたけど違うんだな。」


「あは!たーくんたちが持ってるのは『召喚系』だよ。私が持ってるのは『時空系』っていうの。時空系は時間と空間に影響を及ぼすスキルが使える。そして召喚系は…よく知ってるよね?それに『強化系』の3種存在するんだよ。」


「何だか急展開だな。一気にそんなに設定追加されても困るんだけど。」


「どうせ忘れちゃうから気にしないでいいよ。それよりも…」


葵ちゃんが掌をタロウさんに向けたと同時に葵ちゃんの目が一瞬銀色に光る。そして掌から出た青白い光がタロウさんに直撃する。


「「タロウさん!?」」


私と楓さんが同時に叫ぶ。楓さんは間髪入れずに鞘から剣を引き抜き葵ちゃんへと斬りかかろうとするーー


「待って待って!私はたーくんを回復させただけだって!ほら、ちゃんと見てよ!」


私たちはタロウさんを見ると、タロウさんの身体についた傷が消えている。


「腹の痛みも消えている…。どうして俺を?」


「言ったでしょ、稽古だって。ダメージを言い訳にされちゃ困るからね。さ、剣聖と剣帝を召喚して全力でかかってきなよ。」


「ウフフ、あなたを倒して知ってる事を全部吐かさせてあげるわ。」


「私を倒せたら何でも話してあげるよー。」


「言ったな。楓さん、行きましょう!」


「ええ!」


2人がバルムンクとブルドガングを召喚する。

楓さんを含めて3人も別次元の美女がいるってすごい光景だなぁ。みんな綺麗で羨ましい。


『…ふむ。手強いな。』


バルムンクが初めて険しい表情を見せる。いつもキリッとした表情を見せているバルムンクだが、こんなに険しい表情を見せたのは初めてだ。


『…そうね。』


口数の多いブルドガングまで言葉が明らかに少ない。葵ちゃんが見せる余裕が虚勢で無い事を2人の態度が裏付けた。


「あなたたちがそう思う程の相手という事?」


『ええ。アタシと剣聖2人でも今の状況では勝てないかもしれない。』


「マジかよ。バルムンクも同じ意見?」


『そうだな。あの女は底が知れん。今の我々では勝てんだろう。だが…勝算が無いわけではない。』


『アタシも同じ意見よ。勝算はある。時間も無いから最初から全力で行くわよ。カエデ、任せなさい。』


「お願いね、ブルドガング。」


ブルドガングが楓さんに憑依をするーー


「頼むよバルムンク。」


『シンタロウの期待に応えられるよう全力を尽くそう。』


バルムンクもタロウさんに憑依するーー



「準備は出来たね?じゃ、おいで。」


葵ちゃんがかかって来いと言わんばかりのジェスチャーをして2人を煽る。


「舐めてくれるじゃない。いくわよ剣聖!」


「2対1というのは好まんが仕方あるまい。遅れを取るなよ剣帝。」


バルムンクは照準を葵ちゃんへと合わせると一瞬のタメから横一閃薙ぎ払い、鎌鼬の刃による遠距離攻撃を試みる。そしてブルドガングは一気に葵ちゃんへと距離を詰め始めた。

バルムンクが放った斬撃の刃を葵ちゃんは飛ぶように躱すと、距離を詰めてきたブルドガングが宙へ飛んだ葵ちゃんに斬りかかる。だが葵ちゃんはカノーネに自身を運ばせ、そのまま上空に避けていった。


「即席コンビなのに息が合ってるねー!」


感嘆の吐息を漏らした葵ちゃんはカノーネを1基ずつ操作し、バルムンクとブルドガングそれぞれに迎撃に向かわせる。カノーネは不規則な動きを繰り返し2人に迫る。自身へと迫るカノーネに対してバルムンクは様子見の斬撃を加える。それに対しカノーネは半透明の盾のようなモノを展開し斬撃を弾く。


「奇怪なモノだな。だが、守っているだけではーーぐあっ!!」


ーーバルムンクの背中に一筋の光が降り注ぐ


光線の先を見ると宙にもう1基のカノーネが漂っている。それは先程まで葵ちゃんを護衛するように纏わりついていたカノーネ2基の内の1基だ。


「今のは、か・な・り、手加減したんだよー。遠距離攻撃がこの子たちの基本スタイルだから気をつけてねー。」


背後からの奇襲とはいえバルムンクが気付かなかった程の攻撃は厄介だ。照射時にノーモーションというのも理由の1つであろう。


2基のカノーネは不規則な動きを繰り返しながらバルムンクの周囲を旋回する。光線の速度はかなりのものであった。威力を抑えてあの速度ならば本気ならどうなるか見当もつかない。目を離すわけにはいかない。

だがカノーネだけに意識を集中してもいられない。使用者の葵ちゃんがいる。彼女がどう動くかわからない以上は実質的にバルムンクの動きは封じられたに近い。


この状況を打開するのはブルドガングしかいない。カノーネ1基との攻防を続けているが互角以上に渡り合っている。ブルドガングもバルムンクの状況に気づき動き始めるーー

ブルドガングが対峙しているカノーネに対して真空の刃を放つ。だがカノーネのシールドが展開して刃を弾いた。しかし、弾かれた刃がバルムンクと対峙するカノーネへと向かい直撃する。シールドを展開できなかったカノーネは地へ叩きつけられる。ブルドガングの頭脳プレイだ。


この好機を逃さなかった


それぞれ1基ずつとなったカノーネを2人は有無を言わさずシールドごと地へ叩きつける。そして2人は一瞬で葵ちゃんへと間合いを詰め、バルムンクが最後のカノーネ、ブルドガングが葵ちゃんへと剣を振り上げ勝負を決めーー




「ーーはい、かかったと。」







2人の後方に突如、倒した筈のカノーネ3基が現れ光線のフルバーストをかける。


「ぐぁぁぁぁ!!!」

「あぁぁぁぁ!!!」







「バルムンク!?ブルドガング!?」


ーー直撃だった


ここまで全部読んでの事だったんだろう。強い。圧倒的に強い。





「…くっ、剣聖…アンタ…大丈夫…?」


「…フッ、またシンタロウの身体を駄目にしてしまったな。」


「…大丈夫って事ね。剣聖、アンタに頼みがあるわ。」


「…ふむ。何だ?」


「…アタシがあのクソ女に奥義ぶっ放すから周り飛んでる邪魔なガラクタ任せていい?悪いけどカエデとシンタロウの差は明らかでしょ?この剣が大きな差をつけてるのよ。ゼーゲンの無いアンタの身体じゃあのクソ女に届かないわ。」


「…気を遣わなくても大丈夫だ。今の我は弱い。我ではあの女に刃は届かん。だが、貴様ならば届くかもしれん。その為の障害は…我が取り除く。」


「…ありがと。その想いに報いてみせるわ。」


2人が立ち上がり剣を構えるーー



「まだ立ち上がるかぁ。もうすぐ終了時刻なんだから寝てればいいのに。上には上がいるってよーくわかったでしょ?」


「そうだな。実力差は身に沁みた。しっかりと鍛錬を行おう。だが勝敗は別だ。」


「やれやれ。じゃあ少しだけ本気出してあげるよ。」


葵の瞳に金色の焔が灯るーー

それと同時に4基のカノーネがバルムンクへと牙を剥く。先程までシールドとして展開していた半透明の盾が剣状に形を変えて襲いかかる。

だがバルムンクはその刃を簡単には受けたりはしない。躱す事ができる攻撃に対しては華麗に身を躱し回避行動を取る。残り時間やカノーネの数を考えても各基撃破している時間は無い。一振りで根刮ぎ薙ぎ払う、バルムンクの考える手はそれしかなかった。そしてそれができる手段も1つしかない。奥義の使用だ。その一瞬の隙をバルムンクは伺っていた。


「へぇ、すごいすごい!4基相手に躱してるじゃん!流石は剣聖!」


相変わらずの上から目線での賞賛、だが葵のその舐めきった思考がバルムンクに好機をもたらす。

カノーネの攻撃が一瞬だけ単調なものになる、ほんの僅か、いや、刹那と言っていいぐらいの隙が生まれた。だがバルムンクにとってはその僅かな隙だけで十分であった。真の力の解放からは程遠いとはいえ、この場にいるのは剣聖と謳われた程のモノだ。それを逃す筈など無い。

バルムンクを纏う金色のオーラが黄金の輝きを放つーー


「全ての剣の先に我は在るーーブラウ・シュヴェーアト!!」


蒼炎の衝撃波が空間を引き裂き、カノーネへと襲いかかる。カノーネはシールドを展開させブラウ・シュヴェーアトを防ごうとするが、放たれた蒼炎の衝撃波はシールドごとカノーネを飲み込んでいった。


「げっ!!私のカノーネ!!」


持てる力を全て使い果たしたバルムンクはその場に崩れ落ちてしまう。


「後は任せたぞ剣帝ーー」


「くっそ!流石に調子にーー」

「ーー余所見してるなんて随分余裕ね。」


その声に葵はすぐさま反応するがもう遅いーー


ブルドガングは自身の剣、ゼーゲンに雷のようなエフェクトを纏わせ、変則的な脇構えの構えを取って葵の間合いに侵入している。

ガードは間に合わない、カノーネもいない、新たに何かを創成する時間も無い、そんな状態でこんなものを喰らったらひとたまりも無い事は容易に想像できる。


「アタシらを舐めすぎよ。調子に乗るなクソ女。」


ブルドガングの纏う金色のオーラが黄金の輝きを放つーー


「アタシの前に平伏しなさい、ブリッツーー」


その時だったーー



ブルドガングが奥義を放つ寸前にゼーゲンを振り抜く事を何者かに阻止される。ブルドガングが視線をゼーゲンへと移すと何者かの剣がゼーゲンを抑えて奥義の発動を封じている。

そう、この場にいたもう1人のプレイヤー、サーシャによって。



「悪いわね。勝負の邪魔をするなんて無粋な事はしたくなかったのだけれど2対2という事で大目に見て欲しいわ。」


「ーーーーッ!!まだ終わりじゃーー」

「いいえ、もう時間よ。」











電気を消したかのように一瞬で真っ暗な闇に包まれる。そして静寂の後にアイツが現れるーー












『でハ、リザルトを始めましょうカ。』

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