第25話 女の力
「な、なんで…?私にスキルを使っていたんじゃないの…?」
「ハッハッハ。確かにお前にスキルは使ってたぜ。そして、あの女にもな。」
「どういう事…?」
「誰がSS1枚しか持ってないなんて言った?俺はSSを2枚持ってんだよ。だからテメェら1人1人にそれぞれスキルを使ってたんだよ、ハタ目からは銀色のエフェクトが二重にかかってるかなんてわかるわけねぇもんなぁ。ハッハッハ!」
山岡は自分の描いたシナリオ通りに事が進んで非常に上機嫌であった。
本来この山岡という男は自己顕示欲が非常に強い。甲斐に敗れ奴隷に堕ちるまでは現実世界においては若くして組の幹部を務める程の狡猾さを秘めていた。のし上がる為には手段は選ばない。卑怯、卑劣、悪辣。負のワードの大半はこの男のトレードマークになるぐらいだ。
そんな山岡が自分と同じ組に所属し、自分よりも年下の甲斐の下につくなんて事はあってはならない事であった。
必ずのし上がる。その思いを胸に秘め、今日まで山岡は必死に耐えてきた。そんな我慢の日々の中で久しぶりの歓喜の時を山岡は感じていた。
「まぁ、あんな上玉の女を殺しちまったのは計算外だったけどなぁ。何とか生きてりゃあいいけどよ。男の味を教え込んでやらないといけねぇしな。ハッハッハ!」
「本当に下衆な男だね。女をなんだと思ってんの?」
「道具だろ?男の性欲発散の為の道具だ。それ以外に何の使い道があんだ?力は男よりも遥かに劣る。身体能力は圧倒的に男が上。知力にしても同様だ。男の方が知恵もあんだろ。女なんて性欲の処理とガキを産む為だけの道具だ。」
「そうかな?男も別に大した事ないんじゃない?女の方が優秀な生き物なんてたくさんいると思うけどな?オジサン、ヤクザなんて馬鹿な仕事してるからそーゆーのわかんないか。あは!」
「いいねぇ。その口、いつまで利けるか楽しみだ。」
山岡が葵との距離を詰め始める。
「オジサンってさ、終始私らの事ナメてたよねー。」
此の期に及んでまだ会話を続ける葵に違和感を覚え山岡は立ち止まる。
「…たりめぇだろ。この俺が何で女如きにマジにならなきゃいけねぇんだ?現にテメェらはこのザマだろ?」
「このザマ…ね。きっとアンタが真剣に戦ってればこの戦いはアンタの圧勝だっただろうね。」
「…何を言ってんだテメェは?気でも狂ったのか?俺の圧勝だろうが。ヤベェ薬でもキメてんのか?」
「聞く耳持たずか。愚かだね。私は平等にチャンスを与えたんだけどな。」
意味のわからない事を話す葵に山岡は少し恐怖にも似た感情を覚えた。恐怖という感情は山岡は自身の人生において1度だけ経験をした事がある。それは甲斐に敗れ奴隷に堕ちた時だ。その時だけは山岡も恐怖を感じていた。それ以外には恐怖を感じた事などは一切無い。30年以上も生きて来て恐怖を感じたのは1回だけしかないなんて常人には考えられない。それだけ山岡のメンタルが異常という事だ。裏を返せばそんな山岡が恐怖を感じるのであればそれは相当な危機だ。その恐怖にも似た感情を山岡は今感じている。
山岡は理解できない
相手を舐め、女を舐めて来た山岡にはこれから自身に起こる事を理解できない。
山岡は想像できない
美波を、葵を、舐めてかかっていた山岡が、自身にこれから起こるであろう事を想像できない。
だが、理解や想像ができなくても、理解せざるを得ない、想像せざるを得ないという状況に変わりはない。山岡の理解、想像が追いつく事を時間は待ってはくれない。
山岡は自身の背後から人の気配がしているのを感じる。
山岡の心臓の鼓動が速くなる。眼前にいる葵と目は合っているが山岡の意識は葵には無い。背後にいる存在に向いている。
ここまでの時間が山岡には数分経っているように感じるが実際は1秒も経っていない。死の間際には走馬灯を見るというが、山岡には人生を振り返るわけではなくただ時の流れが緩やかに感じたのだ。
だがそれも終焉を迎える。
所詮は走馬灯など自分が作り出した錯覚にしか過ぎない。時の流れは万物に平等なのだ。
山岡が背後を振り返ろうとした時、自身の足に激痛が走りその場に崩れ落ちてしまう。立ち上がろうとするが足に力が入らない。当然だ。足の腱を斬られている。
山岡は自身の足の腱を斬ったのが誰なのか確認をする為、両膝をついた状態から振り返る。
そこにいたのは相葉美波であった。先程会心の当たりをその美しい顔に叩き込んだ筈なのに傷一つついていない。何も考えがまとまらない山岡がつい口から出た言葉はとても稚拙なものであった。
「なんで…?」
それは山岡の素直な気持ちであろう。この時が山岡の生涯において最も素直な時だったのかもしれない。
「あなたの敗因は2つあるわ。1つは、スキルを2つ重ねて使用した事で私を本当に倒したのか判断できなかった事。SSは1人に対してしか効果が及ばないから本来なら相手を倒してしまえばオーラは消える。でもあなたは重ねがけをした事によってその判別ができなかった。それでも私の状態をちゃんと確認すれば同じ結果にはならなかったでしょうね。」
ようやく山岡の顔が恐怖に満ちる。今ならば舐める事などきっとしないだろう。
だがもう遅い。
「そしてもう1つはーー女を舐めている事よ。」
「ヒイッ…!!」
山岡が美波から逃げようと正面に向き直る。だが、正面にはーー
「やっほー!じゃ、サヨナラだねー!バイバイ、オジサン!!」
葵の渾身の回し蹴りが山岡の顔面を捉え、海まで吹き飛ばされ山岡は完全に沈黙した。
「女を舐めないでよね。」
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