第24話 失敗

「おとなしく出て来やがったな。あん?女が2人じゃねぇか。どっちも上玉だが、左の方はスゲェな。ここまでのモンは見た事ねぇ。美味そうだ。へへへ。」


「うわ…キモ…その風貌で笑ってるとキモい以外に言葉なんかないね…」


「嫉妬すんな。お前もかなりのモンだ。ただそっちの姉ちゃんがちぃとレベルが高すぎんだよ。わかんだろ?お前もちゃんと可愛がってやるからよ。」


こんな男に容姿を褒められてもちっとも嬉しくない。それどころか嫌悪感がすごくて気持ち悪い。

…タロウさんに褒められれば嬉しいけど。


「あー、結構です。私はイケメンが好きだからオジサンじゃ無理すぎかかな。それに筋肉質なのは好きだけどマッチョはキモいから尚更無理。」


「お前の意見なんか聞いてねぇよ。女の分際で男に逆らうんじゃねぇ。お前らは俺のモンだ。感謝しろ。」


「女はモノじゃないわ!あなたみたいな考えの人がいるから男女差別が無くならないのよ!!」


「そーだそーだ!男女差別はんたーい!!」


「へっ、おとなしそうなツラして言うじゃねぇか。躾が必要みてぇだな。女は男より下だって身体にしっかり教え込んでやるよ。」


山岡の体から銀色のエフェクトが発動する。やはりSSのスキルを持っているのね。


「やっぱり予想通りSS持ちね。葵ちゃん、2人がかりであの男を倒そう。1対1なら体力差があるから不利だけど2人でなら女でもこちらが有利。それにSSは1人にしか効果が及ばないから私たちのどちらかとはスキル無しで戦う事になる。私たちはどちらもSS持ちだから一撃入れば決着がつくわ。もう1人の方はあれだけボロボロなら戦う事はまずできない。この男を倒せば私たちの勝ちよ。」


「オッケー。じゃあオジサンに女の力を教えちゃおっかぁ!」


私たちの体からも銀色のエフェクトが現れる。


「へぇ、どっちもSSか。面白ぇ。」


ずいぶんと余裕ね。2人相手に勝てる算段があるって事?それとも女をとことん舐めているだけ?


「じゃあ行くぜ。死ぬなよー?」


山岡が歩みを進めてこちらへ向かってくる。

私もラウムからロングソードを取り出し、《騎士の証》を発動する。

山岡が私に対し殴りかかってくるがそれを難なく躱す。山岡は軽く殴って来ただけだが本来の私ならそれすら躱す事なんてできない。不思議なもので体が自然と回避行動を取ってくれるのだ。これがSSのスキル。とても頼もしく思う。

私に回避された後山岡は葵ちゃんに目標を定め蹴りを放つ。だが葵ちゃんも簡単にそれを回避する。

私に対しても葵ちゃんに対しても攻撃のスピードや威力は同程度だ。今のだけではどちらに対してスキルを使っているのか判断できない。


「なんだなんだぁ!?逃げてるだけじゃ俺は倒せねぇぞぉ!?デカイ口叩いた癖に所詮は女だな。男の力が怖くて仕方ねぇんだろ?ハハハ!」


「葵ちゃん、挑発に乗っちゃダメよ。慎重にいきましょう。」


「はいはーい!」


「冷静だな姉ちゃん。賢そうなツラしてるもんな。お勉強だけして来たお嬢様って感じか?それだけのツラしてても男経験なんかねぇだろ?俺がしっかりと教え込んでやるからな。ハハハ!!」


「笑いたければ笑いなさい。別にそんな経験が有ったからって偉いわけではないわ。」


「へっ、そういやあ男がいるって話だったが男はドコ行ったんだ?まさか女を置いて逃げちまったのかぁ?ハハハ!情けねぇなぁ!とんだ腰抜けだぜ!!」


「…は?訂正しなさい!タロウさんを悪く言う事は許さないわ!!」


ふざけないで。タロウさんの事は絶対に悪く言わせない。許さない。絶対に許さない!!

私は頭に血が上りロングソードを強く握りしめ山岡を斬りつけようとした時だったーー


「美波ちゃん。落ち着きなよ。挑発に乗っちゃダメ、なんでしょ?」


「ーーーーっ!!」


私は葵ちゃんに諭されギリギリの所で踏み止まれた。


「たーくんを悪く言われてムカつく気持ちはわかるけど冷静に行こうよ。ね?」


葵ちゃんが私に対しウインクをしてくる。

私の方がお姉さんなのに何やってるんだろう。しっかりしなきゃ。


「…ごめんね葵ちゃん。一気に頭に血が上っちゃってた。葵ちゃんが止めてくれていなかったら危なかった。ありがとう。」


「どーいたしましてー。じゃあ貸し1って事でー。」


「うん、わかった。任せて!」


私は今一度冷静さを取り戻し剣を握り直す。


「へっ、上手くいくかと思ったのによ。んじゃま、普通に男の力を見せつけて叩き潰すか。」


山岡が再度私たちへ襲いかかって来る。だが行う事は先程と同じだ。山岡の本気ではない攻撃を私たちは躱す、その繰り返しが数分間続いた。

だが山岡はそれに我慢できなかった。恐らくこの男は元来気の短い性格なのだろう。ついに痺れを切らして葵ちゃんに対し威力の違う蹴りを放った。明らかに先程までとはスピードの違う蹴りを葵ちゃんに放った。私の見間違いではない。スキルを使っているのは葵ちゃんに対してだ。私ではない。

私はこのチャンスを逃さなかった。剣を両手で持ち、全力の一撃を山岡に喰らわせようと一気に距離を詰める。体の使い方は《騎士の証》によって頭で考えなくても体が勝手に動く。まるで昔から剣を習っていたかのように、知っていたかのように体が動く。そして私の間合いに山岡が入り、渾身の一撃を喰らわせたーー




















筈だったーー
















「スキルを使って能力は上がってもテメェ自体は喧嘩なんかした事ねぇだろ?経験が違うんだよ。」





私の一撃は山岡の腕で防がれた。真剣な筈なのに斬れていない。よく見ると山岡の服の袖から手甲のような物が覗いている。あれで防がれたんだ。最初からこれを狙っていたの…?見事につられてしまった。

だがもう遅い。私の左頬に衝撃が起き、岩場へと吹き飛ばされた。



「おっと、首の骨折れちまったかぁ?手加減忘れちまったよ。」



「美波ちゃん!?」

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