第18話 トレード

「友達からスキルアップカードをもらってしまうというのは何だか気が引けますね…」


楓さんが申し訳なさそうな顔をしている。


「そんな事は気にしないで下さい。それはそれ、これはこれですよ。」


「そうですよ!これは交渉で来たんですからっ!」


「ありがとうございます。では、私が出すカードはこれです。」


楓さんが自分のスマホを俺たちに見せてくる。




《ダブルスーパーレア 騎士の証 効果 騎士の力を得る事ができる。ただし、1日に1度、1体に対してのみ。 Lv.1 》



《ダブルスーパーレア 予知 効果 イベント、シーンの中で未来を予知できる。良くも悪くも未来を変える事は可能。ただし、1度のみ。 Lv.1 》




「バトル系のはすごく良さそうですね。かなり戦力になりそうだ。」


「そうですね。でもこの《予知》ってすごくありませんか?未来を見られるなんてかなり便利なんじゃ…」


「確かに。ゲームを支配できそうなスキルだよね。」


「残念ですが、そこまで便利なスキルではありません。」


「どういう事ですか?」


「私は《予知》を2回程使ったのですが全く成果は得られませんでした。それに見えるのもほんの一瞬です。ですが、終盤に使えば大きな成果を得られる可能性があります。」


「なるほど。時間制限とかがあるイベントやシーンなら成果は得られますね。」


「えっと…どういう事でしょう?」


「《予知》はイベントやシーンの中での未来を見られる。イベントやシーンは必ず終わりがあるわ。時間を分母、予知できる場面を分子と考えてみて。時間制限有りのイベントやシーンでは時が経てば残りの時間が少なくなるわよね?そうなればいずれ残りの時間は60分、50分と減っていく。そうすれば勝負所の重要な場面の予知をできるかもしれない。」


「あ、確かに。でもスキルは3枚しか装備できないからその為に1枠使うのは厳しいですよね。」


「そうね。でも組んで戦う事ができるプレイヤーがいれば話は変わるわ。本来ならば組んで戦う事なんてできない。でも奴隷を持ってるプレイヤーならばそれができる。そういうプレイヤーには非常に有効なカードといえるわ。そしてそれ以外にも1組だけ同じ戦い方ができるプレイヤーたちがいるわ。」


「あ…!私たちですね?」


「そう。2人なら1枠減らしても十分戦える。いえ、信頼し合っているあなたたちなら他のプレイヤーよりも有利に戦えると思うわ。だから私はこのカードを選んだの。どうでしょうか?使うのはタロウさんです。必要性が無ければ違うカードを提示致しますが。」


「大丈夫です。楓さんがそこまで考えてくれたんですからそれがベストだと思いますし、俺もそれが良いと思います。美波もいいよね?」


「はいっ!私もそれでいいと思いますっ!」


「じゃあ交渉成立って事でいいですか?」


「もちろんです。ありがとうございます。では交換機能を使ってーー」

「あ、すみません。それ美波に譲渡してもらってもいいですか?そんで俺が楓さんにスキルアップカードを譲渡しますので。」


「えっ?なぜでしょうか?」


楓さんがすごく不思議そうな顔をしている。そんな顔も堪らないな。


「使うのは美波なので美波に渡してもらった方が手間が省けるんです。」


「えっ?タロウさんが使うのではないのですか?」


「違いますよ。美波の装備を充実させる為に欲しかっただけです。」


楓さんが口を半開きで俺を見つめている。この人の唇も堪らなねぇな。ダメだなこりゃ。溜まってるから煩悩が抑えきれん。


「じゃ、じゃあタロウさんのスキルはどうするんですか?アルティメットは美波ちゃんを助けるのに使ってしまったんですよね?」


「あ、俺もう1枚アルティメットあるんです。だから大丈夫です。」


「えっ!?2枚も引き当てたんですか!?」


驚いている顔も堪らん。今日こそ家帰ったら処理しないとダメだなこりゃ。


「引き当てたというか最初のチュートリアルの時のガチャで2枚当てたんです。ラッキーでした。」


楓さんが言葉にならないというような顔をしている。そりゃあそうだろうな。


「…本当にすごい人ですねあなたは。そうだとしてもせっかくのスキルアップカードを自分の強化に使わずに他の誰かの為にするなんて。」


「カッコつけなだけですよ。」


「ウフフ。わかりました。美波ちゃんにこれは渡しますね。」


俺たちは互いに譲渡でカードの交換を行った。これで美波の強化ができたから一安心だな。


「美波ちゃん。これは私からのプレゼント。もらってちょうだい。」


「え?わ!いいんですか!?」


美波のスマホを俺も横から覗き見る。どうやらカードを楓さんからもらったみたいだ。



《ダブルスーパーレア 身代り 効果 1度だけ死に直結する大ダメージを無かった事にする。ただし、イベント、シーンで1度のみとする Lv.1 》



「友達へのプレゼントよ。お守りになるといいのだけれど。」


「ありがとうございます楓さん。私は何もできないですけど…」


「気にしないで。私たちは友達なんだから。」


またキャッキャしてる。本当に尊いな。


「そうだ楓さん。お礼というか友達としての情報提供です。数日の内にイベントの通知が来ると思います。」


「イベントですか?」


「はい。10組のプレイヤーが1つのエリアに集められて3日間で行うバトルロイヤル形式のイベントです。その中で1位になったプレイヤーにはスキルアップカードがもらえるみたいですよ。俺と楓さんみたいにアルティメットを持ってるプレイヤーには魅力的なイベントだと思います。」


「どうして私がアルティメットを持ってると思うのですか?」


「バトル系のSSを放出するって事はそれより上のレアリティを持っているか他にもバトル系のSSを持っていないと出せませんよ。」


「他にも持っているかもしれませんよ?」


「その可能性は低いですね。さっき《予知》に関しては必要性が無ければ違うカードを提示すると言いましたけど《騎士の証》に関しては触れなかった。て事はそれ以外にはバトル系は無いって事です。」


「《騎士の証》を複数枚持っているという線は?」


「それこそありえません。このゲームは合成ができるのに同じカードを合成しないなんて不自然です。」


「ウフフ。頭も切れるのですね。おっしゃる通り私はアルティメットを持っています。一応これでも東京中央大学を卒業したので読み合いには自信があったのですがお見事です。」


げっ…この人東大卒業してんのかよ。俺と美波も一応茨城中央大学ではあるが東京中央大学は別格だ。日本にはトップ大学として”国立中央大学”というのが6校あるが、東大は世界のトップ3に入る大学である。早い話が俺と楓さんじゃ格が違うのだ。


「楓さん東大なんですか!?すごいですっ!」


「ありがとう。美波ちゃんはどこの大学に通っているの?」


「私は茨城中央大学ですっ!タロウさんも茨大の卒業なんですよっ!」


「すごい!2人とも高学歴なのね。」


学歴コンプがある俺にとっては東大卒の楓さんに言われても劣等感しか感じないんだけど。…いやダメだぞ慎太郎。楓さんは本心でそう言ってるんだ。そんな事思うなんてヒネくれてるぞ。


「でもタロウさんはなぜその情報を知ってるんですか?」


「この前のミニイベの時に運営から聞いたんです。だから友達である楓さんには伝えようと思ったんです。」


「そうだったのですね。ありがとうございます。私たちは友達ですものね!」


友達って部分をやたらと強調してるな。


「私たちは参加しますけど楓さんはどうされますか?」


「そうね…。私は多分参加しないわ。私はリスクが高そうなイベントには参加した事がないの。負けたら終わりなのはわかっているから。」


「そうですよね…負けるのは怖いですから…それはよくわかっています…」


「でも…近い内にそんな事も言ってられなくなるかもしれないけどね…」


「どういう事ですか?」


「これから言う事はあくまでも私の予想です。だから過度には意識しないで下さい。…近い内に強制参加イベントが開かれると思います。」


「強制参加って…!なぜそう思うんですか?」


「アクティブプレイヤーの数はいずれは減っていきます。そうなると私みたいに消極的なプレイヤーを参加させないとゲームは成り立たない。現状のままならプレイヤーは枯渇する。そうなると強制参加させないといけなくなるのが必然だと思います。」


「説得力ありますね…。強制参加か…。」


「あくまでも私の予想です。深くは考えないで下さい。あ、もうこんな時間ですね…すみませんがこの後仕事があるので申し訳ありませんが私はここで…なんだか寂しいです…」


「私ももっとお話ししたかったです…。そうだ!楓さん!連絡先交換しませんかっ!友達なんですからっ!」


「…!そうよね!友達だもんね!」


またキャッキャしてる。写真撮りてーな。隠し撮りはマズイかな。


「じゃあまた連絡するわね。今日はありがとうございました。じゃあまたね美波ちゃん、タロウさん。」


「はいっ!」


「また会いましょう。」


楓さんが席を立った後に気づいたがテーブルに置いてあった注文票が無くなっている。慌てて追いかけるがもう店内に楓さんはいなかった。しまったな。カッコ悪いな俺。必ず借りを返さないと。


「じゃあ俺たちも地元に帰るか。それとも少し観光でもしてく?」


「えっ!?いいんですかっ!?」


目がキラキラしてるよこの子。やっぱり美波は可愛いな。


「いいよ。観光して帰ろうか。」


「とっ、泊まりはダメでしょーー」

「うん、それはダメな。」


「むぅ…!」


まったく美波には困ったもんだ。




こうして俺たちの東京遠征は美波の強化と楓さんという友達ができて大成功に終わった。


だが、家に帰った後、イベント開催の通知が届いた。

その内容は事前に聞いていた内容よりも悪いものであつた。

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