第6話 現実世界の変化
……誰かに呼ばれてる
……誰だ?
……違う、起こされてるのか
「田辺さんっ!起きて下さいっ!」
どうやら寝ている所を誰かに起こされたようだ。せっかく人がいい気持ちで寝てんのに。絶対文句言ってやる。くっつかっている瞼をどうにか開けると、目の前に人がいる。
誰だ?
ピンボケしている目を凝らして見ると女がいた。俺の眠りを妨げたのはコイツか。まあ女なら仕方ないか。んじゃもう一回寝るから今度は起こさないでくれな。
……女?何で俺の部屋に女がいるんだ?
もう一度目を開けて再度確認してみる。するとやはり凄い可愛い子が俺の目の前10cmの所にいる。息がかかる距離に凄い美女がいるんだけど!?ていうか息かかってるんだけど!?すっごいいい匂いするんだけど!?ここ天国ですか!?俺、死んだんだっけ!?
…いやいや。落ち着け俺。クールになれ。よく見れば相葉美波じゃん。なら大丈夫じゃん。俺は死んで天国に来たわけじゃない。良かった良かった…
…って良くねぇよ!?何で相葉美波がここにいるの!?だってここ俺の部屋じゃん!?え!?俺の部屋だよね!?それとも相葉美波の部屋!?
馬鹿、落ち着け俺!!本人に確認してみるしかないだろ。クールになれ、クールになるんだ田辺慎太郎!!
「えっと…相葉…さん?何でここに…?」
「私にもわかりません…視界が明るくなったらこの部屋にいて、目の前に田辺さんが寝ていたんです。」
俺1人で呑気に寝てたのかよ。ダサいな。でも何で俺の部屋にいるんだ。奴隷から解放したんだから俺の部屋にいる必要だってないだろうし。
「あの…本当にありがとうございました。田辺さんが助けてくれなければ、私はあの澤野って男に今頃…」
「礼なんて要りませんよ。俺は当たり前の事をしただけです。」
「でも、そのせいで田辺さんは大事なアルティメットを失ってしまいました…!本当に申し訳ないです…」
「うーん…別に大した事じゃないですよ。そんな事で済んで良かったです。だから気にしないで下さい。」
俺的には爽やかに言ったつもりなのだが相葉美波は複雑な表情をしている。なんだろう…キモかったのかな…
「…どうしてですか?どうして私なんかに優しくしてくれるんですか?私を救って、田辺さんは何も得はしていません!損しかしていません!それなのに…どうしてですか。」
「…相葉さん、それは違います。俺は損なんてしていませんよ。それに得もしてます。」
「え…?」
「あなたの人生を救えたのに損なんてするわけがありません。得は…こうして相葉さんと話ができている事が得です。これに笑顔でも付けてくれたら最高ですね。あはは。」
我ながらちょっとカッコつけすぎの台詞だったかな。
いや…キモいか…?そうだよな…こんな冴えないオッさんにこんな可愛い子がそんな事言われたらキモいよな…うわ、マズったな。現に相葉美波は俯いて沈黙しちゃってるし。身の危険を感じて怯えてるのかな…こういうとこが俺がモテない理由なんだよな…
「…あの時、奈落の底に突き落とされた気分だったんです。」
「え?」
何だろう。俯いたまま喋り始めたぞ。警察に通報とかはやめて欲しいな。なんか胃がキリキリしてきたぞ。
「澤野の奴隷にされる事が決定し、更にはバディだったはずの和田にまで裏切られて…。男の人なんてそんなもんなんだ、そういう事しか考えてないんだって改めて思い知らされました。私の人生を振り返ってみても男の人ってそういう性的な事しか考えていない人たちばかりだったんです。だから私、男の人って苦手なんです。性的な事を考えている人ってわかっちゃうんです。でも…田辺さんは違った。最初に見た時から思っていたんです。そういう雰囲気出ていない人って初めて見たから気になってました。」
ずっと黙って聞いてたけど気になるってなんだろう?もしかして俺の事が気になってるって事か…?こんな超絶美女が…?
…無い無い。クールになれ田辺慎太郎。弁えろ。俺の今までの女性歴を思い出せ。
俺は34年生きてきて彼女は2人しかできた事が無いし、更には絶賛魔法使い街道を邁進してる程の男だぞ?あり得るわけがない。危ない危ない。童貞はこうやって勘違いしちゃうんだよ。でも俺は上級魔法使いだから勘違いなんてしないのさ。ふっ。
「だから田辺さんが私を助けてくれた時、本当に嬉しかったんです。」
そう言って相葉美波は笑ってくれた。相葉美波の笑顔を初めて見た。すっごい笑顔が似合う人だな。やっぱあんな悲しい顔なんて似合わない。美女は笑顔が似合うよ。
やっぱこの娘凄い可愛いな。この娘の笑顔見れただけで俺の人生良い事あったって思えるよ。今日も1日頑張ろう。
「初めて相葉さんの笑顔見れましたね。」
「あ…自然に笑っていました。恥ずかしいですね。ふふっ!」
「すごく得させてもらいました。ありがとうございます。」
相葉美波が照れくさそうな顔をしている。いやコレヤバいわ。オッさんの胸がキュンキュンするぐらいの可愛さだよ。この娘、実は天使なんじゃね?
「でも…。そんな事ではダメだと思いますっ!恩返しがしたいんですっ!何かおっしゃって下さいっ!何でもしますっ!!」
おいおい、天使よ。何でもなんて言っちゃダメだよ。俺も男なんだから悪いお願いしちゃうよ?いいの?
「……本当に何でもいいんですか?」
「はっ、はいっ!!」
「じゃあ…朝ごはん、作ってもらってもいいですか?」
「…………はい?」
「あ、料理苦手でしたか?」
「いっ、いえ!料理は人並みにはできると思います!そうではなくて…そんな事でいいんですか?」
「俺の為にごはんを作ってくれたら幸せです。」
何かを考えているのか沈黙が続く。今度はキモい事なんて言ってないぞ。
「本当に欲が無い人ですね。台所借りますねっ!すぐに用意しますので待っていて下さいっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おー…凄い美味しそうですね。」
テーブルに並べられた品は、トースト、ベーコンエッグ、ポタージュスープの3品だ。トーストは焼いただけ、ポタージュもレトルトなのに俺が作るよりも明らかに美味そうなのは何でだ?美女が調理すると食材も覚醒すんのか?
「冷蔵庫に何もなかったのでこれしかできなくてすみません…」
「十分ですよ!俺じゃこんなのできませんし、トーストも明らかに自分で焼くより美味しそうです。相葉さん、ありがとうございます。」
「あのっ!私の事は美波って呼んで下さいっ!それと敬語はやめて欲しいですっ!…その方が距離が縮まるし。」
何だろう、最後は小声だったから聞き取れなかったな。
「わかりました…じゃなくて、わかったよ。じゃあ俺の事もタロウって呼んでよ。親しい人はみんなそう呼ぶから。改めてよろしくね、美波。」
「はいっ!よろしくお願いします、タロウさんっ!!」
おお…!凄い笑顔だ。何でこんなに嬉しそうなんだろう。美波も腹減ってたのかな。お!ベーコンエッグ美味いな。絶妙な味付けだ。
「でもタロウさん、ちゃんとした食事を摂らないとダメですよ?野菜室に何も入って無かったですし、お弁当とカップ麺のゴミがたくさんありました。」
うわ…嫌なところを見られたな。でもそれって男の一人暮らしあるあるだろ。自炊はしようと思ってもできない。それが男ってもんだ。
「仕事があるからなかなか難しくてさ。ついコンビニとカップ麺の世話になっちゃうんだよ。」
「あ、やっぱり社会人なんですね。タロウさんはおいくつですか?私は20歳の大学生です。」
「俺は34だよ。」
「えっ!?34!?34歳ですか!?」
「お、おう!」
なんだろう…歳を連呼されると悲しいな。
「全然見えませんっ!!23、4だと思ってましたっ!」
「あはは。それはよく言われる。それだけは自慢なんだよね。いつも中高生を相手にしてるからアンチエイジング効果があるのかもね。」
俺は心だけはティーンエイジャーだからな。決して落ち着きがないとかではないぞ。
「中高生…?タロウさんは学校の先生ですか?」
「いや、家庭教師やってるんだ。」
「あ、なるほど!プロでやられてるって事は頭が良いんですねっ!すごいですっ!」
こんな可愛い子に褒められると凄い嬉しいな。俺ってチョロいなー。ん?ちょっと待てよ。そもそも美波はどこに住んでるんだ?ここは茨城だぞ?場所によっては帰るの大変じゃん。
「美波、大変な事に気付いちゃったんだけど。」
「…どうしたんですか?」
「美波ってどこに住んでるの?場所によっては結構大変な事なんじゃないか?」
「あっ…!全然気付きませんでした…」
そうだよな。俺だって今の今まで気付かなかったんだから。まあ、北海道でも沖縄でも車で送って行くからいいけどさ。
「ここ茨城なんだけーー」
「ええっ!?茨城なんですか!?わっ、私も茨城なんですっ!!!」
おお…!それは凄い偶然。県内なら全然なんとかなるじゃん。一安心だな。
「ここ茨城市の小山ってとーー」
「ええっ!?小山なんですか!?わっ、私は上郷なんですっ!!!」
いや、スゲーな。上郷って隣町じゃん。1駅じゃん。車で10分じゃん。こんな近くにこんな美人がいるなんて知らなかったな。
「…絶対運命だよね。こんな偶然あるわけないもの。」
また小声でブツブツ言ってるな。何を喋ってるか聞き取れなかったけど癖なのかな?
「でも凄い偶然だね。あ、大学生って言ってたけどどこの大学なの?俺は茨城中央大学だったーー」
「ええっ!?茨城中央大なんですか!?わっ、私も茨城中央大なんですっ!!!」
…これってもう運命なんじゃね?赤い糸的なアレじゃね?こんな偶然あるわけないだろ。
…いや、偶々かもな。そうだよ。よくあるじゃん。勝手に運命とか結びつけんなよ。こうやって思い込みの激しい奴が運命とかに結びつけてストーカーとか犯罪行為を犯すんだよな。自重しろ俺。
「…間違いない。運命なんだ。」
またブツブツ言ってる。きっと癖なんだな。
「なら今日は大学あるよね?駅まで送って行くよ。それとも大学まで送って行こうか?なーんてーー」
「ぜひ大学までお願いしますっ!!!!」
「お、おう…?」
こうして現実に戻った俺だったが、美波との距離がどんどん縮まって行く事を俺はまだ知らない。
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