俺'sヒストリー

かつしげ

第1話 始まり

「はぁ…疲れた…」

今日もいつもの日常が終わる。

つまらない日常が終わる。

仕事が終わってコンビニで弁当を買い、家に戻ってそれを食って風呂に入って寝る。

まだ仕事にやりがいを持っているならマシかもしれないが、俺は34にもなって家庭教師なんていい加減な仕事をしている。家庭教師って仕事は食べていくには十分な収入だが、社会的地位が低い。自営業みたいなもんだが、家庭から授業料を手渡しでもらうから記録が残らない。つまりは役所に届けを出さない限りは無収入者になってしまうのだ。そんないい加減な仕事に信用なんてあるわけがない。ローンも組めないしカードも持てない。こんな状態じゃ俺の人生終了だろ。

だが、そんな状況でも俺はそれを変えようとしない。

今のぬるま湯に浸かった生活に満足しているからだ。

俺はそんな自分が嫌いだ。


部屋に入りコンビニ袋から弁当を取り出し、スマホを片手に遅めの夕飯を食べる。いつも通り何も考えないでネットサーフィンをしていると興味を惹く広告バナーが出た。


『あなたの歴史を変えませんか?』


「あなたの歴史を変えませんか…?ふっ…本当に変えられるんならどれだけ嬉しいかわかんねーよ。」


悪態を吐いたが俺はそのバナーに興味を抱いた。別に開くだけなら損はない。まともなサイトに出てるバナーでワンクリック詐欺なんてあるわけないだろうし。とりあえず開いてみよう。どうせ失うものなんてあるわけない。そう思いバナーを開く。するとアプリのインストールが始まる。

「おいおいマジかよ!勝手に変なアプリ入れんなよ!ウイルスか!?」

そうこうしているうちにインストールが終わる。”俺'sヒストリー”というアプリがスマホに表示されている。

「オレズヒストリーって読むのかな?まぁ、インストールしちまったんだからアプリ開いてみるか。ウイルスだったら明日ショップ行くしかねーな。」

俺'sヒストリーを開いてみる。するとーー



「は…?停電…?」



アプリを開いたと思ったら部屋が真っ暗になっていた。こんな時に停電とか。まだメシだって食い終わってないのに。

だがそう思ったのも一瞬であった。俺はある事に気づく。


何でスマホの明かりがないんだ?


スマホを触ってて停電になったのならスマホの明かりがあるから真っ暗になるはずがない。それなのに何で真っ暗なんだ?さらに言えば手に持っていたスマホも無い。

どう考えてもおかしい。

その奇妙な状況に戸惑っていた時だった。

暗闇の中から仮面をつけたナニカが現れた。


「うおっ!?」


咄嗟の事に情けない悲鳴を上げてしまう。


『初めましテ。ワタクシ、運営のツヴァイと申しまス。この度は俺'sヒストリーに参加頂きましてありがとうございマス。只今よりチュートリアルのーー』


「いやいや!ちょっと待ってくれ!参加って何だよ!?そもそもここドコだよ!俺は自分の部屋に居たんだぞ!?」


『ここはゲーム内の空間で御座いまス。こちらでゲームのチュートリアルやリザルトを行いマス。そしテ、貴方は俺'sヒストリーに参加されたのでス。タナベシンタロウサマ。』


「何で俺の名前知ってんだよ…!?」


『そんな事は些細な事デスヨ。貴方は自分の歴史を変えたかったのでショウ?だからバナーを開いてしまっタ。』


「……」


その通りだった。俺はこのクソみたいな人生を変えたいっていつも思っている。だからこんな怪しいものに惹かれてしまったんだ。


『このゲームは貴方の歴史を変える事ができまス。』


歴史を変える事ができる…?本当に言ってんのか?

俺はツヴァイと名乗るモノの言う事を信用はできなかった。信用などできるはずがない。『このゲームお前の歴史変えられるんだよ。』なんて言われて信じるなんて相当ヤバいだろ。

だが、この不可思議な現象がツヴァイの言っている事に説得力は持たせている。どう考えてもここは俺の部屋ではない。ましてや夢の中でもない。明らかに現実だ。それならば話だけでも聞いてみる価値はある。


「…詳しく聞かせてくれ。」


『流石はタナベシンタロウサマ。聡明で御座いますネ。では御説明致しまス。この俺'sヒストリーは人生における歴史を改変する事ができまス。あの時ああしていればと思う事は多々あると思いまス。そんな皆様の後悔を我々は救済して差し上げたくてこのゲームを運営しておりまス。そしてそのワンシーンに戻ってやり直すチャンスを得る事ができるのです。』


「やり直す…?人生をやり直せるのか!?」


俺はツヴァイの言葉に完全に虜になった。

人生をやり直せるだって?そんな事願わない日は無い。俺はいつだって人生をやり直したいって思っている。こんな…こんなクソみてぇな人生からおさらばしたいっていつも思っている!そんな事ができるんなら断る必要なんてあるわけが無い。


『勘違いはしないで下さイ。チャンスを差し上げると申したノデス。』


「チャンス?」


『はイ。無条件でそんな事ができるわけがありませン。』


その言葉に俺は落胆した。なんだ、結局詐欺かよ。金払えばチャンスを得るとかなんとかって言うんだろ?これだってVRか何かだろ?馬鹿馬鹿しい。


「で?いくらなんだ?金なんてねーぞ?残念だったな。はい、解散。」


見切りをつけた俺はさっさと話を切り上げてこの得体の知れない奴に帰ってもらおうとした。だがーー


『カカカカカ!金ではチャンスは手に入れられませんヨ。チャンスを得る為にはゲームをする事でス。』


「は…?ゲーム…?」


『はイ。ゲームで手に入るメモリーダストというアイテムを集める事で過去のシーンに挑む事ができマス。』


「じゃあ金はかからないのか?」


『基本プレイは無料で御座いまス。ですガ、ゲームを有利に進める為にはガチャを回す事をお勧め致しまス。ガチャは有料となりまス。』


「まぁ、それぐらいは普通だな。じゃあ無料でチャンスを得られるのかよ!ならやるよ!やらせてくれ!」


『かしこまりましタ。でハ、チュートリアルを開始致しましょウ。』

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