ラストラン

 つらいことがあった。

 いやだ。もうここにはいられない。それがみんなの共通意識。

 

 わたし、スギムラ、スズキ、オカダで下り坂の大通り横の歩道をダッシュ。開放感を体で感じる。


 スギムラが急に道路に身を乗り出し、走り抜けるトラックに消えた。聞き慣れない音を横耳に聞きながら、そのままでダッシュをやめないわたし。そのうちわたしだけの独走状態になっていた。みんな居ない。涙があふれてくる。いつだってそうだ、わたしは死ぬ勇気なんてない。


 みんな、思い思いのタイミングで走り抜ける車に身を差し出した。


「そのためのラストランだったじゃん」

 わたしは疲れたんだ。逝くならば今だよ。路線かえ、まぶたを閉じる。


 まぶたを超えて視界が白く染まる。ゆっくりと瞼をあけると信号の前。先程と同じ服装で、さっき走り下りた坂大通りの麓の信号だ。そうか走り終えてしまったのか。またオレは死ねなかった。決意が遅かった。みんなはいってしまったんだろう。


 振り返ると坂上から二人が降りてくる。

 カズとサトウが、先ほどはスーツだったのにナイキのジャージに着替えた状態で現れた。


「走りきってしまったのか、おまえ等も」

「でも、セキくんは……」

 それを言う前に、信号が青になる。みんなとそのまま進み始める。

「何で、ジャージなんだ?」

「お前がくる前にそこの店で買って着替えたんだよー」

 そうかと思っていると、目の前にアスレチックが現れて、隣にはセトくんがわたしの手を引いている。そのまま一緒にジャングルジムにのぼると、下には女子団体とセトくんだ。それを、ジャングルジムから見下ろす、わたしとセトくん。

「この時、小便が上から垂れていたけど、みんな気づかなくてな」

 そういいながらセトくんは、ジャングルジムから下の女子と自分にめがけて小便を垂らしている。

「やめとけ」

「いいからいいから」

 そんなやりとりを交わしながら、なぜかセトくんもわたしも、涙がとまらない。

 お互いの吐息に嗚咽が混じる。わかっている。もうあの時は戻ってこない。


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