第6話 静寂深夜

深夜2時、重い腰を椅子から上げる。

静けさに包まれた個室に自分の立てた音のみが響き、世界に自分しか居なくなったような錯覚に陥る。

規約通りにモニターに映る防犯カメラの映像を一通りチェックし、紙にレ点チェックを入れていく。


「異常無し」


壁に設置された懐中電灯を取り外し裏蓋を開けて中の電池を取り出す。

単1電池2本の内の一本を向きを変えて入れ直してスイッチを入れる。


「よくこんな事思い付くもんだ」


電池の+と-を逆に入れておくことで通電を防いで電池を長持ちさせる知恵に感心する。

わざとではないが光がワシを照らし窓に顔が映るのを見詰める。


「この違和感は変わらないな…」


大人になってから年をとる度に自分の顔に違和感を感じ続けていた。

自分の顔なのに別の誰か…それも強烈に嫌悪するその顔が自分の顔なのだ。

しかめっ面をするが仕事を優先する為に顔を小さく左右に振って個室を出ていく。


俺の最初で最後の深夜巡回が始まった。

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