10時間目。相談


「治安が悪い」


「えっと、はい」


理事長の古里さんに呼び出された

朝一番であり、開口一番である。結論的にはよくわからん


ふむ、と豪勢な椅子に座ってお茶を飲んでいる古里さん。その対面に座る俺

当然ながら想像通りにお茶は無い


「分かりづらかったか、あ~最近な近くのクソガキ共が騒いでんだよ。とりあえず、ウチの生徒に何かあったら潰しとけ」


「はい????」


あなたはヤクザなのですか?

なんですか、いきなり物騒な


「お前喧嘩できんだろ?それ使えば?んで、ウチの生徒が絡まれたらお前が守っとけ。殺しても殺さなくても俺が関連の記憶全部消すから制約はなんもねえ。ウチの生徒に怪我だけはさせんなよ」


間違えました。貴方はヤクザよりも酷い

いや、確かに喧嘩は強い方だと思いますよ。そりゃ空間転移を激しく使えば負けないと思いますし、というか俺が転移して対象の身体に座標を合わせれば一瞬だよ

相手が弾けますからね?滅茶苦茶凄い勢いで爆散しますよ?きっと

やりませんよ!!?やりませんからね!!!!!!?

殺人とか喧嘩とかやったことないですからね!!!?古里さんは俺にどんな印象を持ってるんですか!!!?


「とりあえず、治安が悪くなってきたので、ウチの生徒が絡まれてたら助ければいいんですね。」


喧嘩はしたくないが助けるくらいはできる。教師だし

大人の権力なめんなよ!



本日も晴天なり

いつも通りの一日を過ごした放課後である

現在、俺は生徒指導室にいる。何故だろうか、まぁ理由は目の前にいる


「いやー、ごめんね。わたる先生!部活とかやってないから暇だと思って!」


「ハラワタ32回引ん剝くぞ」


暇じゃねえよ

家帰ってペット飼うための妄想とかするんだよこっちは


「えぐい!!!なんでそんな息を吐くようにえぐいこと言えるの!!?」


「本心を言ってるだけだ」


回数なんてテキトウだ

とりあえず教師として生徒に嘗められるわけには行かないから、少しだけ強い言葉で突っ込み入れてるだけだからな


「それで、何のようなんだ?」


「えっとね、ちょっと訳ありな話があって」


本田ほたる

いつも元気に俺をからかう彼女にしてみれば珍しく表情が暗い


それもこれも、放課後のHRが終わった後に、本田ほたるから相談したいことがあるとの話を貰ったからである

結構真剣な表情だったので、人の出入りも皆無である生徒指導室を選んだわけだ


「なんか、最近ストーカーみたいな人がいるっぽくて…」


「なるほど、わかった!そいつをぶっ殺せばいいんだな」


自然と出てきてしまった

今なら今朝の古里さんの言葉も理解できる気がする


「え!!?そんな暴力的な解決!?」


それ以外に無いだろう。大切な生徒に不快な思いをさせるのは忍びない

元凶は潰さねば

自然と拳に力が入る気がする。そうか、これが古里さんの気持ちか…今ならわかる気がするヤクザって思ってごめんなさい


「…とりあえず、話したくなければあれだが、状況を説明してもらってもいいか?それの方が対策とかも立てられる」


テンション上げるのはいったんここまで

本田ほたるの思い違いがあるかもしれないしな。まずは状況を確認しなければならない


「…何か最近ずっと誰かにつけられてるなぁ、とか見られてるなぁって思ってて…最初は気のせいかと思ったんだ」


そこまでだと、被害妄想だと思われてもしょうがない

しかし、本田ほたるの表情を見るにまだあるようだ


「でもさ、最近何か痴漢みたいなこともされてきて…胸とかお尻とか直接的に触られてるんじゃないんだけど…足とか腰とか…凄い嫌だけど…痴漢っていうには弱くて」


ぎゅっと自分の身体を抱く

とりあえず、よかったと思う。まだその段階で俺に相談してくれたことを

人に、男に言うのもきついだろうに、信頼関係は気付けてたみたいで本当に良かった


「電車はいつも同じだっけか」


「うん、わたる先生とこないだ会った時は特につけられてる感とか見られてる感とか触られるとかも無くて、それでわたる先生に相談しようって」


うーん、やっぱりストーカーっぽいな


「電車の時間とか変えたり、車両変えたりとかはしなかったのか?」


「…2回くらいやったんだけど、変わらなかった」


まぁガチだな。ガチのストーカーだな

ぶっ殺してやる!!


「よし、とりあえず分かった。嫌かもしれないが明日はいつもと同じ電車に乗ってもらえるか?」


「…えっと、相談しておいてあれなんだけど、なんとかできるの?」


少しだけ本田ほたるの顔色が明るくなった

それだけで教師やっておいてよかったと思える


子供は大人に毒されてはならない。ロリコンとかではないが、今後の社会を作るのは今の子供たちだ。未来ある若者達を大人たちが捻じ曲げてはいけない

大人が子供を傷つけるのはダメなんだ。だから、俺がやることはただ一つ

気持ちを表すように力強く頷く


「任せろ」

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