エラゴンアーク・オブ・東京23区
真賀田デニム
エラゴンアーク・オンライン/ワールド編
ACT01 品川区でのとあるデュエル ―ジェニュエン―
高度にデジタル情報化された分泌液体か。
あるいは本物の汗か。
どちらにせよ、不快感を覚える額のそれをタカダは手の甲で拭うと、視界の左端にある小さなタイマーに視線を遣った。
【0011】
〈エラゴンアーク〉という仮初の世界が剥がれ落ち、現実世界の品川区が現れるまであと十一分。
その十一分さえ凌げればゲーム終了となり、タカダは〈ジェニュエン〉から生還することができる。
碌にデュエルもせず逃げ回っていたこともあり、ウイニングポイントもほとんど溜まっていないが、それを残念だと思うほど、タカダには闘争心もなければ功名心もない。
あるのは、『神様、どうか命だけはお助け下さい』という、生粋の無神論者による都合のいい信心だけだ。
「くそ、マジであぶなかった。でも……はは、わざわざここまで追い掛けてこないだろ」
かなり入り組んだ路地裏を駆け抜けた記憶がある。
それに加えて、品川区のマップに自身の居場所を示す光点が示されるまで約十分。
つまり、現在タカダの現在位置は誰にも分からない。
いちいち追いかけてくるほどの強い理由もないだろう。
張り詰めた緊張感が和らぐタカダ。
朽ちた家屋のすぐ向こうでは、同じく逃げ切ったという安堵感からなのか、警戒モードを完全に解除して樽に寄りかかるナカニシがいた。
タカダのいるこちらまで来れないのは、体力の消耗という以上に、体を襲う痛みからなのかもしれない。
おそらく生き残ったのは、この二人のみ。
ほかの〈霧の餓狼団〉のメンバーは、この日図らずもデュエルをしてしまった〈デス・メイ・クライ〉の連中に全て殺されたに違いない。
沸々と湧きあがる怒り。
しかしそれ以上に、生きてゲームを終えることのできる嬉しさが全身を駆け巡る。
今日の悔しさはナカニシと共に分かち合おう――。
タカダは
【0010】に変わるタイマー。
その瞬間、向こうから来る数人のプレイヤーが視界に入った。
「そ、そんな……」
タカダは伸ばした手をだらりと下ろした。
闇に溶け込むかのような、四つの黒いプレートアーマー。
そのアーマーの胸には、大きく描かれた涙を流す死神の顔。
そして、はためく赤いマントはそういうデザインなのかまるでぼろ布のようで、彼らの不気味さをそこはかとなく助長していた。
〈デス・メイ・クライ〉の連中だった。
「俺達は食べ残しってのが嫌いでよ。ふん、てめぇら逃げ切れるとでも思ったのか」
真ん中の、屈強な体格をした顎髭の騎士が口を開く。
背中の大剣で仲間二人をあっという間に斬り殺した男だった。
「ば、ばーか。誰が逃げるだって? ここで待ってたんだよ。て、てて、てめえらまとめてぶっ殺すためになぁっ!」
恐怖で足が
必死に強がってみせるタカダ。
実際戦えば、例え一対一でも万分の一の勝機すらないだろう。
おそらく〈デス・メイ・クライ〉の連中全員が、〈
「勝ち目もねぇのに粋がるなよ、カスが。お前はすぐにこうなる」
「え……?」
タカダその意味を理解しようとしたとき――、
「
そう口にした顎髭の男が、大剣を下から斬り上げた。
耳を
次の瞬間、大剣から発せられた黒い衝撃波が膝を付いて座るナカニシを襲った。
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