ジェリーフィッシュ実験記

八雲雷造

序文



 むかしむかし、地球という惑星に、ひとりのエイリアンがおりました。エイリアンは、その惑星に住む人間という生物に、実験を施そうと考えました。


物語はこのようにして始まる。


 私の名前はワトソン。ブルーノ・J・ワトソンという。私はこの名前をたいへん気に入っており、今でもこう名乗ることにしている。

 この惑星で、私はとある実験を行ってきた。東京というメガロポリスに住む人間たちに対して行った、たいへんに重要な実験である。私はこの実験を、ジェリーフィッシュ実験と名付けた。


 ここに記されているのは、ジェリーフィッシュ実験についての観察の記録である。


  *


 私は正直なところ、人間というこの奇妙な生物に心酔してしまっている。

 彼らは実に愉快で興味深い生き物である。私が日本語というこの恐ろしいほどに非効率的な言語と、MacBookという極めて原始的なデバイスを使って文章を書くことに決めたのも、彼ら人間への純粋な好奇心と親愛の情によるものである。


 この惑星で行った実験があのような結果に終わった今でさえ、彼らへの親愛の情は、少し足りとも失われてはいない。

 私が遠く銀河の彼方、188万光年離れた私の住まいへと戻り、やがて別の役割を演じることになったとしても、私は彼らと過ごした日々を決して忘れることはないだろう。決して。

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