〇月×日

〇月×日


屋上までどうやって来たのか思い出せない。


気付いたらここにいた。


脳みそが何かにべっとりと覆われてるみたいで頭が働かない。


悪寒が微かにする。





生への権力が築いた、高い壁


―簡単にはここからは逃がしません―


ボクが校舎の屋上から飛び降りる為には


その高いフェンスを、小さな体でよじ登って……



想像すると


無様で


みっともない


「ウケる」


誰かの笑い声が聴こえる


中高生のリアルな感情なんてそんなものだ


誰とも話さない根暗なクラスメイトの死なんて、喜劇に塗り替えられていく


リアルな人間の感情なんてそんなものだ


じゃないと学校生活なんて続けてられない






大人達はそうはいかない


責任が


立場が


この社会で要求される振る舞いは、WILDERNESSであってはならない。

ネットでその不謹慎な感情を吐き出せる人間はまだ救われる



社会の公の場で

求められ

形作る

矯正された感情に支配されて


それが本心だと

そうでなければいけないと

思ってしまう真面目人間は

きっといつかどこかで折れてしまうのだろう




塀の上に立って下を見下ろした。


圧倒的な高低差。重力。想像してしまう、激突の衝撃


胃がすくむような恐怖がこみ上げてきた。


死ぬのに失敗して、中途半端に意識が残ってたら、地獄だろう。



飛び降りは……やめておこうか。


死線は簡単に超えられなくて


でもいじめから逃れるのに


この社会で一番


ただ唯一絶対に


信頼できる救いの手。

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