上手く生きれない人の記録

羊毛文学

あるアスペ社員の告白


 私、話すのが苦手なので、上手く言えないかもしれないんですけど、聴いていただけますか?

 変なこと言って、不快な思いをさせたらすみません。私、そういうの分からないみたいで。



 そのときの私は、普通に大学まで進学して、普通に卒業して


 だから、当たり前のように、普通に社会に出るんだと思ってました。


 自分が普通と違うという感覚は微塵も感じていませんでした。


 そりゃ少しは変わってるかな……と思うことはいくつかありましたが、自分の個性、性格のせいで、特に否定しようと思ったこともありませんでした。



  



 その頃から周りとの差を感じるようになりました。


 曖昧な指示とか理解出来ないんです。 

 仕事しているとき、他の人が何について話しているのか、一人だけ付いていけないんです。

 話を振られても何も期待されてた言葉を返せなくて、周りの呆気に問垂れた顔、溜息。


 必死に何かをしゃべっても

 「もういい」と最後には言われてしまうんです。


 なぜ溜息をつかれるのか分からない。

 なぜそこまで怒らせたか分からない。

 

 どんなに足掻いても、空回りして、周囲がどんどん失望の目で見るようになって。

 


 自分の何が人をそんなにいらだたせるのか分からない。

 自分の存在が、自分が人と関わっていくことが怖い。



 精神科に連れてこられたときは、ショックで頭がぼうっとしました。

 今までの自分を全て否定されたみたいで。

 自分は『普通』なんだと主張し続けたんだけど、ダメでした。




 発達障害かもしれない。




 そう、診断とも何とも言えない言葉が告げられました。


 


 今思えばそんなの誰にも言わなければ良かった。



 その日から、腫物を触るような扱いに変わりました。

 直接怒られることはなくても、他人から間接的に、誰々があのことで、私のせいで困っていたらしいとか、仕事が増えたらしいとか、耳に入るようになりました。

 




 私が事務所にいたとき、その部屋に丁度私しかいなかったんです。

 そのとき、上の階の人が用があったみたいで、こっちに入ってきて。

 私が「どうかしましたか?」って尋ねたんです。そしたらその人私の顔見て、すごい困惑した表情浮かべて、「……えっと、君しかいないの?」って言って、

 私がはいって答えたら、「じゃあいいか。」って言って出ていこうとして

 そしたら別の人が……私より後輩なんですけど、署員の子が入ってきて、「あれ、Fさんどうしたんですか?」って

 そしたら上階の人ほっとした顔浮かべて、

 「良かった。○○の件でちょっと確認したいんだけど」って

 あれ、それ私でも出来るのになって。だって私が担当な筈なんです。

 私が付いていこうとしたら「だから君はいいから」って言われて、それで、ただ私は黙って突っ立ってました。



 外出先で、その人に尋ねなきゃいけないことがあって、それで私の方から電話したんです。

 でも何度かけてもその人出なくて……。

 それで、お客さんから電話したんです。そしたらその先輩、一発で出て。結構笑いながら世間話とかも続けてたんです。それで、忙しくないのかなって思いました。

 もう一度私の携帯から先輩に電話かけたんです。でも電話もないし、メールも既読つかない……。

 何かあると、お客さんの電話から先輩に繋いでもらうんです。その方がスムーズなのは分かってる。 私はその日、何度も着信入れたんですけど、先輩は出ないんです。


 誰にも信用されてないんですよね。

 私も怖くて、誰も頼れなくて、人に心を開いて喋ることが出来なくなっていきました。


 机の上から、モノが減っていくんです。最初は、整理付かないくらいどっさりあったのに。

 どんどんモノが減って、すっきりした机の前で、私はいつも座ってるだけで、

 異様な風景なんです。他の人の机は書類がどっさりで、だから私の机だけすごい浮いていて……。

 仕事を、雑用でも何でも良いから貰うためには、 うろうろして他の人に「私でも出来る仕事ありませんか?」って尋ねて歩くんです。

 毎日毎日そうやって……結局何も、仕事なんてないんです。

 私に仕事を任せると、後でもっと面倒なことになるって皆分かってるから。


 みっともなくないですか?


 そんな自分と、これからもずっと、一生付き合っていかなきゃいけないんです。

 自殺も何度か試みたんですけど、どんなに生きてるのが嫌でも、具体的に死のうってなると、実行する気力も知識もないんです。

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