人嫌いのオオカミ

四葉陸

深い森の中で

 人間が自然を軽視し始めた時代、とある森に一匹のオオカミがいました。


 オオカミの両親は森の動物達のリーダーでしたが、彼が小さい時、人間に殺されてしまいました。だから、両親の後を継いで森のリーダーになった後も、オオカミは人間という生き物が大嫌いでした。


 そんなある夏の暑い日、フクロウが森の中で、小さい人間の女の子を見つけたのです。


 フクロウは慌てました。この子がオオカミに見つかれば、すぐにでも殺されてしまうだろうと。

 しかも運悪く、オオカミが木々の間から出てきたのです。

 必死に言葉を考えているフクロウを横目に、オオカミは女の子を見て言いました。


「おいフクロウ。なんだこいつは」

「…………はい?」

「俺はこんなやつ見たことないぞ」


 フクロウは驚きました。実は、オオカミは自分の両親が人間に殺されたことは知っていましたが、人間がどのような生き物であるか、それを知らなかったのです。

 フクロウは驚きと安心が心のなかで混ざりあったまま言いました。


「さ、さあ? 私も見たことがありません」

「この森のやつじゃないな。方向からして大方人間にでも追われて来たんだろう」

「あの……リーダー?」

「しばらくは俺が面倒を見よう。他のやつらにもそう伝えてくれ」

「はあ、わかりました」


 フクロウは緊張の糸が途切れたように、その場を飛び立って行きました。

 後に残されたのは、オオカミと女の子だけです。


「あなたは誰?」

「俺はオオカミだ。もしかして、お前はオオカミを見たことがないのか?」

「うん、この辺には怖いものがいっぱいいるって言われていたもの」


オオカミには、女の子は見かけより何倍もしっかりしているように見えました。


「……そうか、確かに、ここをずっと向こうにいけば、奴らの住みかだからな」

「奴らって?」

「人間だ」

「ニンゲン?」

「知らないのか?」

「うん……ママは私になにも教えてくれないの」

「親がいるのか?」

「そうよ、早く家に帰らないと、またママに叱られちゃう……最近のママは何かおかしいの、パパも家に居ないし……」


 そこで、オオカミは気づきました。女の子の首や服の下には、たくさんの痛々しい跡があったのです。

 オオカミは驚き、そしてこの、見たこともない生き物の子どもに同情しました。


「親が何処にいるのか分かるか?」


女の子は、首を横に振りました。


「そうか、だが人間を見ていないとなるとこの森を奴らの住みかから逆方向にいかなければならないな」

「そうなの?」

「ああ、かなりの距離を歩いて来たんだろう」

「わからない」

「わからない?」

「うん、今日のあさ、目が覚めたら森の中にいて、横の木にブヨブヨに膨れたよくわからないものが吊られていたの」

「ブヨブヨに?」

「それに辺りは臭いし、怖くなってとにかく走って逃げてたら……」

「そうか、とにかくお前の面倒はしばらく俺が見る。心配するな」


 この時から、オオカミの中でこの女の子はすでに、『守るべきもの』になってました。


 女の子が、自分が憎しみを向ける生き物だとは、思いもせずに。

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