第六章13 『ベアトリーチェ』

 ミミとの結婚式をあげて間もなく、

 部屋に地響きがなりひびく――。


「時空振動。転生者がこの世界に訪れる際に観測される現象」


「それにしてもこの規模の振動を、しかもこんな間近で感じることは流石に初めてだけどな」


 部屋の壁が消え去り、極彩色の万華鏡の

 中のような世界が姿を現す。


 一なる門ダアトで少年が観た世界と同じ。

 だがあの時のような危険な予感は感じない。


「ミミ、この現象は?」


「サクラの起動だね。召喚門セフィロトの流れは普通は一方通行、だけどその流れを逆流させることによって、こちら側から神の元に至ろうとしていたシオンの試みが今やっと甲を奏したという感じ」


「僕たちはどこに向かおうとしているか分かるか?」


「ミミの忌書ネクロノミコンの解析情報を、元に指定座標を設定しているはず。それなら――。ミミたちは、きーちゃんが転生する際に訪れた転生部屋とかいう場所に向かっているよ」


「ミトスフィア女史の言う通りだ。転生者が異能を授けられる場所に私達は向かっている。もっとも階層レイヤーの異なる人間が、肉体を維持したまま至るのは、本来は不可能。だがこの部屋がまるごと時空間転移装置ベアトリーチェとして機能していることによって可能となる」


「確かに生身で入った時のような負荷を感じない」


「どのようにして入ったのかはしらないが、自我が溶けてなくなるほどの情報密度の空間なのだがな。外道もしぶといな」


「それにしてもこの万華鏡のようなこの空間は一体なんなのかな?」


「ここは多元宇宙。サクラにいたるための通り道。一つ一つの煌めきがミミたちのいる世界と同じ世界だよ」


「この万華鏡に映し出されている一個一個の色が一つの世界。無限に近い世界があるということか」


「厳密には有限。ただし人間が存在する限り理論上は永久に拡大していく世界。つまりは無限とも言えるかもしれないな」


 振動がだんだん小さくなり、

 極彩色の万華鏡のような風景が徐々に薄れていく。

 時空間転移装置ベアトリーチェの稼働停止を確認。


「記憶が曖昧だけど、僕はこの部屋に一度訪れている」


 僕が転生した時に、略奪テイカー

 授かった殺風景な白い部屋。


「私がマスターと初めて出会った部屋でもあるな」


「それにしてもとんでもなく味気ない、殺風景な部屋だな、こりゃ」


「ここが忌書ネクロノミコンに記されていた、この世界の全てを司る空間。創造主のいる天国の最上位層」


「この味気の無さ。俺にとっちゃこりゃ天国ってーか、むしろ地獄だな」


「同意だ。ここは世界の構造上の頂点ではある。ただし、天国などという大層なものではない。本来は世界の運航を司る機能を持つ神が居るだけの空間」


「そしてこの部屋に居るのが、世界の創造主機械仕掛けの神デウスエクスマキナたるサクラ」


「ミミ、時折でてくるそのサクラというのは何なんだ?」


「この世界の創造主であり機械仕掛けの神デウスエクスマキナ。サクラを介してこの世界の過去も未来も自由に改変できるの。だからシオンはこの神の制御を支配することで、この世界全てを支配下に置こうと考えていたのだ……と思う」


「シオンはなぜ、神になりたいと考えたの?」


「サクラの制御権さえ奪えば全宇宙を過去から未来まで自分の望む形に改変できる。自分自身が唯一神になれる。ちょっと考え方が違いすぎて、確信をもって言えないけど……たぶんそういうことだと思う」


「狂人の考えなど、理解する必要はないかもしれないのかもしれないね」

 

 一通りの話を終えたあとに、ミミは

 この世界の創造主である機械仕掛けの神デウスエクスマキナに話しかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る