第六章6 『エンタクカイギ』
「ついに我らの悲願が成就されるか――千年の時を経て、やっと至る」
「ははは。長かったですね、本当に。僕らも当初はまさかこんなに待たされるなんて思ってもいませんでしたけど、ね」
「ええ、そうですわね。千年前に
「まっ、人間誰しもミスはあるから、しゃーねーんじゃねーかな。自分達を責めるのはよそーぜ! 俺たちは前だけ向いてポジティブシンキングでいこうや! 七転び八起き、禍を転じて福と成すとか、ほらいろいろ言われてるじゃんね」
「はっはっは!! 吾等とて間違えることもある! それ位の方が茶目っ気があるという物だろう! はっはっは!」
「せやなぁ。それにしても人が忙しい時間を割いて拷問している最中に勝手に死ぬとかありえへんで。今思い出してもはらわたが煮えくり返りそうや。いきなり挨拶もなしに死ぬアホが悪いのやって、うちらに非は無いわぁ。むしろそのせいで、悲願の成就まで千年ものなっがーい時間を待たされた、うちらの身にもなって欲しいわぁ。精神的苦痛の代償として慰謝料払って欲しいわぁ。まっ、もう当人らは死んどるから払いたくても払えんけどな。はー、ほんましんどかったわー」
「気持ちは分かりますよ。自分の娘を千年の眠りにつかせて、親だけ勝手に逝っちゃうんだから、本当に呆れた自分勝手な親ですよ。彼等は親として失格ですね。そういうのを育児放棄の毒親って言うんですよ、ね」
「ほんとぉーにぃー、あいつらうざいーやつらだったぁー。ごーもんで死んじゃう前にぃ、ロストナンバーをコールドスリープされたせえでぇー、あたいたちのぉー目的の達成がぁー、予定より千年も遅くなっちったしぃー。わたしわぁーげきおこなんですけどぉー」
「せやなぁ。それに手間かけて拷問しても、なかなかうちたちのお願いを聞き入れてくれんから、娘を殺すと脅したら、泣きながら
「ははは。確かに愚かな人たちではありましたが、さすがにそこまで馬鹿にしちゃ可哀そうですよ。もう死んじゃいましたし。それにしても、召喚門から間抜けな顔した異世界の召喚者達がわらわらと出てきたときは、不謹慎ですが笑っちゃいましたよ。”君たちは世界に選ばれた英雄だ”とかなんとか、適当な戯言を吹き込んだら本気で信じて自分達が特別な存在だと勘違いしちゃうんですから。ほんと、あれは滑稽でしたよ、ね」
「ほんまソレやな。アイツらそれっぽい演出をしただけで、うちらの話をまるまる信じるなんて脳みそが機能しとらん証拠や。アイツらもしかしてミミズか何かだったのかも知れんなぁ。まぁでも、うちらだけが悪いんちゃうよ? 確かにぃ、最初に煽ったのはうちらやけど、その後は、うちらなぁーんも指示しとらんのに大喜びで虐殺を楽しんどったし、ほぼほぼ全てあいつらの責任やわ」
「――流石に不謹慎かもしれないが、我々もあれらの愚かしさには笑こらえるのが大変であったな。神様というのがいたらこういう気分なのだろうなと理解できたのは良い経験であった」
「少シデモ、世界ニ疑イヲ持ツ召喚者ハ、吾等が殺シタ」
「まっ、馬鹿とハサミは使いようさな。彼等も世界を救う救世主ごっこでハッスルできたし、良いんじゃないか? Win-Winの関係という奴だろ?」
「はは。まあ、自分自身を選ばれた英雄と勘違いしたアホどもを使って、僕たちに逆らうこの世界の愚民共を一掃できたのですから、ゴミとは言え、多少の敬意を払わなければ可哀そうですよ。ゴミとは言え、ね」
「だけどぉー。あいつ等の存在のせいで世界の修正力が働きかけて、あやうくこの世界がぶっ壊れる寸前になっちゃったわぁ。あぶない、あぶない」
「しゃーないやろ。そんな事情俺っち達が知る由もなかったんだからさぁ。そういう大事な説明をする前に拷問中に死んだあいつらが悪い」
「世界のぉ持つ物語を受け入れるぅー容量のぉ限界にぃ到達しようとしていたのぉ。ほんとぉにぃ、あぶないところだったんだよぉ?」
「この世界は他の世界と比較して、莫大な許容量を持つ世界とは言え、それでも俺たちが呼んだ召喚者たちのせいで、うっかり世界が崩壊しかけちゃったんだよなぁー。うけるわー」
「あっちらの誤算は、異世界の人間一人一人が持つ物語量がその世界の総量と匹敵する容量だったってことでありんすね。まさか、一人の人間の中にそんな容量が入っているとは思わなかったのだから、仕方のないことでありんす」
「ははは!! そのせいでうっかりこの世界の容量限界で破壊しそうになったんだから我等の成すことはスケールが違うな! 世界一個を滅ぼす程のおっちょこちょいをするとは!! 愉快!痛快!奇々怪々!!」
「ははは。研究や実験には失敗はつきものですよ。トライ&エラー、そうやって人間は成長していくのです。失敗は成功の母とも言いますし、ね」
「まあ、召喚者たちはさすがに鬱陶しいから皆殺しにしたんでありんすがね。あいつらがこさえたクソガキどもは世界の修正力に影響を及ぼさないと分かったので、使えるうちは活かしといてやるって感じすかね」
「そういや、ニコラ国のガレスという男はどうなんだ? あいつは転生者であるにも関わらず、世界の修正力が働いていないように見えるぜ。それはどう考えたら良いんだ?」
「ガレスは自らの意思で可能性世界、つまり多元世界からやってきた
「逆に考えれば、あの男はこの世界自らの意思で呼んだ召喚者やから世界が異物として世界から排除しようとせんかったっちゅーわけやなぁ。他の召喚者や転生者はこの世界を蝕むウィルスみたいなもんやからなぁ」
「ガレスのような不穏分子の存在を許容するのが世界の意思というのであれば、やはり世界が愚かだという事だ。世界とは脳のない体だけの無脊椎動物のような存在。これからは我々が神となり、きちんと世界を管理、運営してやるしかあるまいよ」
「せやなぁ。それにしても、ロストナンバーがコールドスリープから目覚めた時は流石に焦ったわぁ……」
「わたしたちはぁ、千年も待たされたのにぃ、目覚めたロストナンバーに喋りかけてもぉ、針で刺しても反応してくれなかったぁ。壊れた
「あの時は流石の
「まぁ、俺らにすりゃー、ちょっと大きなペットの猫を飼う程度のものだったからな。浮浪児の一人を飼育する程度でぶっ壊れた人形が動いてくれるなら安すぎる買い物だわな。棚から
「壊レタ人形モツカイヨウ――嗚呼、主ハ我等ヲ愛シテイル」
「そうですね。きっとあの
「ロストナンバーの
「ロストナンバーちゃん、聞き分けがないから結局パパやママと同じ目にあわせることにっちゃったけど、仕方ないわよね。私達もちょっとだけ悪いと反省しているけど、これも世界のために必要な犠牲だと思って笑って許してね」
「――我らは最初っからこうすれば良かったのだ。ロストナンバーはあくまでも目的を達成するための道具。もとより自由意志などを持たせずに、このように機械として扱うべきだったのだ」
「一理ありますね。ただ、僕たちは千年前にそれをやろうとして、ケアレスミスで拷問の末に殺してしまった失敗があります。僕たちは失敗から学べないほど愚かではありません。失敗から学び、前向きにその失敗した原因を分析し、あとはポジティブに進んでいくのです。そのような観点からも、やはり慎重な対応を取った僕たちの選択は間違えではなかったのだと、断言できます。現に結果的にこのように全てがうまくいっているのですから」
「でもまぁ、なんとも無惨。コレも、コレの親も吾等に道具として使われるために生まれてきたような哀れな玩具。その生の最初から最後まで幸せなどは無かった」
「ロストナンバーの髪の毛の一本一本が
「ロストナンバーの自我は膨大な情報の渦に呑み込まれ溶けて消え去ってしまっている。だが、意志を持たぬ方が機械としての使い勝手が良い。今のロストナンバーはこの世界を
「あくまでロストナンバーは、サクラに至るための通り道にしか過ぎない。我々が至ったあとは、破壊するのみじゃな」
「最初から最後まで何一つ良いことの無い、つまらない人生だったな。さようなら、ミトスフィア・ミーリア」
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