第六章7  『死』

 桐咲が扉を開けると、とそこには

 円卓の席に一人ぽつんと座る男が居た。


 ブツブツと頻繁に声色を変え

 独り言を呟いている。


「ミミはどこにいる」


「貴様ガロストナンバーミトスフィア・ミーリアノ駒。遅カッタナ――モウ手遅レ」


 男は、部屋の奥の方にある十字架を指さす。

 十字架の高さは僕の背の高さと同じくらい。

 はりつけにされたミミ。意識は無い。


「――」


 桐咲はサイドレバーを

 車椅子から無言で立ち上がる。


 桐咲が立ち上がると同時に、

 自走式炸裂車スーサイドウィールが急速発信、

 狂ったように男の元に直進し――。


「――爆死しろ」


 自走式炸裂車の背面ポケットに

 溢れんばかりに積んだ爆薬によって

 夥しい数の鉄片が爆発する。


 爆炎が上がり互いの姿が

 束の間の間、見えなくなる。


 対人という簡単ではこれ以上ない

 殺傷力の殺戮兵器。


「あんちゃん、どこ狙ってんのぉ? うちらはここよぉ」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――千切れて死ね」


 部屋中に張り巡らされた無数の糸が、

 急速に収縮し、男を八つ裂きに

 食らいつくさんと、糸が襲い掛かる。

 男を取り囲む、360度回避不能の死の牢獄。

 桐咲は指先に肉が刻まれた確かな感触を感じる。


「はっはっは! そのような小手先の技は吾等には効かん!!」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――失血して死ね」


 投擲用のナイフを左右2本

 合計4本を時間差で投げる。


「はは。無駄ですよ、あなたの攻撃は――全て見えてます」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――胴体が真っ二つになって死ね」


 桐咲は後ろに向かって走る。

 男の背中に忍ばせていた糸が

 男の体を両断する――。

 桐咲の指は確かな手応えを感じる。


「無駄でありんす。あっちには、そのような小手先の手品などは無駄です」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――苦しんで死ね」


 毒針を先端に縫い付けた糸による

 意識外からの毒針による一撃が

 男の頸部に突き刺さる。

 針が刺さった感触を感じる。


「てめぇ、いい加減しつけーぞ! ふざけんじゃねー無駄だっつってるだろーが!」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――死ね」


 桐咲は全力で駆ける。


 ダガーによる頸部の大動脈を狙った一撃

 これを男は防ぐ、――だがそれはフェイント、

 本当の目的は、口に仕込んだ吹き矢。

 吹き矢は、男の眼球に突き刺さる。


「――貴様いい加減にする、でありんす! うちも怒るで!」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「6回」


「はい?」


「6回殺した」


「あらあ。意味不明ねぇ。何を言っているのかしら、ね」


「――死ぬまで殺す」


「無理だわぁ。あなたではぁ」


「異能」


「そんな安っぽいものじゃないわぁ。一なる門ダアトを使って小規模な世界改竄しているのよぉ。直接世界を、書き換えている! これは神の御業!!」


「――知りたくもない死ね」


 桐咲は右手の関節を上方に

 勢いよく曲げる。

 

 男の背後から糸を括りつけた

 ナイフが襲い、男の背後から

 心臓を突き破る、確かな感触も感じる。


「ははは!! 貴様ノ攻撃ハ、全て、無駄やってゆーてありん、す」


 ***************

 男は、何らかの方法で回避する。

 ***************


「――抉れて死ね」


 靴の踵を2度床にトントンと

 衝撃を加えると、バネによって

 靴先から勢いよく仕掛け靴から

 刃が飛び出す。

 

 急接近し、前蹴りを繰り出す。


 ********

 男は、何らかの

 ********


 男の腹部に仕込み靴のナイフが

 突き刺さる――だがまだ浅い


「え……あ。なんで、刺さってあ。痛い」


「――死んで、死ね」


 桐咲は人差し指を2回折り曲げる。

 それが仕掛け武器の起動トリガー

 だったのか、勢いよく右手首の袖の

 下に隠していたバネ仕掛けのナイフが

 勢いよく飛び出す。そのまま男に

 向かって殴りかかる。


 ***

 男は「何らかのおおおお!!」 

 ***


 男は急所を守ろうとするが、

 ナイフが突き刺さる。


 反動で、後ろずさり、運よく桐咲

 との距離を確保することができた。


「あああ! もう殺す!!! も一なる門ダアトが開いた今、あの女もお前も用済みだ!! あいつを殺して、絶望して、苦しめて、死肉を食わせて、何万回でもお前を殺す!!! そして神になる!!!」


 男は、桐咲に背を向け、

 十字架に向かって全速力で走り抜ける。


 桐咲も男を追うが、距離的に男の方が

 十字架に近い。わずかに追いつかない……。

 男は十字架の手前。


 あと一歩のところで間に合わない。


 男は両手に持った短刀で、

 十字架に磔になった少女の

 胸を十字に斬りつける。


 ――操り人形マリオネット役者交代キャストチェンジ


 夥しい鮮血――確実な死。


 男は口が裂けたかのような醜悪な笑みを浮かべる。

 千年に渡る長い長い因縁の決着。

 後は絶望したクソガキを苦しめて殺すだけ。


 


「あれ……」


 短刀によって、桐咲の背中が

 十字に切り裂かれ、鮮血が

 噴水のように溢れ出る。

 ドクドクと命が体からこぼれ落ち。


 ――そして桐咲 禊は死んだ。

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