第五章5  『ニコラ国直上――天使襲来』

 覇道王カイザルガレスにより再び――ヘルメスに向け3本の矢が放たれた。


 三本の矢は大気圏外にてヘルメスへ向け巡行――ヘルメス直上にて減速ののち停止、星の引力に引かれ目標に向け落下。万有引力による自由落下と起爆剤の推進力を得て更に加速する


 ◆◇◆◇


 ニコラ国 覇道王カイザルガレス王室


着矢ランディング予定刻限だ。機巧整備兵各員、着矢ランディング状況を報告しろ」


 覇道王カイザルガレスは告げる


番――ヘルメス南東工業地帯に着矢ランディングを確認」


さん番――ヘルメス西側の政庁に着矢ランディングを確認」


よん番――ヘルメス北部聖堂教会……信号消失シグナルロスト――着矢ランディングを確認できません!」


 ◆◇◆◇


 ヘルメス聖堂教会直上で天使は詠う。


「これがあのをもたらしたもの――炎の矢。深淵の空腹を満たすことをできるか試すのもおもしろいこころみかしら」


 少女は空気摩擦で燃えながら堕ちる炎の矢の目の前に立つ。目の前に魔術による防御壁を展開。矢は聖堂教会直上にて少女の展開した魔術防壁に阻まれ静止。


 矢の自由落下の速度による勢いを相殺。残るは噴射口からでる爆発力のみ。少女は矢の推進力の力に後ろずさりつつも、なお勢いを殺し続ける。


 少女は空中で――讃美歌を詠う禁術を詠唱


 ***************

 生あるものに安息を

 ――死にゆくものにことほぎ


 善悪等しく裁きあれ

 ――生ある全てに煉獄を


 煉獄に至れフォーリン・ダウン深淵デプス

 ***************


 瞬間――。


 メギドの矢核分裂反応弾が中空にて爆発――膨大な熱と光を放つ――。


 だが、少女が放った深淵デプス

 その光と熱エネルギーの塊を咀嚼し

 食い散らかす。何という悪食――。


 まるで黒洞ブラックホールに吸い込まれる

 ような勢いでメギドの矢核分裂反応弾

 よって生じたエネルギー現象は収束し、

 極限まで圧縮され――消滅した。


 覇道王カイザルガレスが、パンドラ

 という少女を最大限の警戒をもって

 遇するのも当然だったということだ。


 天使とは人間とは異なる規格外の存在。

 曰く超越者、曰く上位層アッパーレイヤーの存在。


「アレは人の叡智えいちですら――飲みこむというのか」


 覇道王カイザルガレスは

 誰に言うとでもなく呟いた。


「謹啓、謹んで申し上げ奉る。ニコラ国直上にて空間歪曲現象マイクロワームホールを観測――。人間大の物体が我が国の直上に現出――。拡大します。あれは……御遣みつかい」


「民間人をシェルターに避難させろ――最優先事項だ。次に、上空に魔術壁を展開。完了次第、機巧整備兵たちを地下通路を通じて可能な限り遠くへ避難させろ」


 覇道王カイザルガレスは取るべき

 行動を淡々と指示する


「我と、貴君らはここで肉の盾となり敵を迎え撃つ。ここは地獄などという生易しい所ではない――ただの戦場だ。貴君ら死ぬ覚悟はできているな」


 そう言い切り

 覇道王カイザルはかすかに笑った


「無論――覇道王カイザル


 覇道王カイザルガレスは敵戦力を

 過小に見積もっていたわけではない。

 ただ――この、パンドラという少女が

 あまりに規格外だったのだ。


 事前にに記されていた

 この世界に降臨したという六枚の羽を持つ

 智天使ケルビムの能力を遥かに上回る暴力。


 智天使ケルビムであれば、十分に

 討てるだけの能力をもった破滅の光

 だが、それを真正面から受け止めた。

 たかが二枚羽の天使に――。


「取り乱すな、敵は羽虫一匹。あの羽虫に――人の世の戦争のことわりを知らしめる」


 パンドラという少女に向け、

 戦争そのものが襲いかかる。

 対軍兵器の対人使用。

 過剰防衛の極みである。


「まあ。御礼にきたのにこんな素敵なおもてなしまでしてくれるなんて夢のようね」


 アヴェンジャー30mm重機関砲が火を噴く。

 石壁をも破壊する大口径の機関銃。

 人間はかすっただけで爆発四散する暴力の嵐。

 少女の魔術防壁の前で全て――沈黙。


 10基のレールガン電磁加速砲の同時発射。

 強固な魔術防壁の表面ををバリバリと撃ち砕き、

 弾丸は防壁内に侵入――虫でも払うかの

 ように少女は右手で薙ぎ、無効化。


 ハーキュリーズ地対空ミサイルの発射。

 人型大の生物に使うような兵器ではない……。

 これを少女の細い両腕で受け止め――ロケットの

 推進力によって後ろずさりながらも受け止め静止させる。


 少女が中空で短く――讃美歌を詠う禁術を詠唱


 ***************

 生には死を――には

 罪には裁を――には

 

 因果反転バビロンの法

 ***************


 少女がさきほど受けきったのと

 完全に同等の兵器があらわれ、

 その暴力がニコラ国に向けて放たれる


 ハーキュリーズ地対空ミサイル

 ガレスの城に直撃、半壊――。


 10基のレールガン電磁加速砲

 破滅的な暴力の嵐によって上空の

 術式防壁が完全に打ち砕かれ

 軍事拠点が蹂躙される。


 アヴェンジャー30mm重機関砲による

 機銃の掃射により、シェルターへの避難が

 間に合わなかった住民たちが肉塊に変えられた。


 少女は、半壊した城の玉座に座る

 覇道王カイザルガレスの目前に

 優雅に舞い降りる。


「ガレス――丁重なおもてなしに感謝します。急な来訪にも関わらずこのような盛大なパーティーを開いていただけるとは」


 ――この暴力の嵐をと侮辱する


「なに――。ささやかなおもてなしだ。貴様の来訪が分かっていたならもっと喜んでもらえるような盛大な祝宴を開けたのに、残念だ」


 覇道王カイザルガレスは堂々たる

 王の風格でこれに応える。


「あなたが持つ無に帰す光大量破壊兵器は素敵なおもちゃ。ヘルメスの傘下に入り協力してくれないかしら。そう――天上に坐する神を討ち滅ぼすため」


「神などは我が一人で滅ぼしてくれる――貴様の協力など不要だ」


 ――明確な訣別の言葉


「人が天使と対等とでも?――あなたの意志はわかりました。そうですね、あなたに一月ほどの猶予を差し上げましょう。一月後に再び遊びに来ます。あなたが催す盛大なパーティー楽しみにしていますわ」


「いつ来ようとも我の答えは一つ。今度は貴様が喜んでもらえるような趣向で祝宴を開いてやる。楽しみに待っているがよい」


「えぇ。次こそはわたしを楽しませてくれると信じておりますわ――ガレス」

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