第四章2  『レン荒原の死闘』

 ベオウルフは一人荒野を行く――。

 決戦の地はレン荒原。


 召喚者が訪れる以前の世界では

 多様な人種で賑わっていた


 ――いまは何もないただの荒原。


 ベオウルフは双眸そうぼうで獲物を見据える。

 人影が近づいてくる。


「ここは隠された神域。常人では至れぬ――お前は魔王ラスボスか?」


「いや、傭兵だ」


 ユウタは値踏みするような表情で

 ベオウルフをにらみつける。


「傭兵ね。魔王ラスボスでも討伐しにきたか? 俺が殺すから無理だぜ」


「馬鹿が。俺はお前を殺しに来たんだよ」


「俺は国王の命を受けた勇者だ。それに逆らう意味は理解しているか?」


「勇者だかなんだか知らねーが。請け負った仕事は必ず終える、それだけだ」


「金の亡者の傭兵風情が――」


「ところでさ、おまえ何で人を殺しまくってんだ」


「悪を滅ぼし、この世界を救うためだ」


「あっそ」


 ベオウルフはこの男と話しても

 意味がないことを理解した。


 この男はこの世界を盲信している――。

 そういう手合いとは何を話しても

 意味がないとベオウルフは心得ている。


「最後の質問だ。これは正式に代価を受け取り契約を交わし請け負った俺のだ。お前がどんなに詫びても言い訳しても悔い改めても殺すけど――いいか?」


「下らん……ああいいぞ。ただし――その言葉はお前にそのまま返す」


「あいよ。契約成立、と」


 絶対の自信――。彼の者は転生前の

 世界では最強チーターの名を冠していた廃人だ。


 絶対に不可能禁止事項だと思われていた

 魔王討伐NPCのデリートという前人未踏の偉業を成し電子計算機損壊等業務妨害罪により

 ――この世界に降臨した運営から強制退会処分を受け自殺した


「まずは戦力差を理解してもらう」


 彼の者ユウタはカダスでの虐殺レベリングを経て

 首都アーカムの頃の数倍の力を得ている。


 ――オープン・ステータスウインドウ


*******************

NAME:ユウタ

LV:1000


HP:99999 MP:99999


攻撃力:99999 防御力:99999 

素早さ:99999 魔攻力:99999

耐性:全属性・全状態異常無効


特殊能力:

主人公プレイヤー』取得経験値10倍の受動能力パッシブスキル

勇者ヒーロー主人公補正ご都合主義受動能力パッシブスキル

健啖家グルメ』食べた魔物の能力を修得する受動能力パッシブスキル

美貌ナルシス』好感度を自動で上げる受動能力パッシブスキル

挑戦権トリプル』無条件で相手より3倍強くなる能動能力アクティブスキル

九死九生フェニックス』窮地に陥るほど強くなる受動能力パッシブスキル(上限:10倍) 

残機コンテニュー』100回まで死ねる受動能力パッシブスキル

再戦権100枚のコイン残機コンテニューと対の能力。一手前に遡行そこうする受動能力パッシブスキル

真向勝負ワンマンショー』相手の能力を強制解除する受動能力パッシブスキル

全適正マスタリー』全ての武器を使いこなす受動能力パッシブスキル

*******************



 ――バリィン



 ベオウルフはステータスウインドウに

 前蹴りを放ち、破壊する。


 ステータスウインドウはガラス片の

 ように粉々に砕け散り――消滅した。


「空中に文字出してびっくりさせる異能か。しゃらくせえ」


 ベオウルフはステータスウインドウ

 というものを知らない。よって

 ――幻術の可能性を疑い。

 これを破壊した。


「救世の英雄に立てつくとは――魔王の側近中ボスか?」


「違う。ただのお前の――敵だ」


 話を一方的に切り上げクレイモアを抜剣。

 これを振りおろす


 ガギィン


「ほう。この世界の人間にしてはやるようだな」


「にいちゃん。喋っている余裕あるのかね」


 強烈な――ただの前蹴り。

 だがこれをユウタは盾で受けきる。


「ラスボス前の四天王前座か。いいねえ楽しいよ」


 ――挑戦権トリプル


 ベオウルフの攻撃をかわす。

 挑戦権トリプルの行使によって、

 無条件で現在のユウタの

 身体能力はベオウルフの3倍。


 ――剣の軌道を読むのはあまりに容易。


「ほう。ちょこちょこすばしっこく動くじゃねーか」


 当然の道理である。なぜならば、

 現在この男はベオウルフの

 3倍の身体能力を持っているのだから。


「力の差を思い知らせてやる」


 ――神羅万衝マキシマム・インパクト


 刀剣に神力を宿し万物を両断するスキルの発動。


 ガギィン


「いてー。お前見た目によらず馬鹿力じゃねぇか」


 ベオウルフの3倍の力を持つ者が

 上位スキルを行使して攻撃して

 いるのだから、本来ベオウルフが

 これを受けることは論理的に不可能。


「まだまだ終わらないぞ」


 ――千襲万災セイクリッド・テンペスト


 刀剣から生じる剣圧を凝縮し投擲する。

 原子も両断すると言われる遠距離斬撃波


 カァン


 これを刃こぼれしたクレイモアを投げつけることで相殺そうさいする。――原子を破壊する技がただの投擲物によって消滅させられた。


 ――龍慧落火ドラゴニック・モンク


 両手から武器を手放した状態で戦う制約を条件に身体能力が2倍に跳ね上がるスキル。つまり――ベオウルフの6倍の暴力を行使できることを意味する。


 ――九死九生フェニックス


 更に今のユウタは、九死九生フェニックス受動能力パッシブスキル自動発動オートアクティベーションにより更に10倍――ベオウルフの60倍の能力となっている。


 ユウタは瞬間移動したかのように

 ベオウルフの間合いに入り込む。

 インファイト殴り合いの領域。



 ――八連結究極奥義シームレス・ヘル八大地獄演舞ヘブンリー・アーツ



 等活地獄拳サウザンドブロー

 ――1秒間に千の拳を叩きこむ拳技。

 ベオウルフの全身をくまなく殴打する。


 黒縄地獄刀ブラックソーズ

 ――次元をも切り裂く手刀による斬撃技。

 ベオウルフを袈裟がけに連続で斬りつける。


 衆合地獄昇エアリアル

 ――成層圏まで打ち上げる強力なアッパーカット。

 ベオウルフはロケットのように空中に打ち出される。


 叫喚地獄槌クレーター

 ――空中の敵を地面に叩きつける技。

 落下跡にはクレータができると云われる踵落かかとおとし。

 空中で直撃を食らい音速で地面に衝突する。


 大叫喚地獄潰マントル

 ――地に這う人間をマントルまで

 押し込める踏み潰すストンピング奥義。

 ユウタの靴底がベオウルフの顔面を土足で踏み潰す。


 焦熱地獄投スロー・サロー

 ――足を掴んで地面に高速で叩き付ける投げ技。

 全身の骨を粉と化す技を顔面から食らう。


 大焦熱地獄演舞EPRパラドックス

 ――空中で1秒間に億の蹴りと拳を

 叩きこむ演舞アーツなすすべなく全身に食らう。


 阿鼻地獄・終掌ベータ・ディケイシィ

 ――原子核までズタズタに引き裂く。破滅の掌。

 これを食らい彼方まで吹きとばされる。



 ――八大地獄演舞ヘブンリー・アーツの体現



 八大地獄演舞ヘブンリー・アーツが完成した歴史は無い――。

 天賦の才を持つのもが百年の歳月を費やし

 やっと一つの技を修得できるかどうかの奥義。


 過去の歴史において、八人の天才が各技を

 分業することで疑似的に完成させた、架空の演舞フェイク・アーツ


 ユウタは知識としてこの技を

 知っているだけで、彼の身体能力

 をもってしても実現不可能だった

 究極奥義――だが現在のユウタは

 ベオウルフの60倍――。


 いままでに理論上のみ存在が許された

 架空の演舞フェイク・アーツが生身の体に炸裂する。


「ってーなぁ……」


 ―――。


「顔踏み付けやがって! マジ怒りがこみ上げてきた」


 もはや意味が分からない。

 ユウタは危機を感じ神人から

 譲渡されていた、全知者シオンが

 創造したとうたわれる

 伝説の盾エニグマを構える。


 なぜ60倍の力を持つ自分がこんな

 窮地に追いやられているのか理解ができない。


 ――終天一壁ブロック・チェイン


 完全に暗号化された10枚の概念盾エンクリプトキー

 ウィークポイントが常に乱数ランダム

 移動するため超高速量子演算装置を

 もってしてもその箇所を特定するのは困難。


「うらぁ」


 バリィン――。

 殴打により一枚目が砕け散る


「うらうらうらぁ!」


 バリバリバリィン――。

 三段蹴りにより三枚同時に砕け散る


「あたたたたぁ!」


 バリバリバリバリィン――。

 四連撃の拳激により

 四枚同時に砕け散る

 残るは……あと一枚。


「つらぁー!」


 ガギィン――。


 最後の一枚も蹴りにより破壊される

 目の前にはユウタ一人


 あまりの恐怖にユウタは戦慄失禁した。

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