第三章10 『美の授業:壱限目【体育】』
ストラの右手には既に彼の愛用の長剣が握られている。走ったままの勢いを利用し、上段から袈裟懸けに渾身の一撃を叩き込む。
ガギィン――
フランシスはストラの全体重を乗せた一撃を涼しい顔で短剣で受けきる。
「話し合いを暴力で遮るとは――野蛮ですね。私は二度は言いません。この部屋の中では私がした質問への回答以外、口にすることを許しません。また私へ危害を加えようとした者には罰を与えます。
一旦間をおいて言い切る
「例えば今回はストラさんの罪に対する
ヒュッ――。風切り音
大きなクギ状の巨大な杭がプルートの右足の甲に突き刺さり――足と床を繋ぎ止める。
「この杭は本来
「ぐうぅ……」
右足に杭が刺されていることを確認。足の甲に馬鹿でかい釘が深くめり込んでいる。遅れて鋭い痛みが右足の甲を通じて伝わってくる。
意識が飛びそうになる。痛いい……。叫びたい……だけどここで俺が悲鳴をあげれば、あの狂人はそれを理由に何をしでかすか分からない。
この
「なぜ私がこのような野蛮な暴力に訴えるような方法をするのか教えましょう。私はいままで絵や言葉を通じで美の本質について何度も説いてきました。ですが、結局はだれも理解してくれなかった」
――。
「だから私は悟ったのです。言葉を尽くしても意味などないのだと。結局は、実際に体験しないと理解できないのだというそんな簡単な真実に」
――。
「この村は美しい。人々は互いを思いやる多種族が争いなく共生する
――。
「だけど、まだこの村は完成していない。美としては完成していないのです。あなた方のやり方はただ美しいだけだ。美しいものは奪われる――損なわれるということが欠けている。そのようなものはただの張りぼての過ぎない」
――なおも独演会は続く。
「私には美の本質を他者に伝えることはできなかった。だけど、プルートさん、あなたは違う。もし、あなたが美の本質を真の意味で理解してくれたなら、あなたの素晴らしい能力を使って布教することができる。まずは手始めにテスラ第一皇子にこの真理を理解させ、ザナドゥ国中に伝える伝道師になっていただこうと考えています。その次は他の国です」
――すべてを言い切り数秒の沈黙が訪れる……。
永遠にも思える時間
それを打ち破ったのもまた、
フランシスだった
「それではまずは『体育』の授業からはじめましょう。肉体的な美とは何か。それは
グジャリ――。ストラの頬肉が
ほほが血に染まる。頬の肉がいびつに裂け、
外側から口腔内の歯が見えるほどに肉が
それでも……ストラは叫ぶのを耐えている――。
自分のせいで再び
受けることのないように――。
「――はい。このように
パチパチパチ――フランシスは拍手で祝福する
「心の美しさはただの視覚情報でしかない肉体の美しさよりも遥かに美しく尊いものです。プルートさん、ストラさん、ティアさん、あなたたちがお互いを想いやる姿は1ヵ月のこの村に滞在している間に拝見させていただきました。あなたたち3人の友情は本当に美しい。それは決して損得や打算のある偽物なんかじゃない……。あなたたちのお互いを大切にする心は美しい心は本物だ」
自分の発言に感極まり――嗚咽する。
「――失礼しました。さきほどストラさんの心は美しいままで損なわれていないと私はいいました。確かにそうでしょう。ですが例えば、友をおもいやる心……。友情の美しさは永遠に損なわれない物なのでしょうか? それでは次は友情がどのように脆いものかの実演をします。二限目は『道徳』の授業です。この『道徳』の授業では、ストラさんにも協力していただきたいと思います」
急に熱が冷めたようにフランシスは告げる、
「それでは、ストラさん。あなたの親友のティアさんをここで犯してください」
――フランシスは熱のこもらない言葉でたんたんと告げた。
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