第一章15 『ミミのからだを洗おう』

「いたぁーぃ!」


なんと僕の幻聴ではなくて僕のロりっ子ハーフリング上司からの直々のクレームだった。


「ごめん。ミミのつむじに爪が当たっちゃった」


 僕の爪のささくれだったところがつむじに突き刺さったせいかうっすら頭皮に血がにじんでいたが、これは秘密にしておこう……。


 ちゃんと謝ったのに上司からのパンチがとんできた。理不尽である。パワハラである。猫パンチ程度の威力しかないけど。


◆◇◆◇◆


 しばらくは激おこな上司の機嫌を

雑になだめて、次の工程にはいる。

次はミミの洗体である。


「さっきの話だけどさすがに100人組手ということはないから安心して。というかそんなに居たらもはや手に負えないよね……。殺害対象者は5人。

ミミが教会から得た情報によれば、5人全員が魔術とは異なる奇抜な能力を使う人達みたい」


「5人全員が転生者じゃないことを祈るよ。目標の潜伏場所とかは分かっているの?」


「彼らは全員この国イリアスにいるよ」


 ミミは面積が少ないから作業としては楽だ。

タオルと石鹸を擦りつけてよく泡立てた上で

ミミの体を上体からゆっくりタオルでこする。


 乱暴に洗ったりよく泡立っていない

石鹸で洗うと職権濫用キックがとんでくるので

細心の注意が必要だ。まぁ、蹴られても

まったくダメージはないんだけど。


「ミミ。転生者の暗殺については特に僕からの異存はない。だけど、国内の転生者を5人も殺して問題ないのか?」


「国と教会の意には反するかもね――。だけど、きーちゃんとミミの目的はそこにはない。だよね?」


「もちろん。言うまでもないことだよ。ミミ」


 僕の上司の右腕を軽く持ち上げて

脇の下をゴシゴシと磨き上げる。

ミミはこそばゆそうにしている。


「ところで次の暗殺対象者の情報についてミミが把握している範囲だけで構わないので教えてくれるか?」


「次の候補者は5人とも一流の剣術家であり殺人鬼の“悪剣カースドエッジ遣い”と呼ばれる組織。転生者捕縛のために刺客として送られた教会の暗殺者はすでに何人か返り討ちになっているって情報だよ」


「なんかヤバそうな相手だな」


 ミミの足の指先1本1本にタオルを

通して、足の指の間まで綺麗に磨き上げる。


 僕が定期的に紙やすりで磨き上げている

ミミの足の爪は宝石のように綺麗だ。

思わず頬ずりしたくなる美しさ。さすが僕だ。


「あともう一つ。こっちの方が重要な情報かな。ミミときーちゃんの他にその五人の殺害を狙っている奴がいるの……。

そいつは超一級の傭兵かつ教会の司教級暗殺者。武器庫アーセナルのベオウルフ。彼の危険度は肩書だけでは測れない。――天災のような存在だね」


「自称世界最強のベオウルフさんか。いろいろな意味で可能であれば関わりたくない人だなぁ……」


「なので、今回は彼と直接ぶつからないようにするのが大前提。そこのところの調整はきーちゃんお願いね。ミミもあの人にはどう接したらいいのか分からない……かな」


 小ぶりなおしりから大腿部のあたりをきめ細かい

石鹸の泡をつけて磨き上げる。この世界では、

女性の二―ソックスとスカートの間の空間絶対領域

には美の神が宿ると信じられている。


 僕は大根のような太ももも肉感が

あって好きだが、ミミのような小さくて

すべすべな太ももが一番好きだ。

僕の完璧な洗体術により、ミミの全身は

光輝く艶やかさをもつようになる。さすが僕。


「そうそう。きーちゃん。珍しい暗器が手に入ったからあげるよ。因果応報剣フィードバッカーという儀式用の短剣。

その短剣で相手の攻撃を受ければその衝撃をそのままの力を相手に返すことができるという変わり種の武器」


「僕としては剣で攻撃を受けるような事態になることは避けたいところなのだけど、前回の作戦でそういう場面も想定しなければいけないことを理解した。ありがたく使わせてもらうよ。ミミ」


「無理に使う必要はないよ。あくまで受けた衝撃を相手に返すだけの武器だから過信は禁物だよ。もともと儀式用の短剣だから装飾華美で見栄えは良いけど切れ味はイマイチだし暗殺向きの武器ではないから」


 最後の仕上げとして、石鹸を落とすために

ミミの肩から勢いよくお湯をザバーっとかけて

泡をきれいに流し落とす。


そこに僕が完璧に磨き上げたミミの全身が現れた。


 やはり僕のミミは完璧だ。

――自分の仕事の素晴らしさにうっとりする。

思わず感極まって涙を流しそうになる。


「ところで……。聞きづらい質問なんだけどきーちゃん頭大丈夫?」


唐突に失礼なことをいう上司だ。


「頭? 一応……大丈夫のつもりだけど」


 ぶんぶんとミミが勢いよく首を振る。

ミミの腰まで伸びる長髪が僕の頬を打つ。


「きーちゃんの脳みその方じゃなくて物理的な頭部の傷のこと。なんか血が流れてるんですけど」


「あら。本当だ。さっきの授業中に机にうつ伏せになって目をつぶりながら先生の話を集中して聴いていたんだけど、その際に机の角にぶつかっていたかも?」


はぁ……。とミミはあきれたようにため息をつく。


「ミミはあまりうるさくいうつもりはないけど、せっかくお金出してもらっているんだから真面目にやれとまでは言わないけど、せめて起きていて欲しいかな」


「善処する」


 最後に浴室内で大きなバスタオルで

ミミをくるんで全身を拭く、


――これが僕の毎日の日課だ。


 自己肯定感の低い僕が唯一胸をはって

自信を持てる至福の時間なのだ。



◆◇◆◇◆

教会内番号保有者ナンバーホールダーズ円卓会議ラウンドテーブル



制業不能ベオウルフロストナンバーミトスフィア・ミーリアこの国内イリアスの次の異世界転生者の殺害を狙っていると聞いているが、この情報は本当か?」


「馬鹿者どもめが! 他国の転生者だけを殺害していればよいものを――」


「やれやれ。前回は国からの直々の依頼だからやむなく引き受けたが……。転生者を失うことはこの教会にとって大いなる損失さな」


「このタイミングで資金源スポンサーを失うわけにはいかないわ。アレはやむおえない損失と考えるべきよ」


「ま、戦力面で考えればロストナンバーの方は俺らの脅威にゃならねーよ。警戒すべきは制業不能の旦那の方だな」


「彼らに首輪を付けることはできないのか……。まったくあの二人はこの教会内の獅子身中の虫だ」


「落ち着け――。制業不能の危険度は未知数。我らは不必要な接触は避けるべきだ。彼が明確な敵対行動を取らない限り放置すべきだ。ロストナンバーはこちらの意に反するようであれば相応の制裁が必要だと私は考えるが」


「忌書の解読ができるからここで飼ってやってはいるものの――やはり穢れた血を引いた者の末裔ということだな!」


「気持ちは理解するがお前たちも早まった行動はするな。彼らに対する判断は私が行う。この教会内で忌書の解読ができるのはロストナンバーだけだ。利用価値がある内は泳がせておけ」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る