第一章3 『地球からのイセカイ人――峰岸 亨』
「……ごめん。ミミ。わかった。話す。2ヵ月も時間をかけた理由を」
ごめん。僕は誰に言っているのだろう?
生きていてごめんなさい。
考えろ理由を――。
「うん。きーちゃん話して」
深呼吸――。
「身辺調査を開始して半月ほどで彼が転生者であることについてはある程度の確信が持てた。大きな理由は二つ。彼はこの世界には存在しない知識や技術をあまりにも多く持ち過ぎていた。そして彼の成り上がり方が常軌を逸していた」
嘘つきめ!
半月で確信していたならとっとと殺せ。
なぜ2ヵ月も放置していたのだ。
殺すのが好きなのだろう。
桐咲 禊という異世界転生者は。
「でもそれだけじゃないよね。結論だけじゃなくて、きーちゃんがその結論にいたるまでの理由も教えてほしいかな」
なんで説明なんてしなきゃいけないんだよ。
ミミが上司だからだ。頭が割れそうだ。
”報連相”は勤め人としての基本。
それなら話そう――。
「僕が明確に確信をもったのは彼がモンスターと戦っている姿をみた時だ。彼は無詠唱魔術を行使していた。無詠唱はこの教会でも枢機卿クラス以上でないと行使できない。ましてや、ギルド登録1年程度の人間が使えるものじゃない」
なんかそれっぽいこと言えたぞ――。
やるじゃないか僕。
頑張れ。ここを乗り切ろう。
――ぱちぱちぱちぱち。
ミミの感情のこもらない拍手が聞こえた
「名探偵だね。きーちゃんは。よくできました。ミミは無詠唱魔術を行使できるけど、ふつーは無理みたいだね。その考察にはミミも同意。でも半月でそこまで確信を持てたなら、残りの1ヵ月半はきーちゃん何してたの?」
サボってたよ――。嘘だけどね。
「時間をかけた理由は二つある。一つは彼の行動パターンおよび人間関係の調査、二つ目は彼の持つ異能と戦闘能力の調査。これに1ヵ月半ほど時間をかけた」
「うーん……。うそはついてないんだろうね。だけどちょっと違和感があるかな」
「えっと。――それはどのあたりかな? ミミはどこに違和感を感じた?」
動揺するな僕の思考は
悟られていない。
「きーちゃんの調査項目自体はそんなに問題ないと思うよ。ただ時間がかかり過ぎかな。もしかして調査をしているうちに――。
”彼を殺したくない”と感じるようになってたんじゃないの。安心して。ミミはそのことを責めるつもりはないよ」
「僕には――。殺す対象が善良か悪人かは関係ない。僕はただの人殺しだ。善人でも悪人でも必要があれば等しく殺す。そこに私情なんて――ない。
だから殺した人間が善良な人間だったとしてもそれを僕が悔やむことなんてない。実際僕は人殺しとして――。最も
ミミが――冷たい目で僕を見つめている。
無言で僕を責めている。”イセカイ人”である
桐咲 禊は危険な存在だからとっとと自害しろと。
言われなくても全て終えたら
悪人の僕が善悪を語ることが許せないと。
人殺しごときが善悪を論じるなと。
そう言いたいのだろう。ミミ。
分かっているよ。ミミ。
ごめん。ミミ。
「やれやれ。きーちゃん。どうしたの? きゅーに
僕はミミの言葉を遮った。
「僕は大丈夫だ――。報告を続けさせてくれ」
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