歌姫の願いは世界を救うか
七海 露万
序章
木漏れ日が緑の大地を照らしている。
優しい黄緑色の小さな葉を揺らして、柔らかな風が南から流れていく。
あまり高い木のないこの森の奥深くに、その宮殿はあった。
宮殿はその半数が湖に飲み込まれているといっても過言ではない。
雲の棚引く空を映す青い湖の中には石造りの階段が見えている。もう少し奥には女神の像だろうか、巨大な祈りの場に白亜の神の像がいくつかあるのが見えている。そのどれもが壊れることなく、凛々しい姿をしているが、なにぶん水の中なので風の流れに揺らいで見えることで幻想のように儚くも見えた。
小雨が降ってきた。
泡立つ水面を、そびえ立つ塔が見下ろしている。
水面から高く突き出て、その塔は空に届こうかと言う勢いで雲の上の光を吸収している。その光は鏡を伝って、水没した宮殿の一室に送られている。湖の中だというのに、この部屋だけは水がない。
光が淡く部屋全体を照らし、そこに眠る少女の美しさを際立たせる。
銀色の長い髪がきらめき、規則的に上下する胸が彼女が生きている事を明確に伝える。彼女の白い肌よりも白い純白のワンピースは一点の曇りもなく彼女の清らかさを伝えてくるようだった。
彼女がどんな夢を見ながら眠りについているのか、誰も知らない。
彼女がどうしてこんなところで眠っているのかも、誰も知らない。
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