家族丸ごと直感クッキング①

赤いカーペットが玄関まで伸びている。生ゴミの袋を玄関に置いた後に彼女は気づいた。

「…この袋穴空いてたわ。ワロス」

「うわリンお前ふざけんな!乾く前に拭いて。血って乾いたらシミになるんだよ」

「あぁん?分かっとるわ。レンは黙って解体しててよ!」

袋に空いた小さな穴からじわじわと血が滲み出、玄関マットを赤く染めていく。

その様子をじっと見ていたリンは片付けは後ででいいや、と諦め弟のレンがいるキッチンに戻る。血液カーペットの感触も悪くない。

レンはというと父親の死体を丁寧に解体していた。頭・腕二本・二等分した胴体・脚二本に分け、切り口から手際よく内臓を引き抜いていく。

「…ちなみに男性器コレも食べんの?」

「食べないよ…流石に衛生面に問題がある」

「だよね!よかった!!」

男性の体は筋肉が多い。筋張って噛み切りにくい脚は燻製にしておけば日持ちも良くなる。…あくまで推測なので本当に美味しくなるのかはわからないが。

「色々買い足さなきゃな。布団に付いた血痕てなにで取れるんだろ」

「調べたらねーランジェリーに付いた経血の血落とす用の洗剤があるらしいよー。それ買おーぜー」

「ん、オッケー。洗剤とオリーブオイルの予備、後ろのボードにメモしといて」

冷蔵庫にぶら下げたホワイトボードは元々、活動する時間帯がバラバラなのを不安に思った母が連絡用に買ってきたものだ。まあその優しい母はもうすぐ彼らの腹の中に収まる予定だったりする。

メモを書き終わったリンが手持ち無沙汰にふらふらと家の中を散歩する。

「もうそろそろ陽が真上にくるよ。もうこんな時間なんだねぇ。片付けに気ぃ取られすぎて気づかなかった」

「おいカーテンは開けんなよ。お前ほぼ全裸じゃん。通報されんぞ」

「わぁってるよ!てか消臭剤も買っておく?まだ血の匂いしかしてないけど、後々腐敗臭出てくるでしょ?」

「あー確かに。無臭のやつ買っとくか」

一人目の解体が一区切り付いたのか血塗れの手でメモを書くレン。彼の後ろ姿を見ながらリンは無関心を装いながら問いかける。

「…ねぇ、なんでママとパパ殺したの?」

「理由は色々あるけど、俺とリンの関係をカミングアウトした時、笑われたじゃん?その後リン、泣きながら『死ねばいいのに』って言ってたから…ってのが最大の理由」

彼らは双子であり恋人同士だ。齢16だが何回か体を繋げたこともある、相思相愛の

大らか両親は「仲のいい姉弟きょうだい」程度にしか思っていなかったものだからCOカミングアウトされた時、「嘘も大概にしときなさいよ」とやんわり彼らの愛を否定したのだ。

「そーゆー…レンの世界の中心にあたしがいるーみたいなの、結構嬉しいものね」

「…昔はシスコンって言ってたくせに」

少し口を尖らせながらレンは淡々と調理の用意をしていく。胴体の塊から背中の部分だけを切り取り、ブロック状に切り分けていく。八当分に切った肉をジップロックにぶち込み、冷蔵庫に放り込む。次に太ももの部分の肉を骨から剥がし、六当分にカットしていき塩胡椒をまぶす。

「それどこ肉?何作ってんのー?」

「右脚の太もも使って赤ワイン煮込み作ろうとしてる。玉ねぎとセロリと人参そこに出してあるから雑に切っといて」

「りょうかーい」

あらかじめ置いておいたフライパンに肉を入れゆっくり全面に焼き色をつけていき、ほどほどに焼き色がついたら煮込み鍋にドボン。

リンから「切れたよ」と渡されたみじん切りになった野菜たちをフライパンでしんなりするまで炒め、しんなりしてきたら小麦粉を大さじ1杯分加えて粉っぽさがなくなるまで焦げないように炒める。

「ねぇこの葉っぱ何?いい匂いするー」

「それローリエっていう臭み取り兼香り付け用のハーブ。よくカレーとかに入ってんの見るだろ?3枚くらい鍋に入れといて」

「あー!あれか!あ、赤ワインの火止めとく?」

「頼むわ」

ローリエと炒めた野菜たちを煮込み鍋に入れた後、隣のコンロで煮詰めていた赤ワインを加えさらに材料が水面から出ない程度に水を加え、煮込んでいく。

「はい、灰汁アク取り大会開催しまーす」

「賞品はなんですかー?」

「赤ワイン煮込みです。ほれ取るぞ」

黙々とアクを取っていく二人。次第にいい匂いがあたりに立ち込め、アクも少なくなってくる。塩を加え、アルミホイルで落し蓋をしてその上から蓋をする。

「あと三時間かかるからその間に買い物行ってくる。リンは火ぃ見てて」

「わかったー。弱火だけど良いの?」

「じっくりコトコトさせるから弱火で良いの。帰ってきたら片付けするぞ」

パッパと返り血のついた服から軽めのTシャツに着替えていくレン。着替え終わったレンの姿からはとても殺人をしたとは思えない爽やかなオーラがあった。

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」

彼はこのあと、洗剤の種類の多さと、店員に『ランジェリー用の洗剤ってどこですか』を言うのに必要な勇気がヒノキの枝装備で魔王城に挑むのと同じくらいの難易度なのを身を以て知るのだった。

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