世界が二人を嫌う理由
新島めぐる
あの子の中身を見てみたい
リンディス・デミマキナは全てにおいて優れた人物である。
上流貴族のデミマキナ家に生まれ、国の最高育成機関・マリンガルアカデミーを首席で卒業、サイレン評議会の副議長に就任し、齢16にして女王陛下から水の祝福の魔法をかけられるほど。
その上美人なもんだから世の中不公平極まりない。
そんなリンディス・デミマキナは職場から帰るとき、必ずぬいぐるみ店「toyBoxの双子」に寄る。店長の男がリンディスの双子の弟らしく、店を一人で切り盛りしている弟を気にかけているそうだ。
…噂ではそうなっているが私は知っている。確かにあの二人は双子だ。昔このめで見た。見間違えるほどそっくりな容姿、人形のように綺麗な二人が店の奥のバックルームでキスする現場を、見てしまったのだ。双子特有の親愛のキスなのか。…あのキスはきっと親愛ではない。あの二人は恋仲なのだろう、と一瞬でわかってしまうぐらい
美しいものだった。
ちなみにこの国では同性愛も近親相姦は許されていない。彼らの行く末に幸あれと思いながら、その日は見つからないように現場を離れた。
クリスマス目前の12月、事件は起きた。
『リンディス嬢、突然の失踪!』と大々的に銘打った新聞。そう、この国最大の逸材が何も言わずに消えたのだ。愛人との駆け落ち、期待に耐えられず自殺etc…
根も葉も無い噂やデマが街を悪い意味で賑わせる。しかもこのタイミングでリンディスが常連になっていた「toyBoxの双子」が突然閉店したのだ。新聞各社は勿論、普段噂やデマを信じない上流貴族も関連性を疑わずにはいられない。しかし決定的な証拠や本人も見つからないので警察は捜査を中断、迷宮入りとなった。
失踪事件から一年が経った。勤め先を栄光退職した私は自営業に手を出そうとしていた。妻の長年の夢だった花屋を開こうと土地を探していた時、あの「toyBoxの双子」がまだ壊されていないことを聞き。一時期ではあったがリンディスは私のアイドル的存在でもあった。世間は忘れ始めているがどうしても忘れたく無い、忘れられない私は未練がましく「toyBoxの双子」を買い取る決意をした。妻は気持ちを察してくれたのか何も言わずに了承してくれた。良い妻を持ったな私は。
買い取るに当たって値決めをするため、「toyBoxの双子」の中に入った日。
「なんだこれ…誰かいるのか…?」
店の中に入るとぬいぐるみが無造作に、というには無理のある倒れ方をして散らばっていた。中には中身の綿や花びらがはち切れて飛び出ているぬいぐるみもあった。
慎重に店内を見回すと赤い花びらが道のように店の奥に伸びているのを見つけ、恐る恐る奥へ進んでいく。
奥は真っ暗で、中央にポツンと大きな箱が鎮座していた。形は長方形で、蓋の上にはメッセージカードとスターチスの花束。箱の周りには枯れたコスモスや千切れたネリネの残骸が散らばっている。箱はカラフルなパッチワーク模様でまるでおもちゃ箱のよう。
「…開けるか?」
見るからに怪しげな箱以外、店内は特に変わらない。逆を言えばその箱以外に何もない。意を決して蓋に手をかける。
…はっきり言って見なければよかった。蓋をゆっくり開けるとそこには白骨化した遺体が二つ、寄り添うように抱き合って横たわっていた。
その遺体の一つが着ている服、それはリンディス・デミマキナが失踪前にお気に入りだと言っていた白いウェディングドレスのようなワンピース。
間違いない、この白骨遺体はリンディス・デミマキナと弟のアレン・デミマキナだ。
腰を抜かした私の横で妻が置いてあったメッセージカードを読み上げる。
「『長らくのご愛玩ありがとうございました。最期の作品ゆえ、中身はドライフラワーにさせて頂くことをお許しください。 作品名「toyBoxの双子」製作者アレン&リンディス』…あなた、彼らの服を脱がせてみて」
そう言われ慎重にアレンの白い服を背中側から脱がす。服の下にむき出した背骨から溢れでてきたのは青と赤のバラの花びら。
「やっぱりね…分かっていても気持ち悪い…」
『toyBoxの双子』はぬいぐるみの中に綿とその人に合った花を詰める店だった。アロマの代わりやプレゼントに最適だと大人気だった作り方だが…
「
花に混じってカピカピに乾いた臓物が出ているのが見える。
「…帰ろう。もう見たくない」
その日の内に警察に話すとあっという間に新聞各社が聞きつけ記事にする。はずだが流石に猟奇的すぎるゆえ大きな新聞社は得た情報を破棄、要は「私は何も聞かなかった」だ。ガセネタばかりの新聞社は記事にしたようだが誰も信じず、真実は一部の人間しか知らない本当の迷宮入り事件となった。
警察からの帰り道。私はずっと考えていた。遺体の背中から出てきた青と赤のバラの花言葉はそれぞれ「夢叶う」と「あなたを愛します」これはきっと心中の事だろう。メッセージカードと一緒においてあったスターチスは「永遠に変わらず」
わからないの店内に散らばっていたコスモス「乙女の純潔(初恋)」とネリネ「また会う日まで」の意味だ。あの花達以外は全て腐っていた。わざわざドライフラワーにしたのには何かしらのメッセージがあると考えていたのだが…
「また会う日までって
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