処女

無為憂

『私』


 八月二十六日水曜日。

 電気もつけないで、カーテンも閉めて、声も出さないで、深く、鋭く、私を傷つける。

 優しさを謳うあの歌は、責任を問うあの政治家は、そんなもの、すべてなくなれ、と思った。

 高校生になって、友人よりも深い繋がりの男の人ができた。でも、それは正常なものじゃなくて、どこかで痛みに似た癒やしがあって、いつも私の心に罪悪感として残っていく。

 同情に似た彼の笑顔が私の心を塞いで、靄となる。

「浅羽さん、またきてもいい?」

「桜庭君、何回も言っているでしょう? いつ来てもいいって、毎回言ってるよ、私」

 ベッドの上で、二人で、裸のまま、横たわっている。このまま深い眠りに落ちてしまえばいいのに。私は、いつも彼とそうした後、思うのだ。不思議と、嫌な感じはしない。どこか、安心感がある。

「またね」

 彼が帰っていった。


 部屋には裸の私だけが残る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る