週一創作ワンライまとめ

@2222anpan

第1話 弟子入り志願者

 鹿野園青治は突然押しかけたファンの青年を持て余していた。

「先生の作品は全て読みました。中でも『嘘つき土竜と朱雀の協奏曲』を初めて読んだ時は雷に打たれたような衝撃で……」

 こちらが酸欠になりそうなほど捲し立てる青年は弟子入り希望らしい。しかし、鹿野園は弟子を取るつもりはなく、どうしたものかと頭を抱えた。

 何と言って追い返そうか思考を巡らせる。

 この調子だと正直に弟子は取らないと言ったところで帰りそうにないぞ。ここは無理難題を吹っ掛けて諦めさせようか。例えば龍の目玉を取ってこいとか。

 いや、それではまるで竹取物語だ。

 竹取物語と言えば、今年の中秋の名月はいつだ?

 ついこの間まで蒸し暑いと思っていたが、季節が過ぎるのは早いな。最近の朝晩の空気に秋の気配を感じるもんな。

 もうすぐ桔梗の花が咲くだろうから押し入れに仕舞い込んだ灰色の花器に生けてみようか。そろそろ秋刀魚が旨い季節だから七輪も出しておこう。

 いやしかし、秋刀魚も良いが松茸も良いな。現実逃避に走った思考を引き戻したのは、先ほどまで勢いよく話していた青年が湯飲みの茶を飲み下す音だった。

「あー。そこまで私の作品を気に入ってくれるのはありがたいが、生憎、弟子は取っていないのだよ」

 結局、断る方法を思いつかなかった鹿野園は小細工を辞めて事実を述べた。

「弟子が駄目なら雑用でもいいです! 俺、先生の為なら何でもやります!」

 湯飲みを空にした青年が鹿野園を見つめる。真っ直ぐに縋り付くような視線に怯みつつ、目をそらしては負けだと鹿野園も青年を見つめ返す。

 やはり正攻法では駄目だ。竹取物語作戦で行こう。

「私の為なら何でもするって言ったね」

「はい」

「本当に何でも?」

「あなたの為なら」

 青年は頷いた。

「じゃあ、君に用事を頼もう」

 さて、何を持ってきてもらおうか。玄武の甲羅か河童の皿か。鹿野園は可笑しくて笑いそうになるのを抑えて真面目な表情を作る。

「はい。何でもお申し付けください!」

 命令を聞き逃すまいと身を乗り出す青年の瞳は純粋で、鹿野園はこれから馬鹿馬鹿しい命令を下そうとした自分が恥ずかしくなった。爛々と煌めく眼差しから顔を背け、鹿野園はまだ口を付けていない自身の湯飲みを掲げた。

「茶が……温くなったので、新しいものを頼む」

「はい!」

 青年が気持ちの良い返事をして湯飲みを受け取る。

「すぐにお持ちしますね!」

 軽い足取りで台所に向かう青年の姿を見送って「厄介なことになってしまったなぁ」と、困ったような、それでいて少し嬉しそうな顔で鹿野園が呟いた。

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