15.狭間にて

とにかく今は死にたくないと思う瞬間があって

でもいつかは死んでしまうんだと虚しくなる瞬間もある

そんな瞬間と瞬間の狭間を行き来しているうちに私は

自分がどちらに居たいのか分からなくなってしまった


死にたくないとつまりは生きていたいと思うのは

今日死んでいった人たちのことを考えるから

死んでしまうんだと結局はそうなんだと思うのは

今日生まれた人たちのことを考えるから


往来の果てで声をかけてくる者があった

それはまだこの世に生まれていない者であった

その者の話す言葉はこの世の言葉ではなかったために

私はその者の白い眼を見て頷くしかなかった

その者は確かに生きると決めた眼をしていた


往来の果てで声をかけてくる者がもう一人あった

それはもうこの世からいなくなった者であった

その者の話す言葉もまた解らなかったため

私はその者の黒い眼を見ても肯くしかなかった

その者は死に魅せられた恍惚の眼をしていた


二人の眼を見た私の眼からは一切の迷いが消えていた

とにかく今は死にたくないと思う瞬間にも

でもいつかは死んでしまうんだと虚しくなる瞬間にも

どちらにも居たいと思った私はまた

その瞬間と瞬間の狭間を行き来し始めたのである

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