「……はっ！」

　もういちど理里が目を開けると、そこは自分の部屋だった。白い壁紙、でかでかと貼ったロックバンドのポスターは、左上のピンだけ少しゆるい。

「あっ。おきたんだね」

　声がした右側に目をやると、

「うわっ！？」

　姉（珠飛亜）が、真横で寝ていた。長いまつげの上下を寄せて、彼女は柔らかい手で理里の頬に触れる。

「おはよう。よく寝られた？」

「……ああ、いや」

　よくわからない夢を見て、あまり寝起きはかんばしくない。そう伝えると、彼女はほころんだ顔で、親指を理里の唇に当てた。

「そう。じゃあ、もう一度目を閉じてみて？」

「えっ……ああ」

　戸惑いつつも、理里は姉の言うままに瞼を閉じる。すると、

「……あっ！？」

　ぽにょ。

　顔を包む、柔らかい胸の感触。抱き寄せられた。

「実は、まだ夜中の四時なの。だから、まだ寝てていいんだよ……おねえちゃんがいっしょだからね。ずっと、ずうっと、いっしょだから……」

（珠飛……亜……）

　ほのかに香るフローラル。湯上がりの女性の甘やかな香りが、やさしく理里をつつみこむ。さきほどの夢とは違う、嗅ぎなれた香りの安心。

　柔肌と芳香に抱かれて、理里はふたたび安らかな眠りに落ちていった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい