59. S anthem of Y-CITY


「っ……!?」


 珠飛亜もまた、突然現れた巨大な『青い炎』の獅子に絶句していた。

 目の前で、手塩が獅子の右前脚に踏み潰された――というより、炎でできた足に取り込まれた。おそらく助かってはいまい。


「……っ!」


 1テンポ遅れて、珠飛亜は翼を広げ、飛翔する。気絶した理里を両手に抱え。


(手塩くん……)


 複雑な思いだ。敵だった、そして今は味方だった。それより以前は……『仲間』だった。そんな彼が、死んでしまった。

 改めて、珠飛亜はその犯人……否、犯を見遣る。


綺羅きーちゃん……なの……?」


 推察、いや確信する。間違いなくそうなのだろう。だが、にわかには信じがたい。いくら怪物であるとはいえ、あのか弱い妹が、ここまで巨大・狂暴に変容するなど。


 高さ約100m、全長でいうと600mに近い。が、それだけ巨大な生物が歩いたというのに、地面には足跡のひとつも残っていない。かわりに、怪物が足を大地に下ろすと同時、その足形に道路が凍っている。


 綺羅はもともと『具現化型』の異能力者であり、この『青い炎の獅子』の巨体も、彼女の魂のエネルギーがイメージ映像を得た物にすぎない。いわば幻影、ただし触れれば凍る幻影だ。


『GGGGGGGGG……』


 その巨大な蜃気楼の怪物は、台風が息をするように、ごろごろと唸っている。


 珠飛亜たちを見つけた様子は無い。手塩は、怪物がただ『歩いた』のに巻き込まれて踏み潰された。しかし、怪物は何かを探しているように見える……しきりに辺りを見回し、咆えている。


(どうしよう……これもう、わたしたちに収められるレベルじゃないんじゃ)


 珠飛亜の心に陰が差す。

 仮に吹羅を連れてきたとして、これのどこに触れたら能力を無効化できる? この巨大な身体から、本体の綺羅を果たして見つけ出せるか?


(……いや、弱音を吐いても仕方ない)


 そう、仕方ない。思い直す。それよりも今、自分にできること。それを珠飛亜は模索する。


吹羅ひゅーちゃんは蘭子ちゃんが迎えに行ってくれてる。スピードならあの子の方が圧倒的に速い。わたしの出る幕じゃない。となれば……)


 自分にできること。それは。


「りーくん……おねえちゃんが、絶対、守るからね」


 彼を、守ること。誰よりも、この世で一番大切な、愛する弟を。

 腕の中で眠る理里の閉じた瞳を、珠飛亜は決意を込めて見つめた。

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