60. Lover's suffering
――と。
炎の獅子の視線が、滞空する珠飛亜を見上げて静止する。
「え……うそ」
もしや。よもや。まさか。
見つかった。
「GOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!」
咆哮する
その、貯水塔のごとくそびえる脚を浮かせ、
「うそでしょ――――っ!!!!」
全速。絶叫、可能な限りの全速力で、珠飛亜は翔んだ。
あの炎の塊となった綺羅に取り込まれれば、いくら珠飛亜でも自身の解凍はできないだろう。氷を溶かしたところで、周りは青い炎一色。すぐ再び凍らされるのが落ちだ。
今はただ、逃げねばなるまい。
「蘭子ちゃん、お願いだから早く来て――――っ!!!!!」
悲鳴をあげつつ、必死に翼を動かす珠飛亜だった。
☆
いた。あのひとが。
わたしの愛するあのひとが。
いつも優しい、そしてどこか哀しい目をした、あのひとが。
(おにい……ちゃん……)
自分は、こうも醜悪に変わってしまった。熱い。身体中が熱い。喉の中で巨大な毛虫が転げまわっているようだ。
苦しい。あと少しで手が届きそうなのに。その私の手は、今や
(たす……けて……。おにいちゃん……たすけて、よぉ)
炎の身体では涙も流れない。ごうごうと目元が燃えるだけ。
(あつい……あつい、よう。くるしい、よう)
たすけて。この寒くて熱い炎の牢獄から、わたしを連れ出して。
わたしのことを、もっと見て。わたしは、あなたのことがすき。わらっているあなたをみているのが、しあわせ。あなたがいるだけで、しあわせ。
あなたのためなら、この世界だって滅ぼせる。だから今、あなたの笑顔が、ほしい。いつもみたいに、笑って手を差しのべてほしい。そんなところにいないで、こっちを向いてほしい。
(おにいちゃん……おにい……ちゃん――)
蒼き炎の心臓で。浮世を氷に包む劫火の種が、ふたたび
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます