12. Perfect Strategy



「と、いうわけで作戦会議じゃああああああああ!!!!」


 家に帰るや否や、リビングに珠飛亜すひあ以外の家族(理里りさと)、|恵奈《えなひゅ綺羅きら)を呼び集めた希瑠けるは、さっそく理里と田崎蘭子の競走について説明した。


「何事も命を懸けるものは心が躍る……たぎる、血が滾るぞぉ! この身に宿る黒焔こくえんりゅうの血がぁ!」

「その意気だぜ吹羅! お前はいつもノリがよくて助かる! そんな血は1mミリリlットルも混じっちゃいないがな!」


 次女の吹羅は今日も左眼の黒い星のペイントを欠かさない。「くるりんぱ」と呼ばれる手の込んだ髪型もいつも通りだ。


「どうしてかけっこを申し込まれたのはりーくんなのに、希瑠けーくんの方が張り切っているのかしら……」

「俺はあの女が気に食わん! 何としても一杯食わせてやらなきゃ気が済まねえ! 以上だ!」

「と、いうことだそうで……」


 希瑠の開き直りに、理里が諦めたように首を振った。


「理里ォ! 決戦の土曜日まではあと何日だ!」

「えっと、今日は4月16日、月曜日だから……今日含めてあと六日むいか、かな」

「そう、あと六日だ! それまでに俺たちは奴に勝てる万全の策を見出さなきゃならねえ! でないとみんな死ぬ! だから死ぬ気で考えるんだ!」


 ダンッ、と希瑠はテーブルを叩く。


「……殺される、なんて言うけれど。どれだけそのコが速かろうと、あなたが油断せず気をつけていれば、勝てたのではなくて?」

「うっ……」


 痛いところを突かれた希瑠の顔がる。


「そ、そりゃもちろんさ。だけどほら、まさか英雄が、そんな卑劣な手を使うなんて思わないだろ?」

「……甘すぎるのよ、貴方あなた


 恵奈が軽蔑の目を向ける。


大兄上おおあにうえは、頭が良いのか悪いのか分からぬな」

「う、うん……」


 吹羅と綺羅にもジト目を向けられる。


「ま、まあまあ! 兄さんが俺を守ってくれたのは事実なんだし! 今は『かけっこ』のこと、考えようぜ!」


 雰囲気が悪くなりかけたのを、どうにかやわらげようと、理里は精いっぱい明るい声と笑顔を造った。

 家族の中で責任追及などしていても仕方がない。今は、先に待ち受ける問題に対処することの方が先決だ。


「……そうね。受けてしまったものは仕方がないわ。

 りーくんを守るためだったら、わたしは全力を挙げるましょう。母親ですものね」


 恵奈は肩をすくめて、困ったように苦笑した。


「土曜日ならば、我らも中学が休みだ。"死の体現者トゥルー・オブ・デス"の力、とくと見せつけてやろうではないか!」

「う、うん……き、きらも、がんばるよっ」


 いつの間にかふたが変わった吹羅と、少し自信なさげな綺羅も、それぞれに大小のガッツポーズをする。


「ありがとう、みんな。わざわざ俺なんかのために……」


 理里が頭を下げると、クハハ、と吹羅が笑った。


「良い良い! 前世から因縁のある貴様に恩を売れるとは、我も胸がすく思いよ!」

「そんな因縁は微塵もないと思うけど……家族ですもの、当然のことよ」

「お、おにいちゃん、いつもきらに、やさしくしてくれるもん。だ、だから、おんがえし、したいんだ」

「おう! お前はオレの大切な弟だ、それくらいお安い御用だぜ!」


 最後の鼻につく美声だけは、いささか信用ならないような気がしたが。それでも少しばかり、元気づけられた理里だった。





「それで、作戦はどうする? 家族総出でかかる、って決まったのは良いが……」


 希瑠が皆の顔を見回すと、恵奈が手を挙げた。


「それだったら、すでに考えてあるわ」


「マジか!?」

「やっぱ母さんはすごいな……」


 希瑠と理里から、感嘆の息が漏れる。


「それほどでもないわ。たまたま思いついただけ……」


 恵奈は謙遜に肩をすくめた。


「……さて、作戦の概要だけれど。

 喜びなさい、希瑠けーくん。上手くいけば貴方の力で、、りーくんを勝たせることができるわ」


「へっ……………俺?」


 腑抜けた顔をした希瑠に、恵奈は自信に満ちた笑みを浮かべる。


「ええ。まずは――」


 恵奈の語った作戦は、二つ返事で皆の承諾を受け、実行に移されることとなった。



 決戦の日まで、あと六日。どこかで、開幕のベルが鳴っている。





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