レインフォール イン ルーム

 頬にポツンと雨粒があたった。そう思った。

 でも、ここは室内で私はベッドに仰向けで寝ている。感触がしたところに触れると、やはり濡れていた。

 雨漏りかな。寝転がったまま考えてみたけれど、ここは5階建マンションの2階だ。じゃあ、上の住人が部屋を水浸しにしちゃったのかしら。これも違う。ひと月前に引っ越していったから。

 そうしているうちに、もう一粒。今度は私の目のごく近くに落ちた。すると、不思議なことに情景が見えた。若い女の人が謝っている。オフィスだろうか。綺麗な角度で頭を下げている。長くてまっすぐな髪が垂れて、カーテンのように彼女の顔を隠す。わずかに覗く頰が白すぎて痛ましい。

 天井から涙が降っている。これは彼女の涙だ。ぐっ、と耐えて流せなかった涙だ。

 涙は清潔に思えた。私には彼女の苦しみがよくわかる。仲間意識というか、同じものに傷を負わされた者同士の奇妙な連帯感が芽生えていた。

「元気出しなよお」

 言ってみるが、届くわけないうえに私の声もやけに不安そうだ。そうだよな。元気出せたら出してるよな。出せないから困ってるんだわ。

 涙は止まらない。ポツン、ポツンと断続的に私に降りかかる。誰かを励ますのは難しい。どういう距離感でいるのがベストかわからずに、コンパスで円を描くみたいに周りであたふたしてしまう。

 あんたの悲しみは私が知ってるよ。誰だお前って思うでしょうけれども。

 私は顔を伝い落ちる水滴をそのままにして目蓋を閉じる。こうすると、涙の道筋を強く感じる。長いこと泣いちゃってもいいよ。その逆に、できるだけ早く悲しみが終わりますように。遠いのか近いのかすら、わからない場所から祈る。

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