【第2話】 まさか、最強スキル『現実改変』を(魔王軍相手ではなく)あんな相手に使うことになるとはなぁ…


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 回想・始 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


今から138億年前、虚無の空間に意思を持った『概念体』が生まれた。

それがオレだった。

暇だったオレは『ビッグ・バン(大爆発)』を起こし、

この『基本宇宙』と無数の『平行宇宙』を創った。


それから色々あった後、今から1000年前、

オレはここ…惑星アルファザード(異世界アルファザード)を訪れた。

その時、ドラゴンの群れから逃げ遅れた村人達を守る為に命懸けで戦っている

3人の女冒険者を見かけた。

それが、ファイナ、アイネ、ヒーリスだった。


3人は超一流の冒険者ではあったが、さすがに、逃げ遅れた村人達を

守りながらドラゴンの群れとたった3人で戦うのは無謀だった…

ので、手を貸してあげることにした。


スキル『消滅』でドラゴンを全滅させた後、

オレは3人の正義感や戦いぶりが気に入っていたので、

3人にスキル『不老不死』等、いくつかのスキルと空中神殿を与えて、

アルファザードの平和を守る女神になってもらった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 回想・終 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ここは異世界アルファザードの上空に浮かぶ空中神殿の内部。

(ちなみに、空中神殿の底部は巨大な雲で覆ってある為、

 地上から見つけるのは容易ではない。)


記憶を取り戻したオレの前には、3人の女神が佇んでいる。


「ほんと、3人とも久しぶりだな…。 何年ぶりだろ…?」

オレは誰にたずねるでもなく呟いた。


「う~ん…最後に会ってから、100年ぶりくらいっスかね~?」

まっ先にファイナが返答した。


「たぶん、50年ぶりくらい…。」(ボソッ)

アイネが答える。

相変わらず、声が小さく、ボソッとしゃべる。

(ちなみに、オレも女神3人もスキル『翻訳』を持っているので、

普通に会話ができる。)


…しかし、ファイナの返答は相変わらずノリが軽いというか、

ちょっと大雑把でいい加減なところがあるな。


「正確には、51年と1ヶ月と3日ぶりですね。」

ヒーリスがより正確に返答する。

相変わらず几帳面だ。

…ってゆーか、ここまで細かいと、

正直、少しだけ怖い…。 (^_^;)



オレは自分が創造主であることを思い出した。

そして、今の状況が、

『トラックに轢かれて意識不明の重体に陥っているオレが

 病院のベッドの上で見ている夢の中』

ではないことを確信した。



ヒーリスが不思議そうにたずねてくる。

「それにしても…創造主様はなんで人間に…地球人に転生されているの

ですか…?

地球で何か大きな問題でも…?」


ファイナもアイネも同じ疑問を持っていたのか、オレの方を興味深い目で

見つめてくる。


オレは答えた。

「いや…これは単なる『趣味』だ。」


「「「趣味…???」」」

3人とも、オレの返答内容がかなり予想外だったようだ。

もう少し、詳しく説明する必要があるな。


「あぁ…。 

 50年ほど前からなんだが、オレは

 『色々な惑星の色々な生物に、生まれる前の状態から転生して、

  その生涯を体験する。』

 …っていう趣味にはまってるんだ。

 例えば、ある星ではペットの犬に転生して人間に飼われてみたり、

 ある星ではカブトムシに転生してみたり、

また、ある星では鳥…ってか鳥の卵に転生したんだけど

 羽化する前にヘビに捕食されちゃったりとか、

まぁ、色々やってたわけさ♪」

と、オレが笑いながら話すと…


「そ…それはまた、個性的な趣味ですね…。」

ヒーリスは、口調こそ丁寧だが、若干引いているようだ…。


「変わった趣味…」(ボソッ)


「変な趣味っスね~」


アイネとファイナに関しては公然と『変な趣味』と切り捨ててきた…。

まぁ、話を続けるか…。


「ま…まぁ、そんな感じで色々な惑星の色々な生物に転生して

 その生涯を体験していたわけだけど、18年前に地球人・春埼隆人に転生

してみたわけだ。

 あ…一応、補足しとくけど、元々、生まれる予定だった春埼隆人という

人間の身体を乗っ取った…ってわけじゃないからな。

 たまたま、『子供が欲しいけど両親ともに精巣と卵巣にちょっと問題があって

 子供ができない』春埼夫妻というのがいたので…ってか、人間としての

オレの両親なわけだが…その春埼夫妻の『子供が欲しい』という希望と、

『次は地球で人間に転生してみようかな』と思っていたオレの要望とが

合致したから、春埼夫妻の元に胎児として転生したわけだ。

当然、ウチの親…ってか、春埼夫妻はそんな事情は知らないけどな。」


「なるほど…」(ボソッ)


「そんなことがあったんスかぁ~…」


ここで、また、ヒーリスが疑問を投げかけてきた。

「ところで、創造主様は、つい先ほどまで、ご自身が『創造主』であることを

 お忘れになっていたようですが…?」


「あぁ、それは、転生中は自分が創造主であるという記憶を封印してるんだ。

 その方が、その生き物の生涯をありのまま体験できるからな。

 だから、本来、オレ…人間・春埼隆人はその生涯を終えるまで、

 自分が創造主であるという記憶は戻らないはずだったんだけど…。

 トラック事故に遭いかけて命の危機にさらされたことや、

 特殊能力(『強制転移』)をこの身で体感したことや、

 さっきオレの正体が『創造主』であることをオマエ達から聞かされたこと

 等が重なって、記憶の封印が解けちゃったんだと思う。」


「そうですか…。

アナタが『創造主様』だということ、お伝えしない方がよかったです

かね…。

なんというか…ごめんなさい…。」


「ごめん…。」(ボソッ)


「いや~…すんませんっス。」


3人とも頭を下げてきたが…

「あ…いや、別に全然責めてるわけじゃないんだ。

 ってか、トラックが突っ込んで来た時、『強制転移』してもらわなかったら、

 たぶん、そのまま死んでたし…。

 まぁ、肉体が死んでも、そのまま元の概念体に戻るだけなんだけどな。」


まぁ、話を切り替えるか。

「で、え~と…たしか悪い魔王を退治すりゃあいいんだっけか?」


「あっ…はい。

 最初の話の繰り返しになりますが、

魔王はこの世界…アルファザードを征服し、その後、異世界にも進出し征服

しようとしています。

 いずれは、地球にも魔の手が伸びるかもしれません。

 なので、命がけの戦いになるかもしれないのですが、どうか、ご助力をお願い

したいのです…というのが、当初のスタンスだったんですが…。」


「でも、創造主様が味方に付いてくれたから、もう勝ったも同然っスよね~♪

 創造主様のスキル『消滅』で魔王軍をまるごと消滅させるのもよし、

 最強のスキル『現実改変【最上位】』で魔王軍は最初からいなかったことに

するのもよし♪」


(この『基本宇宙』と無数に存在する『平行宇宙』を含めると、

『現実改変』を持つ者は少なからず存在する。

もし、敵対する者同士が『現実改変』を使用した場合は、スキルの格が

上の者が優先される。

そして、オレの使用する『現実改変【最上位】』は、文字通り最上位に位置し、

最優されるのである。)


「たしかに、創造主様は最強…。

 けど、創造主様の手を煩わせるのは、ちょっと気が引ける…。」(ボソッ)


「たしかに、創造主様は、この宇宙のみならず、平行宇宙や多次元も含めた

全ての中の頂点の存在…。

 いち世界…いち惑星の問題に創造主様の手を煩わせてしまうのは気が引け

 ますね…。」


「え~…でも、実際問題、アタシらと、この世界の人間&亜人種の

連合軍だけじゃ、魔王軍と戦うには厳しいじゃないっスかぁ~…。

 その点、創造主様なら『もう、創造主様ひとりでいいんじゃないかな?』

 って感じでラクショーじゃないっスか?」


「まぁ、そうだけど…」(ボソッ)

アイネとヒーリスは、創造主のオレの手を煩わすことに気が引けているようだ。


けど、さっきファイナが言っていたように、魔王軍を全滅させることなど、

オレにとっては、たやすいことだ。

ここは引き受けて、サクッと終わらせてやるか…と思ったその時、

オレの中でひとつのアイデアが閃いた。


「魔王軍退治の件、引き受けてもいいよ。」


「えっ…本当ですかっ!? ありがとうございますっ!!」


「ありがとう。 正直、助かる…」(ボソッ)


「さっすが、創造主様っ!!」



「けど、ちょっと条件がある。」


「条件…って、まさか、『魔王軍を全滅させる代わりにアタシらの

ナイズバディを一晩、好きにさせろ』的なことっスかっ!!?」(ポッ…)


「…創造主様、やらしい…」(ボソッ)


「そんな…でも、創造主様も今は人間…しかも17歳の男子ですものね…。

 そういうことを考えても仕方ないですよね…」



なんか、3人ともオレがエロ目的で引き受けるみたいに勝手に誤解している…。


「違う違うっ!! 条件って言い方がよくなかったな…

 要は、スキル『消滅』とか『現実改変』を使わずに、

 オレが、いち冒険者としてアルファザードの地上に降り立って、

 地上で知り合った仲間達と共に冒険しながら魔王軍を倒す…

 っていう冒険物語みたいのを体感してみたいんだよっ!!」



それを聞いた3人は…


「う~ん…創造主様だけチョー強過ぎて、冒険者とパーティーを組んでも、

一人だけ浮いちゃいそうっスけどね~…」


「…そうなりそう…」(ボソッ)


「普通、冒険物語と言いますと、『才能はあるけど最初は弱かった主人公が、

 仲間と共に努力して色々な危機や困難を乗り越えて徐々に強くなり、

最終的に目的を果たす。』という流れだと思うんですけど…

創造主様の場合、最初から、もうこれ以上ない…正真正銘の最強なわけです

から、物語が成り立たないんじゃないでしょうか…?」


そうか…この世界…アルファザードには、『オレTUEEE』という文化が

存在しないんだよな…。

…と言うか、おそらく、ほとんどの世界では、(今しがたヒーリスが

言ってたような)『弱かった主人公が努力して強くなる』みたいな物語しか

存在していないのだろう。

ひょっとしたら、『オレTUEEE』みたいな物語が存在してるのは地球だけ

かもしれないな…。


「え~と…そうだな…まず、地球には…ってか、日本には『ラノベ』…

 『ライトノベル』という文化(?)があるんだが…。」


「『ライトノベル』…直訳すると『軽い小説』…意訳すると『薄っぺらい小説』

 って感じっスか…?」


「いや、変な意訳しなくていいから! 最初の直訳の方の意味でいいから!

 …で、最近のラノベ業界では『オレTUEEE』ってジャンルが流行って

 いるんだ。」


「オレツエー…??」(ボソッ)


「まぁ、聞き慣れない…ってか、聞いたことない言葉だとは思うけどな。

 要は『主人公は努力もせずに最初から最強クラスで、その力で最初から

 無双しまくる。』…って感じの物語だ。」


オレの説明がうまくなかったのか、或いは、『主人公が努力して強くなる。』

物語に3人が慣れ親しんでしまっているからなのかはわからないが、

女神たちは3人とも怪訝な顔をしている…。


「え~っ…?? それ、面白いんスかぁ~…??」


「……」


「う~ん…『努力もせずに最初から最強』ですか…

私はちょっと面白さが分かりかねますかねぇ…」


しょうがないな…ここは実物を見せる…と言うか、読ませる方が早いだろう。

オレは心の中で念じた。

( 「『空間転移』! オレの部屋のラノベ本棚を全てこの場に転移する!」 )


よくよく考えると、人間に転生した状態でスキルを使用するのははじめて

だったのだが…

次の瞬間、オレの部屋のラノベが収納されている本棚が全てこの場に転移された。

人間に転生してもスキルは使用できるようだな。


「地球のオレの部屋から、『オレTUEEE』系のラノベがたっぷり入ってる本棚を

 転移した。 オマエ達もスキル『翻訳』で日本語読めるはずだから、

 オレが地上で魔王軍討伐の冒険に出てる間、できれば、このラノベを読んで

みてくれ。 まぁ、必ず合うとは限らないけど、読んでみないことには

面白さが分からないからな。」


3人ともやや困惑していたが、一応、了承してくれた。


…と、冒険に出る前にやっておかなきゃいけないことがあった。

まずは…

「『千里眼』!」

と声に出して発した。

(まぁ、心の中で念じるだけでも能力発現できるんだが、声に出して宣言する方が、

なんか、かっこいいからな。)


地球の…オレがトラックに轢かれそうになった現場のリアルタイムの情景が

頭の中に浮かび上がる。


トラックは店のシャッターを突き破って停止していた。

運転手は警察官に事情聴取を受けているようだ。

周囲には野次馬が3人いる。


…と、ここで、ヒーリスが話しかけてきた。

「あの…事故現場を『千里眼』で視てらっしゃいますか?

 私も今、『千里眼』で視ているのですが…」


「ああ。 あの事故の後、どうなってるか確認しようと思って。」


「では、私の方からも、事故後の状況を補足説明いたします。

 こちらに強制転移された創造主様が数分間、気を失われていた間のことですが…

 まず、運転手は飲酒運転でした。

 まぁ、ベロンベロンとまではいかないようですが…。

 で、運転手がハンドルを切りそこなって、創造主様が轢かれそうになったところを

 私どもで強制転移いたしました。

 トラックは御覧の通り、シャッターが閉まっていた店に突入して停止しました。

 店は留守でケガ人は奇跡的に出ませんでした。

 運転手も奇跡的に無事でした。

 運転手は警察の事情聴取に対して飲酒運転を認めています。

 ただ、『トラックで男子学生を轢いてしまいそうになった瞬間、学生が

光って消えた。』とも発言していますが…」


「うわ…マジかぁ~…ってか、やっぱ『強制転移』の瞬間、見られてた

かぁ~…」


「ですが、警察は『飲酒運転の酔っ払いの言うことだからと、

幻覚か白昼夢でも見たんだろう』と結論付けているようです。

 尚、野次馬3人は事故後に集まってきたので、事故の瞬間は目撃していません。

 なので、このまま『飲酒運転の酔っ払いの幻覚か白昼夢』ということで

 決着するかと思うのですが…。」


「なるほど…たしかに、このまま決着しそうだな。」


…と、その時…

「あ…運転手が動いた…」(ボソッ)

「なんか、見つけたみたいっスね…」

いつの間にか、アイネとファイナ『千里眼』で事故現場を視はじめていたようだ。


「あっ!!? あれってオレのバッグっ!!?」


そうかっ!!

トラックに轢かれそうになった瞬間、オレは反射的に身構えたのだが、その時に

手提げバッグを手放してしまっていた。

だから、オレの身体(と衣服や靴)は『強制転移』されたけど、

バッグは転移されずに残ってしまい、バッグだけ空中でトラックにはねられて

遠くに飛ばされてたのか…

なんか、この数分間であまりにも色々なことがあり過ぎて、バッグが手元から

なくなってることを失念していた…


まだ若干アルコールが残っている運転手がバッグに近寄り、

バッグをつかみ上げながら呟いた。

「…う~ん…このバッグ、どっかで見たことあるような

ないような…??」


「まずいな…あのバッグには写真付きの学生証が入ってるし、

 あの運転手は酔っぱらっていたとはいえ、転移直前のオレの顔や制服姿を

 見てるはずだ…学生証のオレの写真を見たら、

『あっ! こいつだよ! 目の前で光って消えたヤツ!』とか

『思い出した! このバッグ、消える直前にこいつが持ってたバッグだ!』

とか騒ぎ出しそうだな…

それに、名前やら通ってる高校やらも全てバレちまう… 」


ヒーリスも慌てている。

「あぁ…バッグのことまで気づきませんでした…

 ごめんなさい…どうしましょう…」


しゃーない…こんなことで使うのは、ちょっとアレだが、

面倒ごとになるよりはマシか…!


オレは右手を前にかざして、左手を右腕に添え、叫んだ!


「 『 現実改変 』!!

  このトラック事故自体をなかったことにするっ!! 」


ちなみに、先ほどのポーズや叫びには特に意味はない。

しいて言えば、『その方が、かっこいいかなぁ~』と思ったからだ。




…にしても、まさか、最強スキル『現実改変』を(魔王軍相手ではなく)

酔っ払いのトラックの運ちゃん相手に使うことになるとはなぁ… (^_^;)




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