異世界物ってMMORPGじゃないんですか?私だけ箱庭ゲームなんですけど
@Lady_Scarlet
ようこそ、妖精の森へ
「あー、紅茶が美味しいなー。ほっこりする」
ティーカップには私の好きなロイヤルミルクティ。
ミルクの優しい甘さと紅茶のフレーバーがとっても合う。それにロイヤルっていう響きがいいよね。
「あれ? こんなカップ持ってたっけ?」
カップをソーサーに戻しながら、ふと疑問に思った。
私の持っている物は大抵シンプルな物で、勿論ロイヤルコペンハーゲンやウエッジウッドなんて高級品は持ってないし、花や蔦が描かれたこんな可愛らしいカップも持っていない。
「あれ? ここどこ?」
ふと顔を上げるとそこは私の家ではなかった。
「カフェ?」
「何言ってるの、みるく!」
「えっ?」
声の主に目を向けると、小さな妖精さんがこれまた小さなカップで紅茶を飲んでいました。私のカップとお揃いです。
「えっじゃないの! 何寝ぼけてるの?」
まあ、仰るとおり寝ぼけているんでしょうね、妖精さん見えてるし。
「こんにちは、妖精さん」
「はい、こんにちはなのー、って、もうなの! 何なの何なのそのノリはなの! みるくボケちゃったの!?」
「そうかもー」
どうせ夢だし、妖精さんとの会話を楽しむことにしましょう。
妖精さんは金髪碧眼の可愛い女の子。妖精で日本人風って小さいおっさんしか聞いたこと無いもんね。
ハゲた小さいおっさんが、コップでお風呂に入ったり、テーブルの上で酒盛りを始めたりするとかいうやつ。見たこと無いけど。
「あれ、よく見たら妖精さんってココちゃん?」
「よく見るも何も、いっつも一緒にいるココちゃんなの!」
ココちゃんというのは私がよくやっていたスマホゲームのアシスタントキャラ。
スマホゲームで妖精なんて小さすぎてよく分からないんだけど、イベントとかでたまにアップになる。とっても可愛い。
「えー、妖精さんがココちゃんなら、私は?」
「みるくなの!」
「やっぱり…」
みるくというのは私のアバターネーム。ロイヤルミルクティが好きなのと、何か柔らかそうな響きが可愛いと思って。
特に平仮名にすると丸っこくて可愛いよね!
でも三十過ぎの私がそう呼ばれるのは恥ずかしい。
「いや、実際呼ばれると恥ずかしいなー」
「えー?なの。みるくが自分で決めたの」
「まあ、そうなんだけど。みるく、逆から読んでクルミってどう?」
というか、私の本名が胡桃なのだ。
「何言ってるの、みるくはみるくでしょ?」
「いや、私のフルネーム、クルミ・マーガレット・ミルクっていうの。ココちゃんにはファーストネームで呼んで貰いたいし」
嘘だけど。
マーガレットは何となく足してみた。クルミ・ミルクは流石に無いでしょ。 お笑いコンビみたい。
「そ、そうなの? 初めて聞いたの。それならクルミって呼んであげなくもないわなの!」
チョロ可愛いよ、ココ! どこのツンデレ令嬢なのよ!
「ココのこともココで良いの」
「うん、ココ! よろしくね!」
「ところで、ここってマイホームだよね?」
「当たり前なの」
まあ、夢なんだろうけどリアル過ぎるというか、ミルクティの味までハッキリしてるのが気になる。
まさかゲームの世界に異世界転移なやつじゃないよね。私の手とか体とかどう見ても子供だし、異世界転生だったりして。
ホームは私が自分でデザインしているので、小物類も可愛い物を沢山置いている。
ドレッサーとか姿見なんかもあるので、鏡で自分を見てみよう。
はい、可愛い。やっぱりアバター、みるくちゃんでした。
みるくちゃんは12歳くらい女の子で、元々金髪碧眼でフランス人形その物な甘ロリだったんだけど、ハロウィンコスで銀髪金目の小悪魔ゴスロリにしてたんだ。ヘッドドレスには二本の小さな角が付いており背中にコウモリみたいな翼、お尻には黒い尻尾がが付いている。
三十過ぎに甘ロリはキツイ。
良かったゴスロリ版で。きついけどまだマシ。いや、みるくにはとっても似合ってるけど、自分だと思うと精神的にね。
良かった顔も体もみるくで。似合うから許せる。可愛いは正義なのだ。
ゴスロリモードのみるくちゃんは、クールビューティーな可愛い女の子だ。
クローゼットで髪型や髪の色、目の色なんかを変更できる。課金アイテムだけど。
現実の私は仕事と人生に疲れ始めた独身オーバーサーティで、クローゼットにはスーツはあれどロリはないし、フェミニンな小物も碌にない。もちろんカラコンもない。
その反動がこの箱庭アプリに課金されているのだ。
この部屋には縫いぐるみもあるし、お花が沢山飾ってあるし、クローゼットには甘ロリ、ゴスロリは勿論、ウエディングドレスやナース服、メイド服、仕舞いにはセクシーなサキュバスコスなども並んでいる。
このゲームの箱庭はこの部屋だけじゃない。外に出れば畑があって野菜や果物を育てているし、ミニ牧場にはニワトリと乳牛、羊がいる。海や川に行けば泳いだり釣りをしたりもできる。
食材はゲーム通貨に換金もできるけど、ホームで調理可能で、友達を呼んでホームパーティなんかもできる。
時々動物がやってきてお土産をくれたりもする。
ほのぼのした箱庭ゲームなのだ。
「せっかくだから外も見てみよう」
「お出かけなの?」
「うん、散歩、散歩」
ココは飛んできて私の肩に腰掛けた。こら、耳たぶを吊革替わりにするのやめなさい。
ホームはツリーハウスになっていてとってもメルヘンで可愛い家だ。
ホームの外には畑と小さな果樹園がちゃんとあった。向こうで牛さんが草を食んでいる。
でもそれだけだった。
「「あれ、ここどこ?」」
ホームは村の中にあった筈なのに、周りは森。
森の中に私の家と畑だけがある。
「む、村がないの!」
ココは慌てて辺りを飛び回っていた。
「まあいいか、どうせ夢だしね」
「え、夢なの?なんだそうなの。それはそうなの」
ココがホッとしたような声を出した。
いや、ごめんココ。
正直なところ私は夢じゃなくて所謂(いわゆる)異世界転移ものなんだろうなと思っている。
とりあえず目の前の現実から目を背け、家の中へ戻った私達は夢から醒めるのを期待してそのまま床についた。
翌朝目が覚めると、予想通りそこは箱庭ゲーム『ブルーベル・フォレスト』のホームだった。
ブルーベルはアイルランドで妖精の花と言われる花で、ブルーベルが咲き乱れる森を妖精の森と呼ぶこともある。
だからアシスタントキャラは妖精で、森の中にある村にはブルーベルの花が所彼処に咲いていた。
どこかの国にはブルーベルの森に行った子供は、妖精に連れて行かれて二度と戻ってこないというお話もあったなぁ。
私も二度と帰れないのかな。
私を独りで育ててくれた母も去年亡くなり、日々の暮らしに疲れ果てていた私にとってはそんなに辛いことでもないけれど。
だって、ココもいるしね。
「朝だー!」
「な、なんなの!」
私が窓を開けて万感の思いを込めて叫んでいると、ココが吃驚して起き出してきた。
「良い天気だー! うおー! 負けるもんかー!」
「クルミ、うるさいの!」
怒られた。
「いや、やっぱり異世界転移してたみたいだから、ココと二人きりだし不安を吹き飛ばすために気合いを入れてたの」
「えっ、昨日夢だって言ってたの!」
「まあ、そんなこともあるって。朝ご飯食べよ?」
「か、軽いの!」
「だって重く考えても軽く考えてもどうしようもないし、深刻になっても疲れるだけだよ。シリアルでいい?」
「パンケーキがいいの」
文句を言っていた割にココも切り替えが早い。
「ああ、パンケーキ。いいねぇ。私もそうしよう」
ガスも電気もきてないだろうけど、キッチンは機能するのかな?
キッチンに行ってみると、冷蔵庫の中は冷えていたし、コンロやオーブンもちゃんと動いた。
ゲームには電子レンジは無かったので、この家にも無い。
食材は棚にあるのかなと思ったら、頭の中でアイテム欄が開いた。
アイテムボックスというかインベントリ機能はあるみたい。
小麦粉を探していたら、パンケーキそのものがあったのでそれを出してみる。
「わあっ!美味しそう!」
アツアツのパンケーキに生クリームとベリーが添えられたお皿が出てきた。とっても美味しそう。
当面の食材は残っているし、畑もあるから野菜も大丈夫。調味料や食材が無くなる前に街を探そう。牛さんや羊さんはミルクと羊毛を貰うためで肉用ではない、というか解体なんてできるわけがない。いざとなったら、ニワトリくらいなら解体も大丈夫かな? やったこと無いけど、つぼ抜きとかいうやつだよね?
「朝ご飯を食べたら周辺を調べてみよっか」
「うんなの。他の皆はどうしてるのかななの」
言われてみれば、他のプレイヤーやNPCもこちらに来ているのだろうか。
そもそも何故私は異世界転移しているのだろうか。
ここに来る前の記憶を辿ってみた。
憶えている最後の記憶。
私は仕事を終えてバラエティー番組を観ながらコンビニ弁当を食べた。
食後空箱を片付けもせず、ペットボトルのロイヤルミルクティを飲み、寝転がって『ブルーベル・フォレスト』をプレイしていた。
バラエティー番組はいつの間にか終わり、ファンタジーなアニメが映し出されていた。
角の生えたセクシーな美女が魔法を唱え、軍隊をなぎ払っていく。
疲れた私は殺伐としたアニメやゲームには興味がなかった。
私が求めていたのは癒しなのだ。
『ブルーベル・フォレスト』には戦闘が無い。
あえていうと、キツネや鳥などのハンティングくらい。
そのハンティングもどこか牧歌的というかのほほんとしていて緊張感もないものだ。
私はゲーム内の畑仕事を終え、ホームでハロウィンコスのうちの一つ、ゴスロリの小悪魔コスチュームに変更し、ロイヤルミルクティを飲むみるくの可愛さに身悶えしていた。
その時、部屋が突然揺れ出した。最近日本中で地震が多い。今回は結構大きいなと思いつつもそのままダラダラ寝転がったままテレビに目を遣った。
テレビでは魔法陣が輝き、王女様が召喚魔法とやらを唱えており、画面の上の方で地震速報のテロップが流れていた。
そして魔法陣の輝きが一際強くなったとき、スマホから大きな警報が響き渡り、世界は白い光に包まれたのだった。
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