空を泳ぐ鳥

ロッキン神経痛

雲上の二人

 ゴウンゴウン


 規則正しい内燃機関の音がする。

 蒸気と鉄の匂いでいっぱいになった動力室の片隅。


 その大人達からは見えづらい位置にある小さな窓を食い入るように覗き込む二つの小さな影があった。


 二つの小さな影は、フレームが錆びて歪み、風がガタガタと吹き込む窓から、下の世界を覗いている。雲の切れ間から見える世界は、引き込まれそうなくらい深く綺麗な青色で、落ちていかないように、互いの小さな手と手をぎゅっと繋いでいる。


「トルタ――見て、鳥が泳いでるよ」


 そんな幼い声と一緒に、ふわふわした栗毛が、興奮がちに揺れている。

 小さな指が差す先には、真っ青な海の上に垂らした一滴の絵の具みたいに、白くて大きな鳥が一羽飛んでいた。


「ちがうよティア、鳥は飛ぶっていうんだよ」


 こないだシゲ爺に教わったんだ、と自慢げに言うのはトルタと呼ばれた男の子だ。


「でも、でも泳ぐ鳥もいるって聞いたよ」


 同じくシゲ爺から聞いたと、ティアと呼ばれた少女も言い返す。


「ふうん、泳ぐ鳥もいるんだ……」


 そう、シゲ爺が言うなら間違いないのだ。

 彼らは雲の下の世界のことは何も知らない。


「コラッ、がきんちょ共!ここに入っちゃならんと言っとるだろが!」

「きゃあ、逃げろー!」

「あはは、逃げろ逃げろー!」


 突然大きな声が動力室に響くと、それを合図に小さな二人は立ち上がり、工具を片手に首からタオルをかけた老人の横を駆け抜けた。


「まったく……」


 ゴウンゴウン


 規則正しい内燃機関の音がする。

 静かになった動力室で、老人はやれやれとため息をついた。

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